(3)teeter_2
香の葬儀の時、私は香の両親から何か死因はわからないか、と泣きながら尋ねられて閉口した。
彼女は遺書も何も残さず、私が香の手を解いて講義に出席した間に、三号館の屋上から飛び降りて死んでしまったのだ。
「香さん、彼氏と別れたって、泣いてて」
絞り出した声は震えていて、それは香が死んだ悲しみからではなく、自分が香の死の原因だという恐怖からだった。
それ以上、言葉を紡ぐことはできず、すみませんと頭を下げると、香の母親が
「紅ちゃんが謝ることないわ、あの子が悩んでることに気付けなかった私たちが悪いのよ。良かったら最後のお別れを言ってやって頂戴。香は、紅ちゃんのことが大好きだったから」
と、深々と頭を下げるので、お辞儀をし返してお焼香をしに祭壇に近付いた。居たたまれない気持ちで遺影を見詰めると、なんだか笑っているはずの香が段々とこちらを睨み付けているような気がして、不意に目を逸らした。
香が亡くなって、私は色んな人から声をかけられた。あの日、香と私のやりとりを見ていた人から、
「ちょっとおかしかったもんね、吉村さん。山咲さんも災難だったね」
とか
「あんなに取り乱すくらいに、よっぽどその別れた男のこと好きだったんだね」
とか、いつのまにか広まった、香が男に振られて自殺したことについて、好奇心いっぱいの目をしながら、情報を聞きに来られるのだ。
皆、香が変わった奴だという認識だったのか、私やたっくんとやらを悪く言う人はあまりいなかった。
私はなるべく多くを語らないように必死だった。だって、今までだって似たようなことは何度もあった。振られたとか、浮気されたとか、他の女と仲良くしてるとか。
そのたびにあれくらい火が付いた赤ん坊のように泣き喚いて、
「死ぬ死ぬ」
と言いながらも、死ぬことはなかったのだ。唯一、私が
「ああ、そう。好きにすれば」
と言った今回を除いて。これが周囲の人たちに知れたら、彼氏の所為で死んだのではなく、私が殺したと思われても仕方ない。いや、事実そうなのかもしれない。
そんな罪悪感と焦燥感を綯い交ぜにした気持ちで過ごしていたら、ある講義終わり、知らない男に声をかけられた。
「山咲紅て、あんた?」
「はあ、どちら様ですか」
「俺、香と付き合ってた、星田卓也」
この真っ青な顔で話しかけてきた、少しやつれた男が件のたっくんだった。私はこの男に対して今まで何の感情も抱いていなかったが、本人を眼の前にすると、沸々と怒りが込み上げてきた。
そもそも事の発端はこの男なのだ。それが今更私に何の用なのか。
「なんですか」
「あんた、香の親友なんだろ、聞いてほしい香の話があるんだよ」
「私は話すことなんてないわ、さよなら」
待ってくれという声を背中に聞きながら、速足でその場を立ち去った。きっと、良心の呵責に耐えきれなくなって、懺悔でも聞かされるに違いない。
そんなこと、絶対にさせるものか。私がこんなに苦しんでいるのに、彼奴だけ楽になるなんて許せない。
その日から、私は星田に付き纏われることになった。彼は、話を聞いてほしいと言うわりに、勝手に話し出すことはなく、
「香の話を聞いてほしい」
と言うだけだった。
あまりにしつこく言ってくる上に、明らかに最初に声をかけてきた時よりも更にやつれている姿に、この男まで死なれては困ると思ったのだ。
「一体何なの? 毎日毎日、話したいなら勝手に話せばいいじゃないの。それに私以外にも聞いてくれる人いるんでしょ? 新しい彼女とか」
「瞳とはもう別れたんだ、とにかく、お前に聞いてもらわなきゃ困るんだよぉ」
とうとう泣き出したたっくん、もとい星田は、困惑する私に、
「とにかく、俺の家に来てくれ。頼む」
と、土下座でもせんばかりに頭を下げてきたのだった。
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