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グロウ・ソウル  作者: PIERO
始業式襲撃編
3/57

今日は驚くことが多い

 休校日の体育館は部活動が無い限り、本来静かな空気であると和貴はそう考えていた。

 

 だからこそ、この賑わった空気は和貴にとって少し耳障りに感じた。


 体育館に集まった教師と生徒達は現在進行形で明後日の入学式の準備を行っていた。教師の指示が体育館中に響き渡り、生徒はその指示に従って備品を運んだり、装飾品を飾ったりしていた。


 一方で和貴は自身の仕事が既に終わっていた。後は解散するだけとなったが、先生の許可が無ければ立ち去ることが出来なかったため、他の生徒が仕事を終えるまで待たなければならなかった。


「退屈だ。…ったく、早く帰って本をゆっくり読みたいのに…」


 心の愚痴が漏れていたが、ほとんどの学生は未だに手伝いが終わっていないため、この一言を聞かれることはなかった。だが、この考えもあと五分程度で切り替えられる。そうすれば解散となり、今日の用事はあと一つだけとなるからだ。


 そしてその時は来た。教師の解散という言葉を聞いた直後に和貴はすぐに体育館を出て、EXクラスへと戻って行った。当然、EXクラスに一番乗りに到着して自身の荷物を回収する。後は教室を出るだけとなっ

たが、和貴はこの後の予定まで時間がかなりあることを思い出し、どうするか考え始めた。


(予定通りに手伝いが終わったとはいえ、やることがないな。理雄は補習で忙しいし、詩奈と幸成は明日の戦術披露の再確認をしている。彼らは来てもいいと言っていたが、練習の邪魔をするわけにはいかない。…さて、どうするか)


 ここで突っ立ているのも何なので、とりあえず学校の外に出ることにした和貴は下駄箱へと向かった。途中ですれ違う教室は無人であったが、床にかけかけのワックスが太陽の光によって輝き、使われていた机や椅子は新品のように綺麗に掃除されていた。


 ここが新入生の教室だと思うと和貴は自分達が入学していた事を思い出した。


(あの時は楽しかったな。本当にいろんなことがあった。だが、こんな生活もあと一年で終わる。いや、たった一年の方が正しいか)


 長い学校生活(あるいは短い学校生活)の思い出に浸っていた和貴は少しだけ寂しい気分になった。しばらくこの気分を味わった後、目的の下駄箱へ歩みを進める。


 百何十人の靴を収納できる下駄箱には三十近くの今日学校の手伝いに来た人物しかなかった。ここまで靴の数が少ない光景を見るのは初めてだが、これはこれでいいと思った。


「せっかくだし、たまには目的もなく街中をうろつくとにするか。こんな機会じゃないと、何も考えないで行動するなんてできないしな」


 下駄箱で上履きから外靴に履き替えた和貴は鞄を持って校門へと向かって行った。そして校門に向かう

際に聞こえてくる二つの音に和貴は顔をしかめる。


 一つ目は時折聞こえてくる詩奈の声だ。恐らく戦術披露の練習からだろうと和貴は冷静に分析する。だがこれが和貴の顔をしかめた原因ではない。顔をしかめた原因、それが二つ目の大きな音である工事現場の音である。


 この工事の目的は学校の寮を造ること。詳しい過程は知らないが、去年度から新しくなった校長先生の他の地方からも生徒を呼ぼうという意見から決まったらしい。その結果がこの学生寮建築という結論であった。


 工事自体は十一月頃から始まり、部屋自体は一月に完成していた。それでも工事を続けているのは内装面の工事が終わっていないからだそうだ。


 寮は強制的に入れられるわけではなく、本当に遠い場所からやってきた学生(具体的には関東地方以外からやってきた学生)を住ませるために存在するため、和貴や詩奈のような交通機関を用いて登校する学生は寮に入ることが出来ない。


 寮関係のことは和貴達三年生にとっては正直どうでもいい事だった。今年で最後というのに寮の話をしても関係ないからである。だが、工事現場の作業音がうるさい事には変わりない。


