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グロウ・ソウル  作者: PIERO
始業式襲撃編
18/57

後日談

 この事件は後に『蒼鳥戦闘族襲撃事件』として一部始終が新聞に載せられた。


 首謀者は戦闘族の幹部クラス。その配下は蒼鳥の構成員。敵は恐らく戦闘族と手を組み、クーデターを起こすことが彼らの目的ではないかと予想できた。結果的にクーデターは失敗し、蒼鳥は大きなダメージを受けた。


 占領した学校は取引の交渉物として政府を襲撃したと同時に占領したらしい。今回の事件の被害者は政府では負傷者千名、死傷者三十名。そして学校では負傷者八名、行方不明者二十八名という最悪な結果になってしまった。


 現在も行方不明になった二十八名を捜索しているが、未だに発見することが出来ず、一部では蒼鳥が誘拐したのではないのかという噂が流れ、この責任を取る為に現総理大臣は辞任し、死んでしまった家族に対しては多額の賠償金を払うことになった。


 学校の教職員のほとんども殺されてしまい、学校として機能しなくなり廃校するのではないのかと誰もが思われていたが、ある人物によって廃校は免れた。匿名であるため誰も知らないが、天災の英雄の誰かと当事者は予測している。


 そして一部ではその学校にいた学生だけで学校を奪還し、戦闘族の幹部クラスと戦い、軍の到着まで戦い続けたという噂があるが、学生にそんな力があるのかという疑問に信憑性に欠けている。 

 



 この時代では数少ない高層ビルでとある人物は暖かいが冷めきったコーヒーを口に含む。いつぞやで飲んだ安っぽいコーヒーではなくちゃんとしたブランドだ。


 独特の香りと苦みを楽しみながら、その人物、蒼鳥のリーダーは今日の新聞の一面を見ていた。


「やはり、重力王が関わったことは抹消されているか。全くこちらとしても大きな誤算だよ。まぁ、仕方ないか」


 新聞を折りたたみ、蒼鳥のリーダーは窓から街の景色を見渡す。空は晴れ、日差しは雲が丁度いいぐらいに隠れていた。下を見下ろすと、蒼鳥によって壊された建物を能力者によって、街の修復作業をしている。


 たった一日で人員を完璧に配置させていた。ここまで速い対応ができるのも恐らくあの重力王だろう。忌々しいが、その仕事の速さだけは感心せざる得ない。


 すると、ドアからコンコンとノックする音が聞こえた。開けてきたのは髪をツインテールに纏め、片目を眼帯で塞いでいる少女だ。服装はあまり気にしていないのか、今日はジャージを着ていた。彼女は私と一緒に逃げた優秀な部下である。そして、蒼鳥のリーダーはふと疑問に思った。


「ところで、依頼してきた人物はどこへ行ったか知っているかい?」


「すみません。謝罪する時には既に依頼人はいなくなっていたので…」


 あのクーデターを起こし、戦況が不利になり逃走した後、部下に依頼人に謝るようにと伝えたが、依頼人はどこかに消え、代わりに政府で殺した役人の人数分の報酬が宅配で届けられていた。


 余談だが、その金で速やかに昔のアジトを捨て、現在はこの場所に拠点を張っていた。


 何故消えたのか。依頼人は何がしたかったのか。蒼鳥のリーダーは依頼人の真の目的を考えてみることにした。


(依頼人の目的は今の総理大臣を辞任させることだったのかね?あるいは誰かを総理大臣にさせたかったのか。まぁ、今となっては当人しかわからんがね)


 今回の襲撃で余分な人員は全て消え、生き残ったメンバーも作戦開始時の十分の一以下になってしまった。だが、これでいいと蒼鳥のリーダーはそう思った。蒼鳥のリーダーが求めているのは人間の醜さの果てだ。そのため目的の達成なら何であれ差し出そう。だが、その手段も今回の襲撃で資金が大幅に使ってしまった。次の作戦は考えているがそれもまだだいぶ先になるだろう。


「ボス。そう言えば、何故あの時ボスの正体を知った少年を殺さずに私に任せたのですか?ボスの能力なら認識することもなく簡単に殺せたというのに」


 部下の疑問に蒼鳥のリーダーは考えた。確かに何故あの時、目の前の彼女に任せたのだろうか。偽善者的行動をしたかったのか?あるいは学生に情が移ったのか。考えてみればいつもの自分からは考えられない行動であったと自身で悩んでいた。


