選択と強制(修正完了)
「というわけだ。早速だが、お前らには選択肢が二つある。一つは戦うか。もう一つは守られるか。どっちがいい?」
夕食中に草部が現れ、突然草部が大切な話があると皆に聞こえるように話し始めた。最初は冗談かと思ったEXクラスのメンバーだったが、草部の表情が笑っていないことを見て、冗談ではないということを理解した。
「草部先生、俺は戦う。海魔族を殺せるなら喜んでこの戦いに参加するさ」
迷わず戦う意思を見せたのは凍原だった。あれほどの海魔族に対する復讐心を持ち合わせている凍原がこの戦いに参加するのはある意味必然であった。
「じゃあ俺も!海魔族と戦えるなんて滅多なことじゃない限りありえないからな!!」
「お気楽でいいわね。まあ、私も理雄と同じことを考えているから言える立場じゃないけどね」
次に戦う道を選んだのは理雄と雪花の二人だった。凍原のような執念は一切感じられないが、明らかに海魔族と戦うのが楽しみであるという気持ちが伝わっていた。決断した三人は残るメンバーの選択を待っていた。おそらく全員参加するだろう。そんな雰囲気の中、手を挙げた人物がいた。
「悪いが、俺は今回は戦力外だから参加しない。悪いが守ってくれ」
この状況において戦力外自己申告した人物、神崎有樹の発言に皆が驚いた。戦闘に参加しないという事実、そしてまさかの守ってくれという発言に一瞬頭の中で整理できなくなっていたが、いち早く頭の整理を整えた和貴が有樹に理由を問いただした。
「何故だ?お前の能力や体の状態は問題なはずだろ?何故参加できないんだ?」
「確かにあの事件で負った傷はもう完治している。骨折もしていない。だがな、問題は俺のほうじゃなくて武器のほうなんだ。武器はあの時完全に破壊したからな、炎星に頼んで造っているところだ。だが、未だに炎星が納得する代物が完成してないから俺は未だに丸腰なんだ。そんな状態で敵陣に突っ込んでみろ?間違いなく俺は一瞬で殺されるね」
「理由は納得した。だが、この戦いの為だけに代わりの武器を炎星に頼んで造ってもらえばいいんじゃないか?」
「否、それは俺のプライドに反する和貴」
和貴の疑問に答えたのは有樹ではなく炎星だった。和貴は理解できず、炎星に訳を聞いた。
「有樹の能力は強力な分、かなり繊細だ。雑念を交えた武器なら一度だけで破壊してしまうだろう。故に、俺は全身全霊であの武器以上の代物を造らなければとならない」
和貴は炎星を説得しようとしたが、ここまではっきりと意見を述べればダイヤモンド並みに固い頑固な炎星の信条は決して妥協しないだろう。あきらめた和貴は「じゃあ」と有樹に向かって別の案を持ち掛けた。
「その武器が完成すれば有樹は戦いに参加できるわけだな?」
「当然だ。でなければ皆と戦わず俺を守ってくれなどという屈辱的考えを言えるわけないだろ?」
「じゃあ簡単だな。炎星、お前は戦いまでに武器を完成させろ。そうすれば有樹が戦力として戦うことができる」
炎星は無言で頷くと席を立ち、食堂を後にした。草部が炎星を止めようとしたが、炎星は何も聞こえていないかのようにどこかに行ってしまった。
「俺の話ぐらい聞けって。後で成績を減点してやる」
「ああなった炎星は誰の声も聞こえないからな。仮にあの状態で殺されたら自分が死んでることすら気が付かないんじゃないか?」
「知るか。そんなものは聞いていない方が悪い。さてと、他に戦うものはいるか?」
草部は気を取り直し、参加意思を再度確認する。すると今度はあっさりと参加するメンバーが増えていた。和貴、本郷、霧和、叶の四人だった。しかし、たった一人手を挙げなかった人物、元帥は一人腕を組み、悩んでいた。
「どうした元帥。お前は戦わないのか?」
「一つ先生に問う。この戦いとは前に出て戦うことか?それとも、指揮することを込みで戦うことか?」
「そんなもん前者に決まってるだろ?何言ってんだ?」
「よし、なら儂は戦力外故、参加せん」
元帥の質問に和貴、本郷、叶の三人は背筋に冷たいものが通った。和貴達の頭の中では後衛で指示をするを含めて戦うという意味であったからだ。和貴達三人はとっさに意見を変えようとしたが、その逃げ道を断つように草部は全員に連絡した。
「言っておくが、今さら変更とかはなしな。この場で手を挙げた奴は前に出て戦闘することは確定だから。逃げたりしたらその時点で敵前逃亡として留年させるから覚悟しとけよ?以上で俺からの連絡は終わりだ。それじゃあがんばれよ。俺は後ろにいるから死なないように必死に生きろな」