「そろそろ近所から苦情でも来るんじゃないか?まぁ、流石にそんなことはないと思うが…」


 そして和貴は校門をくぐり、街中へと向かって行った。


 街の様子は今の時代に反してかなりにぎやかであった。人口もヒュドラウイルスが繁栄した後よりも格段に増え、食料も分け隔てなく広まっている。戦争中とは思えないほど平和的な世の中であることに和貴は感傷に浸っていた。


(ここまで平和だと戦っていることを忘れてしまいそうだ。これも、今戦っている人達のおかげだろうな)


 そんな感傷に浸っていると、自然と空腹感が脳に伝わってきた。腕時計を見ると、時刻は既に十二時を過ぎ、もう少しで一時を示そうとしていた。空腹になるのも道理である。


 どこか適当な場所で空腹感を満たそうそ周辺を見渡すと、近くにファストフード店と老舗の蕎麦屋、そしておしゃれなカフェの三店舗があった。


「さて、いつもならファストフード店にいって腹を満たすけど、流石に今日ぐらいは自分のご褒美として別の物を食べたいな。蕎麦は…昨日家で食べたからな、あそこのカフェに行くとするか」


 昼食を済ませる場所を見つけた和貴は足をカフェへと向かわせた。念のため、和貴は窓から店内の様子を確認してみると、やはり昼食の時間であったため、店内はかなり混んでいた。しかし、次の用事まで時間が余っている今の和貴にとってそんなことは些細なことであった。そのことを確認した和貴は店内に入ろうと店の入り口の取っ手を持つ。


 入店すると、客が来た合図なのかドアにつけられている金色の鈴が鳴り響き、店内に客が入ってきたことを店員に知らせる。そして店内中に広がるコーヒーの香りはあまりコーヒーに詳しくない和貴ですらいいものだと思わせるほどに苦々しく、しかしながら飲みたいという刺激を煽られる。


 店内も見た以上に広く、客層も賑わっていた。ビジネス関係で話し合いをしている者、和貴と同じ目的で昼食を食べに来た者、仮眠をとる為だけにコーヒーを注文したが熟睡してしまった者など、色んな客がこの店の中に集っていた。


 店内に流れている曲も、この店に相応しいクラシック曲が流れていた。そしてその曲はまるで疲労感を取り除くかのように疲れを忘れさせるほど美しい曲であった。


「いらしゃいませ。現在、テーブル席が満員でカウンター席なら空いておりますがよろしいでしょうか?」


 和貴は問題ないことを店員に言うと、店員は開いている席へと案内を始めた。


 カウンター席は混雑している割には空席が目立ち、周りを見ても数人しか座っていなかった。そのことを確認すると、和貴は机の上に置いてあるメニューを手に取り、見始めた。


「さて、何を注文しようか。ハンバーグ、ボンゴレビアンコ、サーモンといくらのクリームパスタ、etc…。メニューを見るとパスタ料理が豊富だな。今回は適当なパスタ料理を食べるとするか」


「あの~すみません。もしかして貴方は第三高等の学生さんですか?」


 注文しようとした時、帽子をかぶった少女が和貴に話しかけてきた。身長およそ百五十五ぐらいで表情は帽子のせいでよく見えなかったが、どこか子供っぽさが残っている雰囲気を残していた。


 何者かわからなかったが、とりあえず話しかけることにした和貴はその少女と会話を始めた。


「まぁ、そうだけど。君は一体?」


「あ、自己紹介が忘れてました。ボク、柳瀬叶(やなせかなえ)って言います。今年の新入生なんですけど。その、学校のことを少しでも聞きたくて…そしてら偶然学生服を着ていた貴方を見かけて、話が聞ければな~って思って。ダメでした?」


「別にダメっていうわけじゃないが、店内にいるなら帽子は取った方がいいと思うぞ?」

 はっと気づいた叶はごめんなさいと謝罪した後、帽子をとる。


 帽子を取った頭髪は白髪によって周りの人よりも目立つ。そして赤い瞳は美しく宝玉のように輝いていた。そしてやや幼げが残る叶自身の見た目がそれを生かし、可愛らしい少女として成り立たせている。後五年ごろには美しい女性になることは容易に想像できた。