「さぁ、何故だろうね。私でも思うよ。何故あの少年を生かしたのか。だが、不思議とね、罪悪感がないのだよ。これがいいことをした感覚というものなのかね」


 少しだけ気分がよくなった蒼鳥のリーダーは空になったコーヒーを飲もうとしたが、いつの間にかコーヒーが無くなっていたらしい。


 すると部下が何事もなくコーヒーカップを回収してお代わりのコーヒーを入れ始めた。久しぶりに何もないのでいつも疑問に思っていたことを彼女に問いかけた。


「今更だが、君の名前って聞いたことがないんだよね。自己紹介の時も教えてくれなかったし、そろそろ

教えて欲しいんだけど…」


 すると部下は何事もなく答えた。


「今まで隠していましたが、私の名前はないのです。何故なら、あの日あなたに拾ってもらったときからあなたに尽くすと決め、昔の名前を捨てました。ですから私に名前はありません」


 …そういえばそうだったなと思い出す。蒼鳥を結成する前、蒼鳥のリーダーは雨の日裏路地で腹を空かせている子供を拾った。その時、何を言っていたのか覚えていないがそれ以来、その子供は蒼鳥のリーダーについてきた。


「これからも部下と呼ぶのは君も私もつらいだろう。だから今ここで、君の名前を付けよう。君の名前は…そうだな。歴史人物から取り上げて…望月。そう、望月(もちづき)さくらでどうかね?」


 そう言って部下の名前を決めた蒼鳥のリーダーは早速さくらを呼び、本日何杯目かわからないコーヒーを飲み、彼なりの日常に戻るのであった。




 あの事件後、和貴達EXクラスは軍に救出されたあと、負傷者は病院に搬送され、それ以外の人物は基地にて事情聴取が行われようとしたが、生徒達の肉体的疲労と精神的疲労を考慮して、後日行うことになった。


 そして数日後、和貴達は事情聴取を終えて電車に乗り、争いのない日常を楽しんでいた。


「事情聴取お疲れ様。やっとリラックスできるわ」


 背骨を伸ばし、雪花は長時間椅子に座っていた身体をほぐしていた。それに同感するかのように、アルが話を続けた。


「そうだね!!質問が全部堅苦しくて嫌になっちゃいそうだったよ。ゲンゲンもカッキーもそう思うよね?…って聞いてる?」


 アルケミックが和貴達に意見を求めていたが、元帥は瞼を閉じて船を漕ぎ、和貴は別のことを考えていた。


(これで事件は本当に終わったのか?戦いは終わったが、結局目的は判明しなかった。一体…)


「ねぇ、聞いてるカッキー?無視するのはひどいよ?」


「ああ、悪い。ちょっと考え事してた。それで、話は何だっけ?」


 やっぱり聞いてなかった。とアルケミックは呟き、同じ話を始めた。和やかな時間は過ぎ、それぞれの最寄りの駅に到着するにしたがって、電車の中にいるクラスメイト達とは解散となった。


 和貴は最寄りの駅に降りた後、近くのお店で昼食を食べようかと思い、駅前の飲食店を探索し始めた。時間帯的にも昼食を食べるに適していたためか、店の中は客で混雑しており、並べば食べられなくもないが、代わりに貴重な時間が消費されるのは明白だった。


 駅前で昼食を食べることを諦め、別の場所でご飯を食べようかと思い、和貴は街の中を歩き始めた。街の様子は事件が起きた後とは思えないほど賑やかであり、平和であった。それに比例し、街中の飲食店も混雑していた。


「やっぱり、何処も混んでいるか。はぁ、仕方ない。あの店に行くとしよう」


 和貴は賑やかな街とは別の方へと歩いて行った。しばらく歩くと、和貴にとってよく見慣れた廃墟の街に辿り着いた。和貴は迷いなく、なじみの見せの入口に到着して自宅のように店の中へと入っていた。


