表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/80

第十九章 終幕へと…… 4

 ラジュリは震えながら項垂れていた。

 ミソギからの連絡が途絶えている。


 これから、ケルベロスとの戦いに挑むのだと言っていた。

 けれども、一抹の不安が彼の中には過ぎっていた。彼はミソギの弱さを知っている。知っているからこそ、勘付いたものがあったのだから。


「あれっ、もしかして。ミソギさま、あたしを置いていかれた……?」

 ラジュリは通信機を取り落とす。

 涙がぽろぽろと溢れ続ける。

 とても頼もしい男だった。けれども、もうラジュリに何もしてくれないのだ。

 かつり、かつりと、地下のアジトにやってくる足音が聞こえる。


「ふん、もういい加減にしたらどうだ? お前はミソギの右腕だろ? お前が死ねば、奴の組織はかなり弱体化し、無力化する事が出来る。そういう事だ」

 ホビドーは冷たい眼で、散々、追い詰めた男の顔を見下げていた。


「もうお前は終わっているんだよ。俺の『アシッド・フィールド』に喰われるだけだ」

 一切の慈悲も灯らない処刑人の眼。

 それを強く、ホビドーは宿していた。

 ラジュリは、目の前にいる男を空ろに見ていた。

 どうやら、この男は追跡に掛けては、かなりの手腕を持っているらしかった。だから、少ない痕跡からでも、散々、ラジュリは彼との鬼ごっこに付き合わされていた。

 けれども、今や完全に追い詰めた。


「ほら、もう離さねぇよ。言われたかった言葉だろ?」

 ホビドーの周りを飛んでいるものが、今やはっきりと見える。

 それは、スズメバチの大群だった。

 蜂の群れが、パワード・スーツを破り、酸性の霧のように舞いながら、敵を喰い尽しているのだ。


 ラジュリは、わなわなと震えていた。

 ミソギは、ケルベロスの手によって敗北した。そして、おそらくはもうこの世界にはいない。彼のいない世界になんて、どれ程、意味があるのだろうか。

 ゴミのような人生に光が刺し込んだような気がした。

 何よりも、ラジュリ自身、金が好きだった。それによって手にする貴金属類なども好きだった。そして、それらを楽しそうに手にするミソギの顔を見るのが好きだった。


「スズメバチだが、何だか知らないけれども……やってやるわ……」

 ラジュリは、いつの間にか、左手に何本かの小瓶を手にしていた。

 そして、それを床に取り落とす。


「こうなったら、あなたも道連れよ。ウイルスの生物兵器のサンプルは手にしていた。抗体も何も無いわ。ペスト菌だって、殺すのに、早くて数日かかるけれども、これは……」

 ラジュリの皮膚が紫色に染まっていく。

 ホビドーは無言のまま、彼を見ていた。

 蜂達が、ぼとり、ぼとりと、ウイルスに感染して地面へと落ちていく。

 ホビドーは、むうっ、と唸った。彼の全身もまた、紫色に染まっていく。

 全身に悪寒が走り出す。

 どうしようもないくらいの、眩暈もしてくる。


「その薬品の中身、何とか、全て押収しなければならないな、ふん」

 ホビドーは首を鳴らしながら、何とか眩暈感を振り払おうとしていた。

 ラジュリは自らの散布したウイルスで絶命していく。


 一方……。

 ホビドーは、蜂に自らの肉体を刺させていた。彼の肌から、紫色の斑点が消えていく。


「俺自身なら彼らは治療する事が出来るんだ。俺は有害物質汚染地域の派遣員をやっていた。イゾルダの生体兵器の処理も任されたのは、それも理由だったんだよ。下らない事をするもんだな」

 この街には、麻薬カルテルが巣食っている。

 かなり、危険な区域だったが、反面、多くの住民は長閑な生活を送っていた。


 やがて、ラジュリが撒いたウイルスが広がっていくだろう。

 しばらくは、此処も危険区域になる筈だ。


 どうしたものか、と、ホビドーは頭を抱えたものだった。

 しかし……、何とか彼らの組織を追い詰める事は可能だった。

 この組織を封じ込めれば、……大量破壊兵器の流出を防ぐ事が出来る筈だ。


 ホビドーはどの国にも所属していない。その事にも意味があった。

 戦争を防げる国が、幾つもある筈なのだ。とにかく、自分が出来る事をやるしかなかった。

 アジトの外には、灰色の雨が降り注いでいた。この雨がいつも、抗争によって撒かれていく血を洗い流しているのだろう……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