 そんな叶に見惚れていたのか、和貴はしばらくの間石造のように動かなくなった。すると心配っしたのか、叶が心配したのか和貴に話しかける。


「あの~。大丈夫ですか顔色が悪いように見えますが…」


「あ、ああ、大丈夫だ。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は霊峰和貴(たまみねかずき)。ところでいつまで立っているつもりだ?せっかくならここに座ればいいじゃないか」


「そう、ですね。じゃあお言葉に甘えて」


 叶は和貴の隣に座り、荷物を机の下に置いた。その間に和貴はコーヒーを二つ注文し、叶の相談を聞く

体制になった。


「じゃあ、早速何を聞きたいんだ?学生の俺じゃあ、聞くことなんてあまりないと思うけど・・・。あと、俺に対してはそんなに固くならないでくれ。そんな態度だと、俺もちょっと戸惑う」


「そ、そうですか。では失礼して。…こほん。ボクが聞きたいことは学校のカリキュラムを聞きたいんだ。もちろん、事前に聞かされていたけど、それだけじゃあ不安だから実際に学校に通っている人からも聞きたかったんだ」


 なるほどと和貴は納得する。叶の言う通り、事前に調べるのは別に悪い事ではない。むしろ、学業に専念しようとする一種の基本体でもある。だからこそ、叶の話に和貴は納得した。


 和貴は腕時計を見て、時間に余裕があることを確認すると、叶に自身の学校のことを話し始めた。

 



 学校のカリキュラムを話して三十分、聞きたいこと聞き終えた叶は背を伸ばし、和貴は冷めたコーヒーを飲んでいた。


 カリキュラムを説明し終えた後に飲むコーヒーは冷めてしまってはいたが、この店の焙煎技術故か味を損なうことにはならなかった。


 そんな満足そうな表情をしていたのか、叶は和貴の態度について聞き始めた。


「そう言えば、和貴先輩ってコーヒーが好きなんですか?」


「敬語はいいって言ってるのに。まぁ、コーヒー自体が好きなのは肯定するよ。特にこの店のコーヒーは今まで飲んできたどのコーヒーよりもおいしいと断言できる。まぁ、その分料金も高めだが・・・。ところで何か話さないか?誰にも目を付けられず先輩と一対一で話せる機会なんてめったにないからな」


「それもそうですね。じゃあ、遅くなってしまったし一緒にここでご飯でも食べませんか?流石にコーヒーだけでお腹は満たされませんし」


「奇遇だな。同じことを考えていたよ。じゃあ、早速何を注文するか決めてくれ。俺はもう決まっているから」


 和貴はメニューを叶に手渡すと、何を頼もうか悩んでいる叶を観察し始めた。悩んでいる姿は一枚の絵

になりそうであった。時間を止めてでも観察したいという独占欲がくすぐられるが、そんなことはできないと頭の理性が働き和貴の行動を抑制する。


 すると何を頼むのか決まったのか、叶はメニューを閉じ、決まったことを和貴に伝えた。


 和貴はそのことを確認すると、店員を呼び注文をする。注文を頼み終えると店員は厨房に伝えに行くために去っていった。二人だけとなった和貴と叶は待っている時間を消費するために雑談を始めた。