「いらっしゃい!!って、何だ和貴か。今日は何のようだい?」


 新しい客が来たと思って嬉しそうな表情から一気に変わり、あからさまに落胆した態度で接客するこの店の店長である真木那はめんどくさい表情で和貴に話しかけた。


 その態度を見て流石に和貴も怒りを覚え、口調を強めにして真木那と対話し始めた。


「何だってなんだ?穏やかな俺でも、その態度はムカつくぞ。『親しき中にも礼儀あり』って言葉知らないのか?」


「そこまで怒りを覚えたのなら、素直に謝るよ。ごめんなさい。それで、今日はどんな用事で来たんだい?」


「昼食を食べに来た。何でも屋ならそれぐらいお安い御用だろ?」


 和貴は用件を言うと、真木那はさらに溜息を吐き、和貴に文句を言った。


「和貴はうちの店を何だと思っているんだ?さっき和貴が言っていた言葉、そのままそっくり言い返そうか?」


「じゃあ、言い方を変える。『真木那さんの手料理が食べたいな』ってのはどうだ?」


「君が女性なら喜んで作ってあげたよ。全く、この店はレストランじゃないのに…」


 愚痴を言いつつも、真木那は店内へと戻って行った。和貴は真木那の性格を理解しているからこそ、わかるが、仕事として頼まれれば不可能な依頼以外は基本的になんでもやるプライドを持っているため、これから料理を作ろうとしているのだろう。最も、和貴にとっては大きな問題に直面しているが。


(さて、今回はどれくらい金をぶんどられるだろうか)


 しばらく待っていると、店の奥からいい香りが漂ってきた。何かを焼いている音が聞こえ、鼻歌交じりで真木那が何かを作っていることがよくわかった。


「なんやかんやで本人も楽しんでんじゃないか」


 本人には聞こえない声で呟き、真木那が料理を完成させるまでの間、本を読もうとした時、突然店のドアが開き、誰かが入ってきた。


「お前は…叶だったか?」


「あれ?和貴先輩ですか。先輩も買い物しにここに来たんですか?」


 店内に入ってきた人物、柳瀬叶は和貴がいることに驚き、和貴も突然現れたことに驚いていた。こんな偶然もあるのだろうと、和貴は結論し、叶の質問に答える。


「いや、俺はご飯を食べにここに来ただけだ。真木那さんは料理したがらないけど、注文すれば一応作ってくれるぞ」


「へぇ~!そうなんですか。じゃあ、ボクも今度料理を注文してみます」


 叶に悪知恵を教えていると、丁度料理が出来上がったのか、真木那がエプロンを付けて料理を運んでいた。その姿を見て、叶はクスリと笑い、真木那は溜息を吐きながら愚痴を吐き始めた。


「和貴。あんまり私が料理を作る注文ができるってこと広めないでほしんだけど。叶ちゃんは別として、理雄君とかに広めたら、君の個人情報を売りさばくからね」


「おっかないな。気を付ける。それで、料金はいくらだ?流石に有り金全部は勘弁何だが…」


「っと、その前に。叶ちゃん、ちょっと大事な話があるから、少しだけ席を外してもらえないか?聞かれるとちょっとまずい案件だから」


 叶は真木那の言葉に従って一度、和貴が座っている場所から離れた。真木那は会話が聞こえない位置まで叶が移動したことを確認すると真木那は料理を机の上に置き、向かい側の椅子に座ると商売をしているような真剣な表情で和貴を見つめた。その眼差しに和貴は一瞬、怯みかけるが気迫で負けないようにと逆に真木那を睨みつける。張り詰めた空気の中、真木那は口を開き始めた。


「代金はいらない。代わりに、君が持っている転移陣の技術を私に教えて欲しい」


 和貴は真木那が口にした言葉の意味が一瞬理解できなかった。転移陣の技術が引き継がれたことは誰も知らない。軍の事情聴取の時も転移陣のことは聞かれなかった。だからこそ、何故真木那が転移陣雄技術を和貴が持っているということを知っているのか理解できなかった。


「誤魔化そうとしても無駄だよ。私の裏の顔を知らない和貴じゃあないよね」


「知ってるよ情報屋。どこから流出したかはともかく、転移陣の情報は国家機密だぞ?そう簡単に教えるわけないだろ」


「勿論、この昼食だけで取引しようなんて思ってないよ。君の望む情報を教えよう。例えば、今回の事件の黒幕とかね」


 和貴は一瞬耳を疑った。真木那は今回の事件の黒幕を知っている。ここまで都合よく和貴の欲しい情報が提示されているならば、普段なら迷わず交渉に応じているだろう。しかし、ここまで都合が良すぎると、今までの経験から裏に何かがあると確信を持っていた。


