「この世界の話をしよう。
この作品が処女作です。この作品を読んで気になったところやおかしなところを指摘して頂ければ幸いです。もちろん感想があればよろしくお願いします。
この物語を語る前に少し昔の話をしよう。
今の世界が創られる遥か昔、世界は経済が発展し、人類が繁栄していた。誰もが等しく平等とは言わないが、皆それぞれの幸福を持っていた。まさに理想郷。実に素晴らしい世界だった。
だが、その世界は突如終焉を迎える。
原因は宇宙から降ってきた隕石に付着していた謎のウイルス「ヒュドラウイルス」よってだ。このウイルスに感染すると、血管は浮き出て肉体が変質していく。最期には人間としての原型を保つことが出来なくなり土塊のように崩れ、死に至る。
原因が解明するまで、このことは巨大隕石が宙から降ってきた程度にしか認知されなかった。
人類の油断ともいえるこの僅かな時間、たった五年でヒュドラウイルスは世界中に萬栄し人類の九割近くが死に至った。これにより、人類の繁栄は終焉を迎え幸せの世界は滅びた。
そんな世界に追い打ちをかけるように起きた出来事。それは地球外生命体の侵略であった。
ヒュドラウイルスの猛威を振るってから三年後、地球に再び隕石が降ってきた。巨大隕石ではなかったが、人類のほとんどがこの隕石が不吉の予兆を感じていたらしい。
六つの隕石が地球に着弾後、近くに住んでいた人間がその隕石を観察していると、それらは紫色に輝き始めた。眼が眩むほどの輝きが収まると、そこにはこの世の物とは思えない怪物達の姿が出現していた。
隕石から生まれ落ちた怪物達はそれぞれの隕石が着弾した国々、アメリカ、ロシア、エジプト、インドネシア、ドイツの五つの国を崩壊させた。
これにより、世界中の人口はさらに激減し、地獄と比喩することも生温い残酷な世界が始まった。
五国を滅ぼした怪物達は破竹の勢いで隣接する国々を滅ぼしていった。島国であった日本、イギリスは幸いにも敵から侵略されることなく、独自の軍事態勢に入ることが出来た為、滅亡することはなかった。
しかし、怪物達の力は当時の人間の常識を遥かに変えていた。生き残った二国の中で一番最初におとされたのはイギリスであった。当時の現代兵器を用いるも、怪物達の予想を超える戦闘力によってあっけなくイギリスは崩落した。
イギリスが戦っている最中の電報によってそのことを知った日本はどうすれば怪物達に対抗できるのか新たな手段を模索し始めた。
そして日本の科学者達はある一つの理論に辿り着いた。その理論とは、かつて人類に対して猛威を振るったヒュドラウイルスを媒介とし、強力な人間を生み出すことであった。
限られた時間の中、幾度の実験と失敗を重ね、イギリスが崩落すると同時にその兵器、超能力を発現させた七人の子供を生み出した。
この実験に関するある論文には、能力についてこんなことが記載されていた。
『我々は様々な能力者を生み出したが、例外を除いて必ず代償と呼べるデメリットが発生していた。その代償が三通り存在することから我々は能力者を三つの種類に分別することにした。
① 一つ目は能力を発動してから代償が発動するタイプだ。このタイプの共通の特徴として、代償が大きければ大きいほど、強大な能力を有していることである。これを〈代償型〉と命名する。
② 二つ目は前述とは逆に、代償を支払ってから発動するタイプだ。このタイプは求められる代償が高ければ高いほど強力な能力を有している傾向がある。これを〈コスト型〉と命名する。
③ 最後の三つ目はこの二つと違い、代償が発生しないタイプである。だが、代償が存在しないためか、前述の二つのタイプに比べても明らかに能力が弱かったり、能力が強力でも、素体があまりにも出来損ないであることが判明されてる。これを〈欠陥型〉と命名する。