「そう言えば気になったんだが、叶の髪の毛って白いよな。もしかしてだけど…」


「そうだよ。ボクは色素欠乏症、いわゆるアルビノなんだ。まぁ、この見た目のせいで気持ち悪く思う人がいてちょっと大変だったけど」


「済まない。心の傷を蒸し返すようなことを言ってしまって」


「気にしなくていいよ。そんな人たちとはもう縁を切ったから。それとも、和貴君も気持ち悪いって思った?」


「いや逆だ。むしろ美しいって思ったよ…ん?俺は今なんて言ったんだ?」


 本音をポロリと言った和貴に唖然している叶は一瞬時が止まったかのように動かなかった。やらかしたと和貴は後悔したが、叶は身体を震わせて涙を流していた。


「え!?わ、悪かった!そこまで泣くとは思わなかったんだ」


「フフフ、逆だよ逆。大体の人は気持ち悪いって言われてきたのに、美しいって、和貴先輩って感性がおかしいって言われない?」


「…失礼だな。でも多少変わっているとは言われるよ」


 叶の一言に少しだけ傷ついた和貴だったが、叶の笑っている様子を見ていると何故か心が安らいでいた。


 笑いがようやく収まったのか、叶はなみだ目に鳴りながら和貴に話しかけた。


「じゃあ、ボクからも質問ね。和貴君って学校のクラスはどこにいるの?入学したら教室に遊びに来てあげる」


「それは本当に勘弁してくれ。同じ学年に変な噂を流される。それに、叶は多分俺のクラスに行けないと思うぞ」


 叶は意味が分からないという顔で和貴に訴える。だが、その疑問を答えることはしない。いや、できないのだ。和貴の所属しているクラスEXクラスは世間に知られてはいけない学校だけの秘密の教室だからである。例え新入生である叶にも曽於のことを伝えてはならないのだ。


「まぁ、入学式が終わればわかるさ。そう言えば、叶はこの周辺に住んでいるのか?」


「一応そう言うことになるのかな。ボクは学校の寮に住む予定なんだ。実家はここから結構遠いからね。引っ越したのも昨日だしね」


「そうか、ならまだこの周辺のことは詳しくないか。良かったら学校周辺の店を紹介するけど?」


「本当!?あー、でもそこまでまで和貴先輩に迷惑かけるわけにはいかないし・・・」


「迷惑なんて思ってもないさ。それにたった一人で生活の準備をするのもかなり酷だろう。俺も基本的に一人暮らしだからそのつらさはよく理解しているつもりだ」


「そうですか?なら、お願いしてもいいですか?」


 喜んでと和貴は叶に返事をする。すると注文していた料理がおいしそうな匂いと共に届く。せっかく注文した料理を冷めさせるわけにはいかないので、和貴は一度話を打ち切り食事に集中しようとした。


「とりあえず、頼んだものを食べてから明日の集合場所とか話し合おう。叶も早く食べないと料理が冷めるぞ」


「それもそうだね。じゃあ、早速食べようかな。あ、それと和貴先輩が注文したパスタを一口もらってもいいかな?」


 そんな他愛ない会話をしながら、和貴と叶は注文した料理を食べていた。


 完食したのは料理が届いてから十五分後ぐらいであった。幸せな時間ほど速くそして長く感じると改めて知った和貴は叶が完食するのを待っていた。


(こんなところを知り合いの誰かに見られたら明後日が気まずいな。まぁ、正しく説明すれば納得はしてくれるだろうけど、問題はこういう話題に異様に食いつくあいつだな)


 EXクラスの一人の女子を思い描き、そしてすぐにその考えを振り払う。なんとなくであったが、考えたらこの場で遭遇しそうな気がしたからだ。


 するといつの間にか叶が料理を完食し口元をナプキンで拭いていた。 


「ご馳走様。おいしかったね!!今度また一緒にここのパスタ料理を食べようよ」


「そうだな。また今度な。さて、胃袋を休めるついでに連絡先を教えてくれないか?流石に連絡できないと色々困るしさ」


「わかった。じゃあ、紙に書くからちょっと待ってて。あ、メアドも一緒に書いた方がいいよね」


「そうだな。そうしてくれるとありがたい。…っと、いけない。俺の次の予定の時間が迫っちまった」


 時間を確認しようと和貴は腕時計を確認すると、次の予定までの時間が迫っていた。これ以上ここで過ごしてしまうと、次の予定に支障が出ると考えた和貴は財布から昼食代を準備し、すぐに店を出る準備をしていた。


 叶が書いた連絡先を受け取った和貴はやや急ぎ足で叶に集合場所を伝えた。


「集合場所は一時にこの店でいいか?詳しい連絡は夜メールするからそれを見てくれ。それじゃあ、また明日!」


「はい!明日楽しみしてます!」


 昼食の料金を払い、和貴は駆け足で駅に向かって行った。叶はその様子を見守るように笑顔で和貴の背中を見ていた。



 

 何とか電車に乗り遅れることなく乗車できた和貴は目的地に着くまでの間、椅子に座って本を見ていた。だが、頭の中から叶のことを忘れられずにさきほどの気分を思い出していた。そのたびに和貴は幸せな気分と、少しの羞恥心に包まれていた。


