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グロウ・ソウル  作者: PIERO
始業式襲撃編
7/57

日常から混沌へ

次の話です。

 午前五時。薄暗い街の中、街灯は未だに点灯していた。時刻的には既に街灯は消えてもおかしくはなかったが、まだ春前ということもあるのか、日は昇っていなかった。


 その明るくも暗い街中を和貴は制服を着て駅に向かっていた。理由はただ一つ。梶山に呼ばれたからだ。電話の声からしてかなり焦っていることを理解できたが、何故焦っているのか寝起きの和貴にはそれを探る意識もないため、原因が分からなかった。


 駅に到着した和貴は、始発の電車が現れるまでホームのベンチに座った。電車が来るまで三十分ほどかかる。その間、和貴は冷気を纏った風に当てられながら、何が原因で梶山を焦らせているのかじっくりと考えることにした。


(梶山さんがあそこまで焦っているということはかなり事態は深刻のようだな。基地で起こっているのかあるいはそれ以外の場所で起ころうとしているのか?)


 そこまで考えた時、和貴は昨日の叶との雑談を思い出した。叶は確か蒼鳥が大きな作戦を起こそうとしていると言っていた。つまり、今起きている騒動がそれかもしれない。


 和貴はこれから起こる被害を想像し、悪寒が走る。万が一、街を巻き込むような大掛かりな作戦だとしたらその被害は計り知れない。敵が蒼鳥である以上、その可能性は否定できない。


 そんなことを想像していると、始発の電車が現れてた。ここで焦っても気を取り乱すだけと和貴は自身の心に語り掛け、いったん気持ちを落ち着かせた。


(目的の駅までにはまだ時間はある。本当にそうだとしても、俺一人でどうにかできる問題じゃない。通りあえず、基地についてから話を詳しく聞こう)


 そう決めて目的の駅に到着しようとしたその時、電車に乗っているにも関わらず、基地の空気が普段と違っていることを和貴はすぐに悟った。


 電車から降り、改札口から急いで出た和貴は駆け足で基地に向かった。基地に到着すると、いつも通り門番が立っており、外見上は特に異変が無いように思われた。しかし、門番の表情はいつもと違ってどこか緊張感に包まれていた。


 和貴は門番にすぐに軍隊証を見せて、基地に入っていった。基地中は予想通り、武器を車に乗せたり武装している兵士が集まっていた。


 和貴は梶山がどこにいるのか探し始めた。時間がかかると思っていたが予想に反してすぐに見つかった。何故ならこんな状況下なのに唯一武装せずにいつものスーツ姿でいたからだ。


 しかし、他の軍人に命令しているところを見ると、どうやらかなり多忙であることがわかる。だがそんなことは関係ない。和貴は梶山に近づくと、梶山も気が付いたのか和貴の所へ寄ってきた。


「梶山さん。これは一体何が起きているのですか?何故こんな朝早くから出撃準備をしているのですか?」


「悪いけどあまり長く話せる時間が無い。手短に話す。本日の深夜三時に別の基地に所属している予知能力者が政府を襲撃するという未来を見た。予知によると敵の数はおよそ一千を超えると言われた。だが、肝心なことにどうやって敵が襲撃してくるのか不明だ。そのため我々のほとんどはは政府の護衛に着くことになった。残りは今日和貴の学校で行われる戦術披露のスタッフ兼敵の侵入が無いか確認するために私を含め残る者が何人かいる」


 梶山の説明を聞いて和貴はこの異常な空気の理由を理解できた。だがその説明だけだと何故和貴がここに呼び出されたのか理由がわからない。するとそれを予知したかの様に梶山は話を続けた。


「だが、問題が一つあってな。敵は和貴の学校にも襲撃を仕掛けるらしい。ここまで手広く敵が攻めてくると我々の基地の軍隊だけでは守り切れない。学校を休校にしようといたが、上の役人(ばかども)がそれだけはだめだと断ってきた。別の手段として、先ほど他の基地からの要請を送ったがそれでも準備やここに来るのに時間がかかるだろう。話が長くなったが、和貴には軍の援軍が来るまで学校を守ってほしい。任務として言うと『学校を警備し、現れた敵を無力化または排除し学校の生徒の安全を守れ。』だ。これは特権を用いて命令する!」