ふざけんなこの屑教師!!!和貴は内心そう叫び、草部に殺意を含んだ視線で睨みつけた。しかし、肝心な草部はその視線を心地よい風のように受け流し、食堂を後にした。残されたEXクラスはこれからどうするか話し合おうとしたとき、和貴は大きなため息を吐きながら椅子に深く座り込む。
「屑教師め。選択肢を絞って無理やり戦場に立たせるとか馬鹿じゃないか?」
「和貴、言いたいことはよくわかる。だが、元帥は考えて事前に回避したんだ。この選択したのは俺達の落ち度だ。とりあえず、非戦闘員は必死に生き残ることだけ考えよう」
本郷はやけに落ち着き、怒れる和貴をなだめる。叶も理不尽な選択に巻き込まれ、あまりいい気分ではなかったが、それでも仕方ないと割り切り、明日の戦いに向けて準備を行おうとしていた。他のメンバーも事前に準備をするために食堂を後にしようとした時、和貴は皆の役割を把握するべく集合させた。
「とりあえず、みんなの役割を把握したい。何かあったらすぐに対処できるからな。俺は足手纏いかもしれないが、前線に出るぞ。他のみんなはどうする?」
「俺は言われるまでもない。海魔族を殲滅するだけだ。雪花も理雄も同じだろ?」
先に己の役割を言ったのは凍原だった。凍原ら戦闘員三人の役割は明確なので、和貴はそれ以上問わなかった。
「私は遠くから援護射撃してます。敵が多い乱戦の中なら前に突っ込むことは自殺行為ですので」
「僕も霧和ちゃんと同じで援護射撃してるよ!!」
霧和とアルケミックは後衛で援護射撃。この時点で前衛後衛の役割が決まった。残り決まっていないのは本郷、叶、元帥、有樹の四人とこの場にいない炎星である。炎星は既に作業をしている為、説明する必要はない。武器を完成させれば炎星の性格なら、自慢の鎧で前衛に参加するだろう。元帥はおそらく駐屯地の奥で作戦を立案しているだろう。有樹も武器さえ完成すれば遠距離で大きな活躍をしてくれるに違いない。だが残りの二人は一体何ができるだろうか。そう考えていると本郷は自身の役割を言い始めた。
「俺ができることは最初から一つ、斥候だけさ。だから今から能力を使って敵の数とか主力とか調べるさ」
「大丈夫なのか?本郷の能力は水中だと余計な情報が入って脳のキャパシティーがオーバーするとか言ってたよな?」
「こんな状況でそんなこと言えないでしょ。何より、俺はこう見えて一応期待されている能力者だぜ?たまにはいい活躍を見せないとな」
本郷は笑顔で和貴を安心させると、瞼を閉じ、その場で座り始めた。本郷は能力を使って周辺の情報を集めているが、求める情報を手に入れるには時間がかかるだろう。すると最後に叶が自身の役割について話し始めた。
「ボクは前衛で傷ついた味方の治療を行います。ボクの能力は乱戦で使うにはあまりにも危険ですので、今回は戦いに参加しません」
「そういえば、叶の能力について詳しく聞いてなかったな?一体どんな能力なんだ?」
和貴は叶に能力について聞いた瞬間、周りの空気が妙に暗くなった。あの普段明るい理雄ですら苦笑いしていた。それほどまでに叶の能力を聞くのはいけなかったのかと思い、和貴は叶の表情を見るとどうやらそのようであった。
叶は今にも泣きそうな表情で自身の能力について説明することに抵抗を覚えていた。そんな様子の叶を見て和貴は焦り、叶を慰めようとした。
「いや、悪い。叶にとって聞かれたくないことだったんだな。今の言葉は忘れてくれ。別に今回の作戦で使うことがないなら知る必要がないからな」
「大丈夫です。和貴先輩だけ知らないというのも少し理不尽だと思いますので」
叶は覚悟を決め、真剣な表情で和貴を見ながら自身の能力について話し始めた。
「ボクの能力の名前は『パンデミック』。一度人類を滅ぼしたとされる最初の能力者『ヒュドラ』と同じ能力です」
食堂から解散し、和貴は自身の部屋で明日の戦いに向けて作戦を考えていた。だが、脳裏で叶が告白した能力の名を思い出し、雑念に見舞われる。まさかクラスメイトに世界を滅ぼす能力を持っていたと思ってもいなかったからである。
「伝説上の能力だと思っていたが、まさか叶がそんな能力を持っていたとはな…」
一度世界を滅ぼしたとされる『ヒュドラウイルス』は隕石に付着され、そのウイルスが人類に拡散されたと教科書の歴史では語られている。が、事実は少し異なる。隕石に付着していたウイルスが元凶であることまでは事実だが、世界を滅ぼしたとされる原因はそのウイルスに感染し、偶発的に能力者となった最初の人間、ヒュドラ・ベースタの能力である。