(俺らしくないな。新しく入ってくる後輩にここまで気を引かれるなんてな。まぁ、それはそれとしてちゃんと割り切らんとな)


 目的の駅に近づくにつれて乗客がだんだん減っていく。あと三駅で和貴の目的の駅に到着する予定である。


 目的地である駅に着いた頃には車内はほぼ無人と化し、静寂の空気が和貴を包み込んでいた。だが、これが和貴にとっていい影響だったのか、さきほどの気分から一変し冷静な司令官のような雰囲気に変わっていた。


 和貴が下りた駅の名は『駐屯場前』。つまり、軍の基地が存在する場所である。和貴はホームから出ると、灰色の建物が和貴の視界中に広がっていた。


 重々しいその年期かかった建物は関係者以外を威圧するように見下ろし、野生動物でも尻尾を撒いて逃げそうな殺気を放っていた。


 何度も来ている和貴ですらこの重圧感は中名k慣れずに冷や汗を掻く。改めてこの存在感を確認し、大型の門に向かって歩み始める。そして和貴は門を守っている門番に声を掛けた。


「すみません。私用でこの基地に来ました」


 和貴は鞄から一枚の手紙を門番に渡す。門番はその手紙を確認すると、手紙を丁寧にしまい、和貴に返却する。


「了解しました。ただいま扉を開けるので少々お待ちください」


 門を開けるために門番は内部へと連絡を繋げる、すると、門から重々しい音が響き門が開き始めた。


「どうぞお通り下さい。にしても、梶山さんの私用で呼び出されるなんて大変ですね」


「そんなことないさ。俺だってあの人には感謝してるしな。だったらその分の恩返しをしないと俺の気が済まないからな」


 短い会話を済ませた和貴は基地内へと入り、入口へと向かっていた。


 入口に向かう途中に時折聞こえる大きな物音は能力を使った時の衝撃音だろうと推測し、どんな能力者がいるのか想像していた。


 入口に入ると、ちゃんと掃除がしているためか、学校ほどではないが綺麗に掃除されている。そんな余計なことを観察していると、ロビーに置かれているソファーに座り、飲み物を飲んでいる人物がいた。


 和貴はその人物に近づこうと接近すると、それを悟ったかのようにその人物は席を立ち、和貴の元へ使づいてきた。


 その人物は和貴を見下ろすほど大柄な人物であり、そして理雄ほどではないが、大柄な肉体を持つ身長は百九十は超えていることは理解できた。


 髪形を坊主に近く刈り上げ、顎からは少し生えている髭が目立つ。気合を入れる様に整えられている太い眉はその人物の険しさをアピールしているように見えた。そして中でも目立つのが、右腕から機械音が聞こえてくる義手である。


 だが、当の本人から漂う雰囲気は軍人というよりも、優しい父親のような穏やかな雰囲気であった。この人物こそ、和貴をこの基地に呼び出した人物でありこの軍の最高権力を保持している特等軍隊隊長である梶山力也かじやまりきやである。


 梶山はどこか落ち着いた雰囲気を纏って和貴に話しかけてきた。


「やぁ、和貴。よく来てくれたね。学校の手伝いは大丈夫だったかい?」


「はい。大きなけがもなく、無事に準備が終わりました。して、今回はどんなご用件でしょうか?」


「そんなかしこまらなくてもいいよ。()()()。ちょっと世間話でもしたかったんだ」


 梶山は笑顔で和貴の背中を思いっきり叩き、あまりの勢いに和貴の体勢が崩れがよろめく。少しムッとした表情で和貴は梶山を見るが、当の本人はまるで気が付いていない無い。


 次は大きな手で和貴に頭を撫で始めた。年頃の和貴にとっては恥ずかしいの一言では済まされない羞恥心に包まれたので、必死にその手を振り払った。


「ちょっと!?やめてください!俺だってもう十八ですよ!?十二歳にまでならともかく、いい青年になって頭を撫でられるのは恥ずかしいです!!」


「ん?そうか。俺から見れば、十二も十八も変わらんが…。まぁ、本人が望まないなら仕方ないか」


 撫でていた手を和貴の頭から解放し、和貴ははぁ~と溜息をついた。こんな人物がこの世界でもかなりの権力を持っている人とは思えないからである。


 梶山力也は『特等』と呼ばれる特別な地位の人間である。無論、梶山以外にも、とくとうは数名いるが、その中でも梶山は別格であった。何故なら、梶山は天才の英雄結成させた創始者の一人であり、二代目天災の英雄の一人でもあるからだ。