 和貴は反射的にすぐに敬礼して返事をした。そのことを確認した梶山は他の仕事があるのか、すぐにどこかへ行ってしまった。一人残された和貴は改めて今の状況を把握していた。


(特等の特権を使ってでも俺に任務を与えたということはよほど危機的状況なのか)


 梶山さんの他、五人いるとされている特等には二つ特権を持っている。一つは天災の英雄が住んでいると言われている月宮殿の立ち入り。もう一つの特権は、緊急時の時のみ誰かに任務を与えることである。


 本来ならば手間のかかる手続きを行ってから部下に任務を与えなければならないが、特等の階級は緊急時のみ、その手続きをしないで部下に任務を与えることが出来る。


 改めて事の重大さを理解した和貴はすぐに基地を後にし、学校へ向かった。


 電車に乗り、和貴が最初に考えたことは敵がどうやって学校に侵入してくるかということだ。昨日調べた結果、その侵入ルートを見つけることが出来なかったが、唯一あまり調べることが出来なかった場所があった。


(考えられるのは職員室だな。先生がいたせいであまり調べることが出来なかったが、そこが一番可能性が高い。ということは、蒼鳥と教師はグルだったってことか?)


 今日学外にいる先生は、学園長他七名だけだ。学内に残っている先生は十三人。だが情報が少ない今の状況では、誰がスパイなのか特定することは困難だった。。


 だが、そんなことは関係ないと和貴は今の考えを頭の隅に移動させる。スパイは敵を生け捕りにして吐かせればいいと結論を出し、和貴はこれから始まる戦いの戦略を考え始めた。


(こっちの勝利条件は敵の殲滅または軍の援軍が来るまで耐える籠城戦。敵がどこから侵入してくるかわからない以上、最初はこちらの守りを固める必要があるか)


 流石に正面から侵入してくるほど愚かではないと思うが、敵戦力が把握できない以上、可能性が無いとは言えない。学校から一番近い駅に降り、和貴は走って学校へ向かう。街の様子は依然と変わらず、賑わっている。とてもこれから戦いが始まるとは思えない空気だった。


 和貴が学校に到着した頃には、既に他の生徒が学校に来ていた。この空気に慣れていないのかおどおどしている生徒や親が近くにいる生徒は間違いなく新入生だろう。


 まだ戦いが始まっていないと確認した和貴は、今日起こる出来事を皆に説明するために、自身のクラスに向かった。


 EX教室の扉を開け、中に入ると室内には和貴が一番苦手としている神崎有樹が椅子に座っていた。


「珍しいな劣等生。真面目なお前が俺よりも遅く来るなんてな。・・・何があった」


 いつもなら和貴にくだらない因縁つけて絡んでくるが、今回ばかりはそうこなかった。それどころか、いつもとは雰囲気が違っていた。恐らく、有樹も今の状況を把握しているようだった。


「軍に行っていた。その口ぶりだと有樹もある程度は知っているようだな」


 有樹は無言頷き、和貴の質問に肯定した。教室に来ていない他のクラスメイトも、今頃は軍から学校の状況説明を聞いているはずだろう。


「となると、各自やることは決まったな」


「仕切るな()()。作戦はお前に任せる。戦闘は俺に任せろ。後は偵察が一人いればいいが…。まぁそれは後にしよう。問題はいつ襲ってくるかだな」


 有樹の言う通り、敵がいつ襲ってくるかで作戦のプランが大きく狂ってしまう。現時刻は八時半。始業式が始まるまであと三十分。みんながいつ来るかわからない以上、迂闊な行動をすることはできない。


(敵が少数ならともかく、大人数だったら戦力差で負ける可能性があるな。今日学校にSクラスがいないことが悔やむが、ないものねだりはしても無駄だな)


 もしかしたら一部の先生もこの事態を知っているかもしれなかったが、今ではそんな希望はなかった。仮に知っていたとしたら、真っ先にスパイに殺されている可能性が濃厚だったからだ。


