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(5)teeter_3

 星田は大学近くに一人暮らしをしているらしい。連れて行かれた部屋の中を見た瞬間、私は思わず顔をしかめた。部屋は散らかり放題というか、そこら中に物が落ちていて、特に一カ所、奥の右の隅に物が集中して落ちていた。

 まるで、そこに立っている何かに向かって物を投げつけたように。


「ちょっと、人のこと部屋に呼ぶつもりなら、少し片付けたらどうなの?」

「そこに、夜になるとそこに、香が立ってるんだ」


 呆れながら投げかけた私の質問に答えることなく、星田は部屋の奥の右隅を指さしながらそう言った。


「香が立ってる? ふざけたこと」

「本当なんだ! 瞳、別れた彼女も一緒に見たんだ! それから毎晩そこに立って、紅、紅を連れてきてって言うんだよぉ! もう、俺頭おかしくなりそうなんだ、どうにかしてくれよ!」


 泣き叫ぶようにそういうと、星田はその場に蹲った。それが悪ふざけには到底思えず、私は香が立っているという部屋の隅を凝視した。勿論、そこには物が散らかっているだけで誰も立っていなかった。


 星田が言うには、夜になると現れる香の幽霊は


「紅をここに連れてきて」


と星田に恨めしそうに言うそうだ。もしかしたら、私と星田を憑り殺そうとしているのかもしれない。

 現に、星田は今にも死にそうなくらい震えながら布団の上に座っている。特に会話することもなかったが、沈黙に耐えられず、


「ねぇ、香は他に何も言ってなかったの?」


と問い掛けた。星田は震えながら


「お前を連れて来いってことだけだ、それ以外は言ったことない」


と答えた。どうして香はここに私を連れて来たかったのだろう。何かこの場所に思い入れがあるのだろうか。

 そんなことを考えていた時だった。突然電気が消えた。


 思わずその場で硬直してしまったが、星田はもっとパニックを起こしたようで


「うわぁああ」


と悲鳴をあげていた。


「ただの停電でしょ! ブレーカーあげるから、どこにあるのよ!」

「く、来るな! 俺が悪かった! 頼むから! やめてくれ、頼む、許してくれ!」


 会話にならない星田に舌打ちをして、そういえばさっきトイレを借りた時、中にブレーカーがあったことを思い出した。

 壁伝いにトイレにたどり着き、中にあったブレーカーを上げたらトイレの電気が点いた。ほっとして外に出て


「だからブレーカー落ちてただけだってば、男の癖に大袈裟ね」


 そう言って、部屋の電気を点けたら、布団の上で星田がだらりと四肢を投げ出して倒れていた。


「ちょっと、星田? 星田ってば!」


 揺さぶっても星田は起きず、息をしていなかった。信じられないが、本当に星田の言う通り香はここにいたのかもしれない。

 星田のことは、きっと、香が連れて行ったのだろう。そして、次は私の番なのか。

 そう思った瞬間、膝から下の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


 依然として私には、香の姿は見えないのに、この場にいるのかもしれないと、そんな恐怖が湧いてきて動けなくなった。それと同時に悲しくなった。星田とその元カノにだって香の姿は見えたのに、どうして私には見えないのって。

 

 私は香に無理矢理シーソーに乗せられて、そのまま香がいなくなってしまったような、そんな虚しさに襲われた。

 動かなくなったシーソーから、降りることすら許されず、遊び相手の香も二度と帰ってこない。

 

 ねえ、香。あなたは私のこと、本当はどう思ってたの。どうして私の前にだけ、姿を現してくれないのよ。


「紅」


 なんだか、香に名前を呼ばれた気がして辺りを見回したけれど、やっぱり姿は見えなかった。


ご覧くださりありがとうございました。

次でラストです。

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゜●。お品書き。●゜
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