 初代天災の英雄が能力を駆使して国に貢献しているのに対しえ梶山はありとあらゆる現代武器や戦略を用いて無能力者でありながら、天災の英雄以上に国に貢献した行ける伝説である。そして当時の異名は『狂戦士(ベルセルク)』。真相は不明だが、素手で龍神族を仕留めたという記録が残っている。


 だがそれは昔の話だ。伝説を作った後、敵からも注目されたのか、敵からの不意打ちによって片腕を失ってしまった。それを機会に梶山は戦場から退き、若い兵士の育成の教官となって軍に貢献している。


「梶山さんはいつか戦場に復帰するんですか?」


「いや、復帰しないつもりだよ。確かに義手の使い方は慣れてきたけど、俺の戦い方に耐えれるかどうかは別だしね。もちろん、技術屋を疑っているわけじゃないさ。ただ、己の肉体ではないとやっぱり違和感を感じるしね。それに、これからは俺達古い伝説が時代を作るべきではない。和貴達若い兵士が新しい時代を切り開くべきだ。俺達古い者は若い者のために犠牲になるさ」


「そこまで期待を持たれると、なおさら答えなきゃと思いますね」


 雑談をしていた和貴は梶山の案内の元、基地の中へと進んでいく。その様子を見ている他の兵は何と仲がいい親子と思っているだろう。事実、和貴と梶山は日常でも仲が悪いわけではなく、むしろ良好である。


 基地の中に入って長い廊下を歩いた先に小さな会議室へ和貴と梶山は向かって行った。会議室は誰もいないことを示していたのか、電気はついておらず、静寂に包まれていた。誰もいないことを確認し、梶山

と和貴はその部屋のなかに入る。


 会議室の鍵を内側から閉めると、さきほどの仲がいい親子の関係から一変し、一人の上官と部下という関係に変わる。和貴は先ほどとは違って真剣な表情で梶山に問いかけた。


「それで、今回は一体どうしたんですか?この前の戦いの責任を取れという指示が来たんですか?」


 和貴のいうこの前の戦いとは、春休み中に梶山から指示された中国の駐屯場の防衛戦のことである。和貴は上官からの指示の下、匿名で兵士を指揮し作戦を大成功へと導いたのだ。だが、問題はその手段であり、機材を囮に使うことによって敵を大量に倒し、撤退まで持ち込んだという手段があまりにもひどかったらしく、梶山ですらそれを説明するのに色々な手回しをさせてしまった。


「いや、その件は二度としないことという約束でお咎めは今回限りはなしということになった。今回呼び出したのは別の案件だ。しかも二つだ。忙しいことが大好きな和貴にとってはご褒美だと思うが・・・」


「過剰な忙しさは流石に好きではないですよ。それで、案件とは一体何ですか?まさかとは思いませんが、また防衛戦に行って指揮しろなんてことはないですよね」


「それはない。和貴は私の息子だが、あくまで学生だ。そこは学業を優先させるさ。・・・が、今回ばかりは例外だ。和貴は日本に怪物が侵入してきたという噂はもう聞いたかい?」


 今朝方、詩奈がそんなこと話していたなと和貴は思い出しつつも、その噂の詳しい概要は知らなかった。梶山はそんな和貴を見てその噂の概要を語り始めた。


「簡単に要約するとな、どんな手段を使ってかは知らないが、日本に怪物を上陸させた裏組織がいるという噂だ。政府は勿論、同じ特等でもそんな噂は本気信じる者は相違ない。だが、なんとなく怪しいと思ったから知り合いの予知能力者にそのことが真実なのか確かめてみた。すると驚くことに、予知は和貴の学校を襲撃するという未来を見たそうだ。ここまで言えばわかるな?」