彼は生まれつき崩壊を滅亡を望んでいる破綻者であったためか、理想郷と呼ばれていた時代の中でも最悪の犯罪者として幽閉されていた。だが、何の因果か隕石は彼を幽閉していた付近に落ち、彼は偶然にも『パンデミック』という最悪な能力を獲得してしまった。結果として彼が殺されるまでに人類は滅亡しそうになり、街は崩壊した。この事実はEXクラスに所属して歴史の授業で学んだが、和貴がこの事実を初めて知った時は驚きが隠せなかった。
「だが、叶は間違っても人類を滅亡するようなことはしないからな。杞憂に終わるだろう」
雑念を振り払い、和貴は前衛に出た時の作戦を考える。この場でいくら考えても机上の空論でしかないが、それでもある程度対策を考えた方がましであると自分に言い聞かせ。あらゆる状況を考えていた。
敵の数は圧倒的に多く、一体一体の戦力は大したことがなくても数で押し切られてしまえば容易く殺されてしまう。個で一騎当千の実力者でも、理雄のような能力でない限り、巨大な岩盤が波によって削られてしまうように最後には崩壊してしまうだろう。
「やっぱり、五人で視覚を埋めて戦う方法が一番なんだよな…。だが、それには炎星が武器を完成させて前衛に出なければならない。この陣形は炎星がいないと話にならないな」
和貴は己を含む、最前線で戦う最適な陣形を考えていた。和貴の理想では自身が戦いながら指示を出し、理雄、雪花、炎星、凍原の四人で確実に周囲の敵を殲滅するという戦い方である。だが、今のままでは一人足りず、四人で周囲の視界を把握しながら戦わないといけないという状況になってしまっている。
「どうしたものか…代用でだれか代わりで戦ってくれる人がいればいいんだが…。本郷は能力で把握中だし、他のメンバーは前衛で戦うことに適していない。…やはり、四人で戦うしかないのか?」
すると、部屋の外からこんこんとノックする音が聞こえた。和貴は鍵が開いていることを扉越しに伝えると、訪ねてきた人物、柳瀬叶が部屋に入ってきた。意外な人物が入ってきたことに少し驚いた和貴だったが、すぐに作戦のことを考え始めた。何もしゃべらず、ずっと立っていた叶を見て和貴は溜息を吐き、和貴は近くに置いてある布団に座っていいと伝える。
叶は近くの布団に座ると、叶は和貴に質問し始めた。
「和貴先輩はボクの能力のことが怖くないんですか?」
「叶は世界を滅ぼすつもりなのか?」
「そんなことはありません。ただ…和貴先輩だけが他のクラスメイトの人と違って嫌悪感を出さなかったので…」
和貴は叶の暗い表情を見て、初めて出会った時のことを思い出した。初めて出会ったときは叶の白い髪と青白い肌が気色悪いと言われ続け、和貴だけが綺麗だと言ってくれたことに叶は涙を流していた。あの時と同じ状況である。そう感じ取った和貴は慎重に言葉を選び、叶と会話を始める。
「俺個人の人の見方だが、別に能力が同じだからって、そいつが同一人物というわけじゃないだろ?なら叶とヒュドラだって別だろ。要はそれだけの話だ。叶は叶らしく何も考えないでそのまま生活すればいいのさ」
和貴の言葉に元気をもらったのか、叶は暗い表情から明るい表情に変わっていた。和貴はその表情を見て安心したのか、少しだけ叶をからかうことにした。
「それでいいんだよ。叶は悲しい顔よりもそうやって笑っている顔の方がいいんだよ。そっちの方がみんなやる気がでる」
「お上手ですね。それじゃあ、ボクはそろそろ寝ますね。遅くに失礼しました」
叶は相談が済んだのか、自室に戻ろうと和貴の部屋から出ていこうとしていた。和貴はそれを見届けた後、再び作戦を考えようとしたが、すぐにそれをやめた。何故なら叶が再び部屋に入ってきたからだ。忘れ物をしたのかと和貴は思ったが、先ほどの叶の雰囲気と異なり、表情が変わり赤い瞳が金色の瞳に変わっていた。すぐに和貴は悟った。目の前の叶は別人であると。
「…お前は誰だ?」
「ほう、私に問うか。まあいい。この依代の少女が気に入っている少年だからな。それぐらいの無礼は許してやろう」
一言一言が神聖な声色で和貴の身体のあらゆる場所に棘が刺さる感覚が襲う。ただ話しているだけでここまでの威圧感とはと和貴は冷や汗を掻き、叶の身体にいる何かを考えていた。
(精神干渉系の能力者か!?だが、なんの為に?それにこの威圧感は綾華と同格かそれ以上の威圧感だ!一体何者なんだ!?)
