第三章 闇からの宣告 3
ルブルとメアリーは、ルブルが作り出した白骨のドラゴンに跨っていた。
「緑の悪魔が頑張ってくれているのかしら?」
「さあ、どうかしらねえ」
メアリーは、くすくすと笑う。
白骨竜は、かちゃかちゃ、と歯音を鳴らしていた。
メアリーは、幻影によって、別の景色を作成する事によって、周囲の警護兵達の眼を欺いているのだった。
何故、此処に宣戦布告する事を、最初に考えたのか。
それは、此処こそが、秩序の象徴そのものだったからだ。
白骨ドラゴンは、口元からしゅうしゅうと、瘴気を放ち続けていた。
きっと、此処で、祝祭の宣言が行われるのだ。
大きなカーニバルが行われる。
その開幕の宣言をしなければならないのだから。
ルブルは、人と物体の区別が分からない。
メアリーは、憎悪を撒きたがっている。
そうして、邪悪な思想が、世界全体へと溢れ返っていけばいい。
†
「何故、“吸収”出来ない?」
緑の悪魔は、全身に傷を負いながら、立ち上がる。
明らかに、彼女は狼狽を隠せずにいるみたいだった。
「炎でも、風でも無いの? 何なの? あの力…………」
彼女は自身の火脹れになったような両手をまじまじと眺めながら、考え込んでいた。
ゆらりと、水面を何かが通り抜けるような音が、大気中でしていた。
緑の悪魔の上部に、大きなエイのような乗り物が現れた。
遅れてやってきたのだろう。
彼女は、不快そうな顔で、それを見ていた。
窓のようなものがあり、中には、二人の人物が乗っているみたいだった。
「よう、グリーン・ドレス。どんな感じだよ?」
メアリーから見繕って貰った、ベージュとグレーのドレスを纏って、セルジュが、緑の悪魔に手を振っていた。御丁寧に、頭半分を覆う、コサージュの付いた帽子まで身に着けている。彼は、少し前までは、男であり、しかも元々は異性装者や性同一性障害の兆候があったわけでもなくて、片思いの女の肉体をぶん取って、好きなように着飾っている男だ。何だか、どう反応すればいいのか分からない複雑な感情が、緑の悪魔の中にはあった。
しかし、すぐにそんな事はどうでもよくなって、先ほどの少女との戦いを思い出す。
まるで、あっけなく撃退されてしまった、という印象を与えてしまっているのだろう。
これでは、自分がただの雑魚のように見られてしまうんじゃないのかと、彼女は、執心を燃やし始めていた。
「ふざけやがって、ふざけやがって、あの連中。全員、燃やして墨にしてやるっ!」
「まあ、待て。緑の悪魔、時間だ」
そう、イゾルダは淡々と告げる。
「何? 私の怒りが収まらない。焼いてやる、凌辱してやる、ふざけやがって、あの女っ!」
ぶすっ、ぶすっ、と、彼女の口から煙が吐き出されていく。
「『渦の牙』という地形が、この辺りであるらしいのだが。そこで、宣戦布告を行う。お前もそこに出席しろ。命令だ。守れ」
緑の悪魔の全身から、炎が噴出しては、消えていく。
「命令? 私は誰にも指図されない」
「守れよ」
そう言うと、イゾルダの右腕がぐにゃり、ぐにゃりと、変形して、鋭利な刃物のようになる。
「その首、叩き落してやろうか?」
「ああっ、あなたから墨になりたいの?」
セルジュが見かねたように、二人の間に割って入った。
「何だよ、お前ら。何なら、俺がお前ら二人共、倒してやろうか」
そう、必死で意気込む。
それを見て、緑の悪魔は、ぷっ、と腹を抱えて笑い出す。
イゾルダが、セルジュを押し退ける。
「とにかく、ルブル達の言って貰った事は守って貰うからな」
緑の悪魔は、面倒臭そうな顔で、首を縦に振った。
少しだけ遠くの場所に狼煙のようなものが上がっていた。
きっと、ルブルとメアリーが、この地へと降り立ったのだろう。
そこは、アサイラム施設からは多少、離れているが、確かに此処の土地だった。
そこは、まるで獣の牙のような、あるいは何かの武器を螺旋のように捻じ曲げたような、そんな地形をしていた。