「調べてこいっと?でも明日は午前中しか学校に入れませんよ」


「それだけ時間があれば、調べるのは充分だろう。何も全部調べろというわけじゃない。和貴が怪しいと思ったところを調べて欲しいのさ」


 ここまで自信を持って言うということは確信があるのだろうと和貴は思った。梶山はたまに噂程度の情報を調べ、その中でも怪しいと思ったことを徹底的に調べることがある。選ぶ基準は直感だが、その的中率はほぼ百パーセントと言っても過言ではない。一部の者はその直観力が梶山の能力ではないかと疑うほどである。


 その直感を信じることにした和貴は梶山の指示を聞くために椅子に深く座り、和貴は続きの指令を聞き始めた。


「詳細はレポートに纏めて明日の昼に約束の場所、あるいは自宅に置いておいてくれ」


「わかりました。それで、もう一つの要件とは一体何ですか?まさかとは思いませんが、もう一つ任務があるんですか?」


 すると、梶山が珍しく要件を言うことを躊躇っていた。和貴はこんな梶山を見るのは久しぶりと思うと同時に嫌な予感がしていた。この躊躇っている梶山から言われることは後日ろくでもないことになることがほとんどだからだ。


「もう一つは任務じゃないんだ。面会って言えばいいのかな?」


「俺に面会?一体誰がこんな学生と面会したいと思っているんですか?」


「その、なんだ。『王』だ」


「は?俺の聞き間違いじゃなければ梶山さん、あなたは『王』と言いましたか?」


「まあな。ついでに言えば、お前の兄弟でもある。まぁ、戸籍上はだがな」


 和貴は珍しく、表情に出て驚いていた。『王』とは人間の能力者の頂点に立つ存在であり、唯一の初代天災の英雄である『重力王(じゅうりょくおう)』のことである。


 『重力王』は基本的に人前には決して現れず、今は存在すら怪しいとされている人物である。和貴と一度も会ったことがなかったため、和貴自身も実在しているかどうか疑っていたが、まさか本人から名指しで呼ばれるとは思ってもいなかった。


「やっぱり動揺するか。まぁ、私も動揺したんだ。和貴も驚くか」


「まぁ、それなりには。でもこんな日が来るんじゃないかとは思っていましたよ。それで、いつ頃に来るようにと言われましたか?」


「明確な日にちはまだ決まっていない。恐らく始業式が終わってからだろうな。詳しい連絡はまた後日するよ」


 用件はそれで全てなのか、梶山は席を立ち、会議室から出ようとしていった。和貴も急いで会議室から出ると、さきほどのロビーに戻ってきた。


 和貴と梶山の対話は短いだった筈だが、既に一時間以上経過しており、家に到着する頃には八時ぐらいになることはすぐに予測できた。


 疲れも溜まり、一刻でも布団に入りたかった和貴は梶山と別れ駅へと向かって行った。


(さっさと家に帰って明日の準備をしないとな。それと、このメモに書かれた電話番号を入力してっと…)


 明日の用事の数を想像すると、気分が悪くなりそうだった。和貴はこの気分を取り払うために、少しだけ電車の中で仮眠をすることを決め、十分ほど疲れを癒していった。




 誰もいない夜の港で一人の男性は逃げていた。


 その男性はとある組織に所属している裏商人である。商売の邪魔をさせないために用心棒も雇ったが、結果はこの通りである。


 男は何故このような出来事になったのか頭の中で迷走していた。取引相手は常連相手であった。いつも通りの時間で取引を行い、いつも通りの品を手に入れ、相手は金を得る。簡単な商売だ。それなのに、あの乱入者は想定外であった。


「冗談じゃねぇぞ。何でこんなところにあんな怪物が…」


「見られてしまったからには、あなたの運がなかったとあきらめてください」

 女性の声を聞き、反射的に男は振り返る。だが、振り返った先に見えたのは声をかけられた人物ではなく、自身の胴体だった。


 一体何が起きたのか男には理解できなかった。だが、男にとって幸いだったのは延髄を貫かれ、痛みを感じなかったことだろう。否、幸運ではない。この男を殺したこの女性の技量だからこそ出来た技であった。