未だに能力者の能力のタイプはまだ詳しく解明できていないが、能力者が能力を開花させていくにつれて、基本的に②のタイプが一番多いと我々は判断した』
七人の能力者を生み出した軍は早速前線へその兵器を送り出した。その結果、当初の目的であった防衛を容易く完遂。それどころか攻め入った敵が撤退する前に全ての敵を倒すというこれまでにない戦果を挙げた。
その戦果によって姿を白日の下に晒した怪物達を後に「戦闘族」、「龍神族」、「真似猫族」、「海魔族」、「獣人族」、「神仏族」の六つの種族に分けられた。
それぞれの怪物達の特徴を把握、対抗策を学んだ軍はイギリスの奪還をするために怪物達に戦争を仕掛けた。八年という長い時間をかけ、人類は初めて怪物達に勝利しイギリスを奪還した。
後にこの戦争を「英国奪還戦争」と呼ばれ、その戦争で活躍した最初期の七人の能力者を敬意と畏れを込めて「天災の英雄」と崇められた。
次に今の話をしようか。
英国奪還戦争から十六年過ぎ、イギリス以外に侵略されていた土地の一部を少しずつ取り戻し、人類は少しずつだが、繁栄を取り戻しつつあった。戦いが始まった頃は高層ビルなどの高い建物がすぐに崩壊したが、今では破壊されたかつての建物はいくつか修復され、能力者によってさらに強靭な建物へと変わっていった。
食料の問題もかつては深刻なほど大きな問題であったが、生産者が増え、能力者によって楽に生産できるようになってからはその問題もあと数年で解決するだろう。
英国奪還戦争以降、大きな戦争は何一つなかった。だが、小さな戦争で天災の英雄が何人も倒され、今では戦場で活躍できる初代天災の英雄がたった一人だけとなってしまった。それを補うべく政府は天災の英雄に匹敵する能力者達を選別し、新たな天災の英雄として崇めた。
敵からの襲撃には連戦連勝。逆に土地を奪還しようと活動すると無限に湧き続ける敵の人海戦術によって撤退せざる得なくなる。それが今の戦場であった。人口が増えたとはいえ、無駄に人員を減らすことが出来なかったこの時代において、特攻や捨て駒と言った手段を使うことが逆に敗北に繋がることが多かったためである。
その現状をなんとかする為、日本はより強力な能力者の育成と軍隊の質を上げるために時間を費やしている。イギリスは十六年前の戦争の影響である程度は街が復旧しているがそれでも人が住むには少し息苦しい場所になってしまった。ここまでがこの世界に存在する教科書に記された歴史だ」
機械仕掛けの一人部屋にいるその者は手に持ったその本をパタンと閉じ、適当に放り投げた。するとその本は勢いが殺され、宙に浮かび始めた。その様子を確認するとその者は別の宙に浮いている本を手にした。
その者が手にした本はタイトルすら何も書かれていない白い本であった。中を開いてみるとその本は一文すら書かれていない白紙だった。普通ならそれだけでその本をしまい、別の本を取ろうとするだろう。
だが、その者は微笑しその白紙の本を手にしてまるで文章が書かれているかのように読み始めた。
「理想郷が終焉を迎え、地獄が始まった。そして人間は脆く、そしてちぎれそうな細い一本の蜘蛛の糸をうまく掴み取り、地獄から脱出した。だが、その糸の先は何があると思うかい?天国か?あるいは地上か。…フッ、否。その先は誰もわからない。何故なら、その先を望んだ者だけが知ることだから。さて、話が長かったがこれからの話をしよう。この地獄から生き延び、その先を全力で生き抜く少年の話だ。だが、ただの少年ではない。特別な、そう、特別な魂たちを持つ少年の話だ。そしてこれは運命という籠の中にいる少年が抗い、成長し、道を切り開く物語である」
そう言い終えると、その者が手にした本に新たなタイトルが刻まれていた。
そのタイトルを『グロウ・ソウル』と…。