「悪いが、今回ばかりはこの交渉に応じられない。そんな好都合すぎる条件、明らかに裏があるだろ。例えば、今回の事件の黒幕とか」


「さあね?君の想像にお任せするよ。話を戻すけど、交渉は受けないってことでいいかな?」


 和貴は無言で頷くと真木那は「そうか」と呟いた後、普段の表情に戻った。すると、会話するために離していた叶を真木那は呼ぶと、何事もなかったかのように話を続けた。


「さて、冷めちゃうからさっさとご飯を食べて。せっかく作ったのに口にしないで帰るのは流石に怒るよ?」


 どんな技術で保温を保たれているのか不思議に思った和貴だが、真木那の言う通り、せっかく出してもらった料理を食べないのはどうかと思い、その料理を口にする。


 真木那が作った料理は完全なオリジナルなのか、今までに見たことが無い料理であった。たまにしか真木那の料理を食べていない和貴だが、毎度の如く驚かされる。その料理を見て、戻ってきた叶が興味を示したのか、真木那に質問をし始めた。


「この料理って真木那さんの手作りですか?見たことない料理ですね!」


「そうだよ。他にも、色んなレシピを持っているんだけど、それなりに手間がかかるから常連と気に入った相手にしか作るつもりは無いよ。ああ!叶ちゃんは私のお気に入りだから心配しなくてもいいよ」


「それじゃあ、私も頼んでいいですか?見てたらお腹空いてきちゃって…」


 先ほどの和貴の対応と違って嬉々とした表情で真木那は料理を作るために店の裏へと戻って行った。対応の差に文句を言ってやろうかと思った矢先、叶は和貴の方をずっと見ていた。


「どうした?俺の顔に何かついているのか?」


「いや…その声、体育館で聞いた声に似ているなぁーって思っただけ。気のせいでしょうか?」


 勘がいいなと和貴は叶に感心する。正直に答えてもいいと思ったが、できるだけあの事件に関わっていたことは伏せておきたいと考えた。何より、叶にとってもショックな事件でもある。あまり触れるべきではないだろう。


「気のせいだろう。それより、叶は何の用でこの店に来たんだ?」


「買い物です。あの事件の後、自宅謹慎しなさいって学校から連絡が出たんです。ボクは一人暮らしだから、買った分のご飯がもうなくなっちゃって…それで今日はこのお店で買い物しようかなって思ったんです」


「そうか、大変だな一人暮らしは。まぁ、親が仕事で忙しいから実質一人暮らしのようなもんだけど」


 そんな雑談を叶と楽しんでいると、店の奥から真木那が料理を持って現れてきた。和貴が食べている料理と同じだが、飲み物やサラダと言ったサービスがついていた。明らかな対応の違いに和貴は眉間にしわを寄せて、真木那に文句を言う。


「ちょっと待て、明らかに俺との差が激しすぎるだろ。差別じゃないか?」


「やる気の差だよ。不愛想な常連よりも、可愛い新客の方がいいに決まってるじゃん。誰だってそう思うけどね。ところで、代金だけど、和貴は五万。叶ちゃんは八百円でいいよ」


「おい!?いくらなんでもそれはぼったくりだぞ!?本当に軍に訴えてやろうか!?」

 

 真木那とは長い付き合いだが、流石に冗談では済ませない部分もあってか和貴は半分脅しで真木那に迫る。すると、真木那はクスクスと笑い、先ほどの言い分を撤回する。


「冗談だよ冗談。君はいつも真剣に考えてくれるから面白い。料理の代金はあの事件で何があったのか教えて欲しいな。もちろん、教えなくてもいいよ?しばらく、君がこの店のバイト店員になるだけだから」


 ニコニコと笑う表情をしながらも、本当に代金を払わなければ無理やりにもバイト店員にさせられそうに感じた和貴は溜息を吐きながらも、和貴が体験した事件のことを話そうと決めた。


「わかった。それを代金として話す。だが、話すのは俺視点で起こった出来事だけだ。戦いで何があったかはまでは俺もわからないからそこは了承してくれ」


「いいとも。それと、この話は叶も一緒に聞かせてもいいかな?どうせばれるのは時間の問題だし」


 真木那の提案に和貴は話そうか一考する。真木那の言う通り、事件の概要がばれるのは時間の問題だ。

しかし、今は口止めをされており今のような状況でない限りは話してはならない。和貴は叶の目を見て彼女の確認を取った。


「叶、お前はこの事件が起きた出来ごとの全てを聞きたいか?事件の出来事が辛かったら、話を聞かなくてもいいが…」


「聞かせてください。ボクが知らないところで何が起きたのか、何も知らないのは嫌です」


 真剣な表情で叶は和貴の目を見つめる。和貴は軽い気持ちで話を聞こうと思っていたのならば即座に退出させようかと考えていたが叶の態度に和貴は彼女なりの覚悟を感じ取った。