「有樹、俺は念のため職員室の様子を見てくる。もしかしたらまだ体育館に行っていない先生がいるかもしれない」


「正気か?教師が敵だったらどうする?何もできないまま、俺達は死ぬぞ?」


「だからこそ、今の職員室の状況を把握しないといけないんだ。他のみんなが着たら教室で待機してくれ」 


 和貴は有樹の止める声を聞かずにに職員室に向かった。だが、和貴はすぐに後悔する。せめて護衛の一人でも連れて行けばよかったと。




 和貴が通っているこの学校『日本軍事第三高等学校』は外見は四階建てに見えるが、実は五階建ての校舎である。


 一階には、下駄箱、職員室、校長室の他、多目的室が複数ある。今回始業式で使っている体育館も一階だ。


 二階以降は学年が若い順に一年生の教室、二年生の教室…と続いているが、昔より人口が減ったため、空きの教室が複数ある。


 誰もいない空きの教室を除いて他の部屋には実験室、家庭科室、音楽室の三つが二階から順に上るように設置している。


 そして、EXクラスの生徒と関わっていない人は四階までしかこの学校の教室知らない。五階に何があるのか知っているのは和貴達EXクラスの学生と一部の教師、そして和貴達に関わってきた友人だけだ。


 五階にはEXクラスと謎の部屋が一つある。補足で説明するが、EXクラスに学年はない。何故ならEXクラスは世間で言う飛び級が集まった教室だからだ。実際、本来ならば和貴よりも学年一つ下の同級生もいる。そしてもう一つは先生の指示を全て聞く必要がないということだ。(それでも、大体は言うことを聞くが)これはEXクラスの生徒は学生として扱うと同時に、軍人として扱うからだ。


 そして五階にはもう一つ教室がある。それは開かずの間と呼ばれている教室であった。


 開かずの間は何があるか誰も知らない。噂によると戦争が始まる前の昔の教科書があるなどと言われている。二年生の時、和貴は理雄と一緒に力ずくで扉を開けようとしたが、びくともしなかったため断念したこともある。


(まぁ、敵がそこから侵入してくることはないと思うけどな)


 今の時刻を確認するべく、腕時計の時刻を確認した。現在の時刻は八時半。そろそろ、他のEXクラスのメンバーが集まって各自の役割を理解して行動準備を行っている頃だろう。


 四階と三階は、いつもの学校と同じ雰囲気で笑い声が聞こえていた。静寂とは真逆で騒々しかったが、それこそ今はまだ異変が起こっていない証拠でもあった。


 二階は三階や四階と対照的に静かだったが、これは新入生が体育館に移動していることを知っていたため、あまり気にはしなかった。


 そして一階に降りた。廊下は無人ではなく、先生が歩いていることからまだ始業式が始まっていないように見えた。職員室にまだ電気がついていることから室内に何人かいることが推測できる。和貴は内心警戒して、扉をノックした。すると、教師が一人職員室から現れた。


「おや?何でここに来ているんだい。君は教室に待機だろう。何で職員室に来ているんだい?」


「今日の始業式のプログラムを知りたかったからです。プリントのような物があればそれを一枚渡してもらえませんか?」


 先生はプリントを取りに行くために一度職員室に戻っていった。和貴もそれについて行って職員室に入っていった。


 職員室の中はいつもと違って数人しかいなかった。どうやら先生の多くは体育館に向かってしまったようだ。


 周りを見てもそんなに異変は起きていなかった。たった一つを除いて。


 すると丁度先生がプリントを取ってきた。俺はそのプリントを受け取ると先生が注意をするように俺に話しかけてきた。


「じゃあ、速く教室に戻りなさい。先生はこれから体育館に向かうから職員室には誰もいなくなるからね」


 職員室から出ようとした時、俺は確信をもってその先生に質問した。


「ところで先生……()()()()()?何故俺達に指示をする?」


 すると先生は目を点にして驚いていた。無理もない。今まで大人しくしていた生徒がいきなり口を悪く言ってきたのだ。驚くことが普通だ。


「な、なにを言っているんだい君は?先生が生徒に指示を出すのは当然じゃないか」


「普通はそうだが、EXクラスは例外だ。そもそも、俺は記憶力はいい方でね。あんたの顔は見たことがない。言い訳はあまりしない方がいい。自分の首を絞めるだけだからな。もう一度聞く。お前は誰だ?」


