(2)totter-1
愛の重さは平等でないといけない。どちらか片方が大きい愛を向けるなら、相手も合わせて大きくするべきものだ。
それこそ、母と子や付き合い始めたカップルなんかは、お互いがお互いを愛することで、相乗効果的に愛が大きくなっていくだろう。
シーソーを思い浮かべてほしい。あれが上手く機能するのは、同じ体重の子が遊ぶ場合だ。あるいは重たい一人に対して、複数人が同じ重さになるまで、乗っていくしか上手く遊べないのだ。
つまり、私が言いたかったのは、大きい愛を向けられている者は、その相手に対して釣り合うような愛情を返さないといけなくて、間違っても、その愛を裏切る行為をするべきではない。
眼の前で私が泣いているのを、適当にやり過ごそうとしている紅みたいに。
「いい加減泣き止みなよ、香。この世に男は星の数ほどいるんだからさ」
「私は男が好きなんじゃないの! たっくんが好きだったのよ!」
山崎紅は、所謂親友だった。中学の時から、私、吉村香と山咲紅は出席番号が近いことで仲良くなり、それ以来、私はずっと一緒にいられるようにと努力してきた。
高校も大学も私より頭の良かった紅の志望校に受かるように勉強した。
けれど、紅はいつからか一緒にいる努力を一切しなくなり、私ばかりが紅の為に合わせるようになっていた。
今日も、彼氏のたっくんの浮気現場を目撃して、そのまま、
「お前は重いんだよ、もう疲れた。別れよう」
と言われてしまい、悲しくて死にそうな私が話を聞いてもらおうと連絡しても、全然応えてくれなかった。
今日は紅は午後からの講義のはずだし、連絡できないはずないのに。何度かメールも送って、電話もかけたら漸く
「もしもし」
と眠たそうな声で電話に出た。その声を聞いた瞬間、私の怒りは爆発してしまった。
「酷いよ紅、私何度も連絡したのに何度も何度も連絡したのにどうして出てくれなかったの! とにかく今すぐ三号館のカフェに来て、もう私辛くて死にそうなの、今すぐ来てくれないと私本当に死ぬから!」
怒りに任せてそう言い、興奮のあまり電話を切ってしまった。私はいつも紅に合わせて無理をしているのに、私のことを軽んじるような紅の態度が許せなかった。
私は紅が大好きだ。愛している。
確かにたっくんのことも愛しているけれど、それはまた別の愛だ。ただ、この世に1種類しか愛がないとしたら、一番愛を捧げているのは間違いなく紅だ。
そんな紅に蔑ろにされるのは本当に辛くて、涙が止まらなくなった。
電話から大分経って漸くやって来た紅は、涙が止まらず机に突っ伏している私の肩をトントンと叩いて、
「ちょっと、香、恥ずかしいから少しは堪えなよ」
と言った。私はまた体中の血が怒りで沸騰したようにカッと熱くなって、
「酷い! 電話にも全然出てくれなかったし、来るのも遅い! 紅は私が死んでも平気なのね!?」
と叫びながら机に突っ伏した。
私は知っているのだ。紅はとても鈍感だから、ちゃんと私がどれくらい傷ついているか、悲しんでいるかを言葉にしないとわかってくれないのだ。
案の定、私が傷ついていることにやっと気が付いた紅は
「そんなことないよ、心配だからこうやって来たんでしょ。何があったか教えてくれないの?」
と諭すように背中を撫でてくれた。
「あのね、たっくんが別れようって言ってきたの」
少し落ち着いてきたから、私がどんなに彼を愛していたか、尽くしてきたか、そんな彼から酷い裏切りを受けて傷ついたか、でもまだそんな彼が好きで、今どんなに辛いかを一生懸命話した。
紅はずっとよくわからないという顔をしていたから、できるだけ鈍感な紅にもわかるように説明したのに、
「いい加減泣き止みなよ、香。この世に男は星の数ほどいるんだからさ」
と言われたのだ。私は信じられない気持ちでいっぱいだった。
こんなに説明しても、紅は私を理解してくれない、いや、私を理解しようとすることを怠っている。
「あんたがたっくんを好きだったのはもう充分わかったから。でももう別れることになったんでしょ? だったら、新しい恋するしかないじゃない。もう私、講義始まるから行くからね」
席から立ち上がった紅に、私は俯いたまま
「酷い」
と呟くしかなかった。ショックだった。たっくんに裏切られて、私は紅にまで裏切られた。
縋るような思いで、紅の服を掴み、
「今、行ったら私死ぬから。本当に死ぬから」
と言った。紅は私の手を解いて、今まで聞いたことないような冷たい声で
「ああ、そう。好きにすれば」
と言って立ち去ってしまった。
私は呆然と紅の遠ざかる背中を見詰めていたけれど、カフェを出て屋上へ向かって、次に気が付いた時には自分のお葬式を見ていた。
ご覧くださりありがとうございました。