「話す前に言っておくが、今から話すことは他言無用で頼む。それを承知で聞いてくれ。まず、事件が起きた時だが…」


 話すこと一時間弱。和貴はこの場にいる者全員に事件の出来事を語り終えた。真木那は話しながら食べた料理を片付ける為に今は店の裏に移動して食器を洗っている。この場にいるのは和貴と叶の二人だけだった。


 話が終えた後、無言の状態が続いていたが、叶が疑問に思ったことを和貴に問いかけた。


「和貴先輩が指示してクラスメイトが戦ってくれてたのはわかりました。ですが、そのクラスメイトは怪我をして今も病院に入院してるんですよね。何も感じたりはしないのですか?」


「作戦中は何も考えないようにしてる。情でまともな作戦が練れなくなるのは本末転倒だからな」


 ただ…と和貴は一拍置き、瞼を閉じた後今回の事件で傷を負ったクラスメイト達を思いだしながら続きを話した。


「ただ、そうだな。作戦が終わった後は本当にこの選択が正しかったのかって考えることはあるよ。指示して敵に勝利したことは事実だが、その為にクラスメイトが傷ついたのも変えられない事実。何かを成すためには何かを犠牲にする必要がある。だから俺は、常に最善を目指して作戦を考えている。これまでも、これからも」


 叶の質問に答えた和貴は席を立ち、叶に別れを告げて店を後にした。全ての用事が終わったため、自宅へ戻るべくバス停へと向かっていた。


 バス停までの道のりは夕日に照らされ、時折街の建物の隙間から浴びる光が眩しく思えた。人もだんだん増え、しばらくすれば帰宅する人達で溢れかえるだろう。


 そうなる前に和貴はバス停に到着し、バスに乗った和貴は突然声を掛けられた。その人物は和貴の近所に住んでいる墓守詩奈と景山幸成だった。


「詩奈に幸成。何でここに?」


「何でって、見ればわかるでしょ。買い物よ買い物。和貴は事情聴取からの帰り?」


 そんなところだとそっけなく答えると、荷物を大量に持った幸成を見て少しかわいそうと思い、荷物を持とうとした。


「俺も手伝うよ。この荷物量じゃあ、運ぶの大変だろ」


「普段ならありがたいけど、今回は手伝わなくていい。今は俺の仕事中だ。悪いが、手を出さないでくれ」


 荷物で隠れて幸成の姿が頭しか見えなかったから彼の服装が分からなかったが、幸成の格好は私服ではなく、仕事用のスーツを着ていた。それなら仕方ないと思い、和貴は申し訳ない気持ちで幸成を無視した。


 しばらくして、自宅付近のバス停に着き、和貴達はバスから降りて自宅へと向かって行った。家に辿り着くまでの間、和貴と詩奈は談笑していた。そしてその時間はあっという間に過ぎ、詩奈と幸成は家に辿り着いた。


 別れを済ました和貴はすぐ近くにある家に辿り着いた。戸締りはしており、誰も家に帰っていないことを確認しか和貴は鍵を使って扉を開ける。


「ただいまーって言っても、誰もいないか」


 虚しい一言を呟き、和貴はリビングへと向かう。事件が解決してから梶山はずっと基地に泊まりだった為、家の様子は今朝と変わらなかった。


 今日の晩御飯を考えようとした時、突然携帯電話が鳴りだした。電話は梶山からであった。和貴は珍しいと思いつつもその電話に出た。


「もしもし、梶山さん。一体どうしましたか?手伝いなら軍の命令で自宅謹慎で手伝えませんが…」


『いや、別件だ。今回は軍の命令じゃなくて、親としての頼みだな』


 梶山さんから相談事とは珍しいと思い、和貴は近くに置いてあった、ペンと紙を用意して書く準備をした。


「それで、頼みって何ですか。よっぽど無茶な頼み後以外なら引き受けますが」


『そうか!それは助かる。時間が無いから要件だけ伝える。実は…』


 王に会って話し合いをしてくれないか?その言葉を理解するまで和貴は石造のように身体を動かせず、言っている意味を理解できなかった。

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