「ふむ。それなりの殺気と威圧感を込めて貴様を見ていたのだが…。人間にしては中々に肝が据わってるな。それとも、過去に私と同格の人間に出会ったことがあるのか?まあいい。そう身構えるな人間。私はお前を殺しに来たわけではない。単純に話がしたいだけだ」
「その前にまず名前を教えてくれ。ではないと叶と区別がつかない」
「そうだな。では答えるとしよう。私は『アテナ』貴様らの人類の敵であった神仏族序列第四位、戦と知恵の女神アテナである」
月が海上に映らぬ新月の夜、海魔族は新潟駐屯地へ歩みを進めていた。彼らの言葉は人間の聴覚では聞き取ることが不可能であり、言っている言葉も専門家ではない限り、理解できないだろう。そんなおぞましく不気味な行進を上空から眺めている者がいた。
「やっぱり気味悪いな。バハムートもそう思わないか?」
「いや、進軍するなら大体はこのような形になる。そんな気持ちは特に湧かないが…」
「お前やっぱり普通の感性じゃないよ。どこか卓越してるというかなんというか…。まあ、だからこそ、俺達の一族のリーダーをやってるわけだけどさ」
俊龍はバハムートをからかい、海上を見下ろした。海魔族の軍勢およそ一万、大型の海魔族は四千。そして戦闘に特化して進化した海魔族が三千。過剰戦力と思われるが、俊龍は嬉々とした表情でその軍隊を見下ろしていた。
「楽しそうだな。そんなにこの戦が楽しみか?」
「ああ、戦略を確かめることはできなくても、いろんな戦術を試すことができるのは俺にとっては至福だな。何より同族じゃない分、思い切った戦術を使うこともできる。問題はこいつらのスペックだが、まぁ、そこは割り切ってるさ」
「目的は忘れていないな?」
「当然じゃん。俺達の目的はデータ採取だろ。あわよくば海上からの侵入ルートを確保することも含まれている。最も、こいつらは殲滅として伝わっていると思うけどさ」
海魔族を見下ろし、俊龍は少しだけ哀れに思った。他種族の配下になり、その指揮官の下で殺されえるということは屈辱を感じているに違いない。バハムートは見るに堪えなかったのか、海魔族の軍隊から少し離れた。
「どこ行くんだバハムート?」
「定期報告だ。昨日は俊龍が言ってくれたからな。今日は俺が行く。何かあったら知らせてくれ」
「はいよー。まあ、お前が到着するころには大体片付いていると思うけどな」
俊龍と別れたバハムートは近くの島に立ち寄り、翼を休めた。すると、バハムートの近くに植生していた一本の木の影の中から黒い靄を発生しながらとある人物が現れた。
「今日はお前かよ。それでさっさと報告しろ」
「俊龍の時と俺の対応とまるで違うな。そんなに俺のことが嫌いなのか『シャドウ』?」
「当たり前だろ。何が悲しくてお前みたいなゆーとーせーにかかわらなきゃいけないんだよ」
バハムートに対する不満を堂々と正面から吐くシャドウは退屈そうに影の形を揺らいでいた。その様子を見てバハムートはシャドウにこれからの報告をし始めた。
「俺はこれから月に一回の種族会議に行かなけばならない。シャドウはどうする?」
「あんな退屈な会議に参加したところでつまらないし、俺でない。そう伝えてじゃあな。俺は俺でもっと面白いことをしているところだからさ」
シャドウはそう吐き捨て、どこかに行ってしまった。その様子を見届けたバハムートは充分に羽を休めたのか、目的地の場所へと飛び立っていった。




