(6)totter-3
たっくんの部屋に到着した二人は私のことを話していた。二人とも夜になると右隅に現れると思っているみたいだけれど、私はもうここにいるんだけれど。姿が見えるのが、夜の、あの場所なだけ。
恐らく、あの日、私を初めてたっくんが目撃した日、私の溜まり溜まった恨みが爆発したのだろう。だから、あの場所で夜になったら、私の姿が見えるんじゃないかな。
彼の話を信じたのか、紅は夜になるのをじっと待っていた。私も紅の隣でずっと待っていた。
「ねぇ、香は他に何も言ってなかったの?」
「たっくんには他に何もお願いしてないわ。あの女とも別れてくれたみたいだし」
「お前を連れて来いってことだけだ、それ以外は言ったことない」
「ありがとう、たっくん。私、あなたのこと許すわ。
ねえ、紅。私、あなたに聞いてほしいことがあるの。私、紅のこと憎くて憎くて堪らない、でもね、その反対にこんなに愛してるのも紅だけなのよ」
きっとそれを伝えられたら、私、未練がなくなるような気がするの。そう思ったらつい、感情が高ぶって、その影響なのか、部屋の電気がすべて消えてしまった。
いつの間にか、外はもう真っ暗になって太陽は沈み切り、夜になっていたのだ。
「うわぁああ」
たっくんは真っ暗になっている中でも、私の姿を見つけられたようだ。まだ、いつもの場所に立っていないのに。
「ただの停電でしょ! ブレーカーあげるから、どこにあるのよ!」
「く、来るな! 俺が悪かった! 頼むから! やめてくれ、頼む、許してくれ!」
たっくんはパニックになり、息が上手く吸えておらずに過呼吸になっていた。
私はそれを助けようとゆっくりと彼に近づき彼の背中を撫でた瞬間、彼はあまりに驚き過ぎて死んでしまった。
人間はこんなにも、簡単にショック死してしまうものなのかしら。それとも、今までの恨みや怒りが募り過ぎたから、触れただけで人を殺めてしまう力を持ったのかしら。
紅に触れたら、紅もこっちに来てくれるのかしら。
たっくんに気を取られている間に、紅は壁伝いに歩き出した。もしかして逃げるつもりなの。
「許さないわ! 紅、こっちを向きなさい! 聞こえているでしょう!」
そう言っても紅はこちらを一切振り向くことなく、トイレに入って行った。私も後をついていく。
「ねぇ、紅! まさか聞こえてないの? 私が見えてないの? たっくんやあの女にだって見えていたのに?」
何度も紅に触れようとしても、幽霊になった身体で通り抜けてしまい、触れることも叶わない。たっくんは背中に触れた瞬間死んだのに、紅は死なないどころか気付きもしない。
「だからブレーカー落ちてただけだってば、男の癖に大袈裟ね」
なんでもなかったようにブレーカーを上げて部屋の電気を点けた紅の前に、私は立っていた。涙が止まらなかった。
紅の目には、やっぱり私は映っていなかった。
「ちょっと、星田? 星田ってば!」
たっくんの異変に気付いた紅は、私の身体をすり抜けて、彼に駆け寄った。
「紅、わかったわ、どうしたってあなたは私に愛を返してくれないのね。酷い女だわ、でも私は本当にあなたが好きだった、愛していたわ。私はきっと、愛を注ぐ相手を間違えたのね」
私は、あなたとシーソーで遊ぶ為に、私とあなたの愛が同じ重さになるのを待つんじゃなくて、あなたじゃない同じ重さの愛を返してくれる子を探すべきだったのね。
そうしたら、私もあなたも、楽しく遊べたのかもしれない。
「さよなら、紅」
もう二度と会うことはないわ。
そう言った時、身体中の恨みや怒り、悲しみの黒い感情がなくなって、軽くなった。紅を憎み、愛すことを諦めた私は、この世への未練がなくなったようだった。
私の身体が消滅しようとした瞬間、やっと紅がこちらを見た気がした。
最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
短い話でしたが、一応完結ということで、ちょっと長めに後書きを書いてみる試みです。
大変今更ながらですが、teeterの話が紅の視点、totterの話が香の視点でした。書き分けがあまり上手くできていないので、わかりづらかった方、申し訳ありません。
もっと加筆して救われない感じの話にしたかったのですが、力量が足りず、尻すぼみなまま終わってしまいました。
次ホラー(これをホラーと呼んでいいのか微妙なのですが)に手を出す時は、救われないを命題にして精進します。
ここまでご覧くださり誠にありがとうございました。