 その男を殺した少女は忍び装束を着ていた。口元や左目は隠れ、闇隠れるために黒い服装で身を纏っていた。


 その少女は溜息を吐き、後ろから近づいてくる人外の体格を持つ者に話しかける。


「だから、隠れていてくださいと言ったのです」


「無茶言わないでちょうだい。こんな小さな小屋に隠れること自体が無茶な話よ。例えるなら人間が犬用のキャリーに入れと言っているようなもんよ!私の身にもなって頂戴」


 巨漢の人物はその少女に愚痴を言いつつも、殺した死体を速やかに海へと捨てた。これでこの港にあの男がいた証拠が無くなった。少女は安堵するが、すぐ別方向から男性の悲鳴が上がる。少女と巨漢の人物はその悲鳴の元へと向かって行った。そして常人にとっては目を疑う光景を目の当たりにした。


「ふはwww。見たもんはしょうがないなよなぁ?悪いけど死んでくれやwww」


「た、助け「嫌だねwwwだってお前、きもいから。そもそも、やばい現場を見て生かして返さない道理はないっしょwww」


 黒い影で覆われた人物は先ほどの男の商売相手である人物をいたぶって遊んでいた。男は逃げることが出来なかった。何故なら、影が男の手足を刺して動かなくしていたからだ。


 すると影を纏った者は拘束した男の上に乗り、影を用いて刃物を創り出された。


「俺さー、一回やってみたかったことあるんだよねwww手術する時ってさ、麻酔効いているから痛みを感じないでしょ?あとは…わかるよね?」


 男はこの後の展開を予測し顔を青ざめる。暴れようとしても逃げることが出来ない影の杭は拘束を強め、さらに男の動きを拘束する。


「じゃあいくよ~歯を食いしばって~「ぎゃああああああああ!!!!」うわwww思っていた以上に赤いなぁwwwこれが内臓か。勉強になるなwww。そしていい悲鳴だよwww心が安らぐしね。フフ、さてと、次はどこは調べようかな?」


 港中に男の叫び声が聞こえる。だが、誰もその男を助ける人物はいない。そしてそれを狂気的に楽しむ黒い影はニヤニヤと楽しんでいた。


 だが、その悲鳴は唐突に消えた。理由は男が死んだからではない。仲間の少女が男の首をはねたからである。すると、子供のようにはしゃいでいた黒い影は一気に冷めた表情になり玩具を取られた子供のように駄々をこね始めた。


「何で!?何で俺の玩具を壊すの?せっかくいいところだったのに!!悲鳴のおかげで肺の動きがばっちり観察できたのに!!何で壊しちゃうの!!」


「答える義理はない。貴様みたいな奴が同じ人間だと思えると吐き気がする。さっさと行くぞ。ボスが我らの帰還を待っている。それに、これから起こそうとすることに面倒ごとを増やそうとするな」


「じゃあ代わりに一緒に寝てよ。気持ちよくさせるからさwww」


「貴様は獣を抱く趣味を持っているのか?寝言は寝て言え。この死体を片付けてさっさと帰還するぞ」


 すると影を纏った者はがっかりとして死体を海へと投げ捨て始めた。その様子を見ていた大柄の男は少女に聞こえる声で話しかけた。


「貴方優しいわね。殺す対象を苦しめることなく逝かせるなんて相当の技術よ」


「私は優しくなんてない。余りにも耳障りだったから速やかに殺しただけだ。それより、作戦の手順は進んでいるな?」


「抜かりはないわよ。下準備は全て完了したわ。後は機会を待つだけね。そっちは問題ないかしら」


 勿論と少女は返答する。彼らの作戦は予想外な出来事が無ければあならず成功すると確信していた。それほどまでに長い年月をかけて緻密に作られた作戦だからである。


「では、また後程連絡をする。私達も監視はするが、くれぐれも姿を見られないようにしてくれ」


 無言だったが、巨漢はすぐに隠れていた場所へと戻って行った。そしてその姿に月明かりが辺り、巨漢ならぬ戦闘族の後ろ姿は彼らの作戦を成功させる頼もしさにあふれていた。


今日の投稿はここまでです。たった三話だけですけどこれからも投稿していくように頑張っていきます。

もちろん感想、意見、誤字の指摘等もお待ちしております。

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