表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビブリア・リライト  作者: 熊男料理長
1/1

始まりより少し前のお話。

「あと10分で~西暦2005年3月18日~日本、宇野宮のローカルバスに繋がりまぁす。」


気の抜けた若い男の声が車内に響く。


「田舎みたいだけど、バス停は一応国道沿いだから安心してネッ」


気の抜けた車内放送が終わることを待っていたように、前方に座っていた白地に青のラインが入ったショートコートの男は静かに立ち上がるとタブレットを手にゆっくりと後方へ歩いてゆく。


「皆様、先程本部の方よりこちらが送られてまいりましたので出立前にお目通しを」


横並びに座っていた三名の乗客。中央に座っていた女性が差し出されたタブレットを受け取った。


「対象はおおよそ200。この期間、この地域に限定して集中しすぎているため、想定外の事態も起こりえます。注意を払っての行動を心掛けてもらいたいとのことです。」


指の動きに合わせ、タブレット上を滑ってゆく数多の情報。

男の言葉を耳に入れつつ、瞬きする暇すら惜しいというように青い瞳が文字列を追いかけてゆく。

スクロールバーが末尾まで到達すると左隣に座る男にタブレットを手渡し立ち上がる。

「確かに、過去に行ったものより大規模ですね…一人60は当たらなくてはなりません…私は南東部の過密地域を中心的に当たることにします。ですので、パドリー、レヴル、二人はこの地域の中心部を拠点とし、共同で任務に当たってください。」

まとめられた長い白髪が風になびく旗のようにふわりと凪いだ。


「ご武運を、ロア。」


「ありがとうございます。アレディス」

アレディスと呼ばれた男は片手を胸に当て甲斐甲斐しく頭を下げた。

人間離れした透き通った白髪の男女が会話を交わす光景。それだけでどこか荘厳な美術館に飾られた絵画のような雰囲気を醸し出す。


「ア~レ~ディ~ス~さ~ん」

渡されたタブレットを見終えた少年はそれをアレディスに突き返すと、恨めしそうに一瞥する。そして、ロアの前に跪き騎士のように恭しく両手を取った。

「担当地域なんてパッと片付けてすぐロアさんの所に駆け付けます!何があっても僕が守って見せますからね!安心してください!ロアさん!!!」

ぎゅっと両手を強く握りしめられ、ロアは眉根を下げる。

「パドリー!!ロアさん困っているじゃない!!!」

秋の森を彷彿とさせる栗色の髪の少女が少年の耳を強く摘み上げる。

「痛い!痛い痛い!!!レヴル!痛いってば!!!」

「今から現場に行くって時に!そんなんだと目の前で逃げられるか痛い目を見るわよ!!!シャキッとしなさい!」


ぎゃいぎゃいと少年たちのやかましいやり取りが交わされる中、掌を握られたままのロアはどうしたものだろうかとその表情に困惑を浮かべていた。

「おやおや、パドリーさんもレヴルさんも頼もしい限りですね。」

「そう…ですね。いえ、その…危険のないよう、互いに注意を払いましょうね。パドリー。」

「ろっ…ろあさああん!!」

キラキラと向けられるまっすぐな視線にロアは言葉を詰まらせる。アレディスも子犬のように起伏にとんだ少年を見て下がりがちな目を細め、苦笑を浮かべた。

突然、車内放送のマイク越しにつんざくような声が響いた。


「アレディスずるーい。俺もロアと喋るぅううううう」

バックミラー越しにアレディスそっくりな顔が覗く。つり気味なぱっちりとした目がロアをとらえると男は嬉しそうに頬を持ち上げた。


「本日の運転手は貴方なのだから、責任を持って業務にあたってくださいコレザット。」

アレディスがくるりと前方を向き抑揚のない声音で返す。


「ロアたちが乗るなんて聞いてないもん!…知っていたら、爺の目を盗んで業務ローテーション弄っておいたのにぃ…」


悔しがるコレザットの嗚咽が入りっぱなしのマイクを通して数分流れた後、停車ブザー音が車内に響いた。

次第に速度をゆるめ、静止した車体の前方でドアが開く音が鳴ると満足げな顔をしたコレザットが後ろを振り向いた。


「はーい、ちゃあんと業務に当たったからきっちりバッチリ寸分狂わずに到着したよ~」

皮肉めいた棘のある物言いでアレディスにジロリと視線を向ける。


「当然でしょう。」


さも当然のことを何を…と言いたげな目に小さく抗議の声を上げるが相手にされないと察し悔し気に引き下がる。


「あ、ロア!これあげる!二人にもあげる!」

突然思いついたように、運転席から乗り出したコレザットがロアの手にどこからか取り出した飴玉を握らせる。

「三人とも行ってらっしゃい。大丈夫!ちゃんと帰らせるから。安心して仕事してきなよ、写字生さん。」



左足の付け根に装着されているベルトをギュッと絞め直す。

厳つい留め具を撫でると覚悟を決めたように一歩を踏み出した





数年前に投稿したものがありましたが5年ぶりなので気持ち的に初投稿作品となります。

本編は本日中に1話目を掲載予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