 すると先ほどの焦り顔から一変、先生に変装していた敵は狂気的な笑い声をあげ始めた。そしていつの間にか何かのボタンのような物を手に持っていた。それを視認した時、和貴の本能的な警告が頭の中で最大音に鳴り響いていた。


「本来の作戦とは違うがぁ~!!始めるとしましょうか~!!」


 和貴はそのボタンが何か悟り、すぐに職員室から出た。ポチっと起動音が鳴った瞬間、職員室が爆発した。


 職員室の窓ガラスが割れる音が響き、扉は爆風によって飛ばされる。爆発音は恐らく学校中に響き渡っただろう。


「痛ッ…あいつ、まさか自爆するとは。流石に予想できなかった」


 幸運にも扉が盾となって爆風の影響を受けなかった和貴は、爆破された職員室の様子を確認するために中に入った。


 和貴は今の自分の体の状態を確認した。重傷はなさそうだが、先ほどの爆発音で耳鳴りがひどい。しばらくの間、物音が聞こえずらくなっていた。


 だが、これくらいなら問題はないと和貴は判断し、職員室の状況を確認するために中に入った。


 職員室は所々燃え、黒煙が漂っていた。机に乗っていたパソコンも画面が割れている物や、爆風によって落ちてしまい全て使い物にならなくなってしまった。運悪く爆発に巻き込まれた先生は意識こそなかったが、命に別状はなさそうだった。自爆した本人の意識を確認するが、やはりというか当然の結果だが死亡していた。


(にしても、これほどの煙が発生しているというのに火災報知器が鳴らないのは異常だな。学校中の火災報知器が鳴らないように細工をしたのか?)


 ここで考えても意味がない。体育館は元々防音対策はしているため、先ほどの爆音は聞こえていないだろうが、三階や四階は爆音が響いて確認するために近づくものが少なからずいるだろう。


(とりあえず、一刻もこの場から離れることが先決だな。もたもたしてると、敵が攻めこんでくる…)


 和貴はこの職員室から出て、この出来事を有樹達に伝えるべくEXクラスに戻ろうとした。


 刹那、背後から凄まじい殺気を感じ取った。この場に立っていると間違いなく殺される。和貴はそう感じとり、受け身を考えず、身を投げ出すようにその場から距離を取った。


 すると、さっきの爆発音よりは小さい音だったが、殺傷力が高い武器が壁を抉った音が鳴り響いた。振り向くと、先ほど俺が立っていた場所にハンドアックスがめり込み土煙が舞っていた。このまま殺気に気付かなかったらどうなっていたかは想像に難くない。


 土煙の中には理雄と同等の背丈を持つ人影が見えた。いや、人影にしては形が奇妙すぎる。しかし、その疑問は土煙が晴れ瞬間すぐに納得した。


 その人影は人ではなかった。本来、この日本にいるはずのない怪物『戦闘族(せんとうぞく)』であった。


 戦闘族は現在の戦場でもよく見かける種族である。彼らの多くは、戦車すらも簡単に投げるほどの怪力を持ち、個体の多くが好戦的な性格なことから戦闘族と呼ばれている。


 それだけならば、怪力を持った人間と考えればいいが、戦闘族は人間と身体的に違うところがある。それは腕の数だ。人間の腕の数が二本に対して彼らは腕が六本持っている。


 だが、これらは彼らの一片の能力にすぎない。彼らの最大の特徴はその肉体の頑丈さにある。


 戦闘族に肉体は全個体が最低でもダイヤモンド並みの硬度を持っていることが長年の戦場で判明している。その為、彼らに対して過去の銃器類はもちろん、現在の武器でも一切通用しない。過去の戦争の文献には核兵器すら耐え凌いだ個体も確認されているらしい。


 その為、彼らに勝つためには物理的手段ではなく、強力な能力で倒すしかないと言われている。


「何で作戦が始まっていないのにこんなところに子供がいるのかしら?まぁ、目撃したからには死んでもらうけど」


 戦闘族の男はハンドアックスを握り、和貴を見下しながら話しかけた。だが、そんな会話を聞いている暇はない。和貴はこの状況をどうやって打破するか考え始めた。


(周囲に障害物はない。実力差もはっきり言って万が一にも勝てない。そしてこいつらには武器の類が一切効かない。助けを呼びたいが、呼んだところで更なる犠牲者が出るのは必然だ。…最悪な状況だな)


 和貴は視線で時計を確認すると、さきほどの衝撃で壊れてしまったのか針は八時五十八分で止まっていた。そして和貴は一つの助かる道をひらめく。だが、うまくいくかどうかわからない。和貴の予想通りならば、そろそろ彼が学校に来る具合だと予想したからだ。外れた時は死。当たってもこの状況がちょっと良くなる程度で起死回生とは言えない。


(だがやらないよりはましだ。まさか戦略家が勝算のない賭けにでるなんてな)


 和貴は時間稼ぎをするべく、どうにかして戦闘族の男に話しかけようとした。だが予想に反して、戦闘族の男はこんな状況なのに発狂していない和貴に興味を持ったのか話し始めた。


「へぇ、冷静なのね。学生が相手だからまだ子供だと思っていたけどなかなかに肝が据わっているわね。

一体何があなたを支えているのかしら?援軍?それとも罠?どちらにせよ、私には効果が無いけどね」


 和貴はこの話しかけてきたチャンスを利用して、戦闘族の話の流れを切らないように和貴は質問をすることにした。


「いいや、俺に策はないさ。はっきり言ってこんな状況をどうにかしようにも、俺には能力が無いんでね」


 すると戦闘族の男は和貴の態度に少し驚いたのか、あるいは気になったのか、興味を持ったようだ。和貴はこのまま興味を持ってもらうために話を続けることにした。


「一つ質問してもいいか?どうやって日本に侵入してきた。戦闘族のお前がばれずに日本に上陸することは不可能だと思うが」


 戦略の時間稼ぎも含むが、これが和貴の一番気になっていることだ。すると戦闘族の男は面白そうに答え始めた。


「いいわ、あなたの胆力に免じて答えてあげる。日本の上陸に関しては人間から船を拝借してもらったわ。私は大きな荷物として運ばれたけどね。おまけに学校の侵入方法も単純よ。だけど答えは教えない。ヒントは職員室に入ればわかるわよ。最も、そんな暇は与えないけどね」


 和貴はそう言われてこれまでの情報を使って考え始めた。予測できない戦闘族の登場。そして昨日詩奈が言っていた大きな工事の揺れ。刹那、和貴の中で全てが繋がった。


(信じられないが穴を掘ってきたのか!?…いや、不可能ではない。人間なら不可能だが、目の前の戦闘族の怪力なら可能だ。でなければ目の前にこいつが現れるわけがない)


 事実、和貴はその手段は頭の中で想定もしていなければ、手段としても考えていなかった。何故なら現実的ではないからだ。どこへ向かっているかわからず、自身がどこにいるかもわからない。並の精神力なら発狂してもおかしくない。


「正直言って信じられないさ。お前、よく続けてこれたな。ゴールの見えない洞窟掘りなんて、普通だったら途中で投げ出しても誰も文句を言わねぇぞ」


「戦闘族の精神力を人間と比べないでちょうだい。不屈の闘志と精神あってこその戦闘族よ。生半可な覚悟じゃあ前衛はできないということの証明ね。さて、無駄話もここまでにして、あなたを殺して次の作戦に移るとしましょうか」


 そう言って男は斧を構えて和貴に振りかざそうとした。最後の時間稼ぎをするために、和貴は戦闘族に話しかける。


「まて、最後の質問だ。お前の名前と依頼主の名前だ。お前が真の戦士というのであれば、名乗るべきだと俺は思うのだが」


 すると戦闘族の男は少し考えた。だが、すぐに考えがまとまったのか答え始めた。


「依頼主の名前なんて教えるわけないじゃない。露骨すぎるわよ。でもそうね、私の名は教えてあげる。私の名はクルベルト。冥土の土産に憶えて逝きなさい」


 クルベルトはハンドアックスを和貴の脳天に振り落とした。当たれば間違いなく必殺の一撃であろう。そう()()()()の話だが。戦斧に当たる瞬間、和貴はクルベルトに言った。


「言い忘れていたが、クルベルト。お前は既に戦術的に負けている。この場は俺の勝ちだ」


 とたん、クルベルトの体が和貴の視界から消えた。その代わり現れたのは和貴の親友である理雄が手甲をはめてそこに立っていた。

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