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第三章 闇からの宣告 1

 セルジュは、自身の中に生まれた力をひとまず『映し鏡』と名付けた。


 彼は、ルブルから借りた、動く死体を取り出して、鏡の前へと置く。

 そして、死体が映っている鏡を叩き割る。

 すると、鏡が割れた通りに死体が砕け散っていく。

 自分自身には、どうやら効果が無いみたいだった。

 メアリーいわく、かなり強力な能力らしいのだが、問題はどうやって、相手を鏡に映し出して、更に鏡を割るか、だった。


 頭がキレたり、素早い能力者ならば、そんな悠長な戦いなどしてはくれないんじゃないのか。それが、メアリーからのセルジュに対するアドバイスだった。

 鏡をずっと見続けていて、ダリアの幻影を破壊したい。

 そんな事ばかりを考えていると、こんな力が身に付いたのかもしれない。

 能力とは、一体、何なのだろうか。彼には分からない。

 あるいは、自分自身が欲している大きな何かなのかもしれない。

 しかし、彼はこの閉ざされた部屋を抜け出す事を欲していない。

 あるいは、だからこそ、彼は戦いを望んでいるのだろうから。


 ずっと、ずっと、鏡の中のような、観念の中の世界に閉じ篭っていたい。

 そればかりが、彼にとっての真実なのだから。



 アイーシャは、ルブル達の目的なんか分からない。


 ひたすらに、自分自身に降り掛かる悪夢と戦っていた。

 毎朝、メアリーが彼女の部屋の中へと入ってくる。

 朝食は仕方無く貰うのだが、その後で、彼女はメアリーを捕まえて、剣やナイフなどで、全身を切り刻んでいく。

 自らの心が、果ての無い、激しい憎しみによって蝕まれていく事を理解していく。それでも、彼女はメアリーの心臓にナイフを突き立てて、首を切断していく。

 ごろりっ、と、彼女の首が地面に転がっていく。

 そして、次の朝になると、またメアリーが朝食を運んでくる。

 殺した筈の女が、当たり前のように微笑を浮かべながら、部屋の中へと入ってくるのだ。まるで、自分の精神が断裂を引き起こしてしまったんじゃないのかと思ってしまう。


 メアリーは殺しても、生き返る。

 その繰り返しばかりだった。

 何が起こっているのか分からない。

 とにかく、自分が狂っているとしか思えない。


 最初、四肢が無いままに、メアリーにはいいようにされていた。

 憎しみと絶望と、無力感ばかりが、膨大な海のように自分の中に蔓延していくのが分かった。あるいは、メアリーは憎悪を世界に撒いていきたいのだと言う。

 ダートの戦いとは、彼女にとって、そういうものなのだろう。

 可能な限り、世界中の者達に憎悪を撒いていく為の、メアリーの望みそのものなのだ。

 アイーシャは、彼女の憎しみの虜にされてしまっているだろう。

 毎晩、彼女は解体されていくメアリーの肉体を、可能な限り、細切れにしていく。血の臭いも、確かにある。手触りも問題じゃない。


 なら、自分は完全なまでに狂っているのだろう。

 殺しても、生き返ってくる女。

 彼女は、ただのゾンビなのだろうか。

 なら、細切れにした死体は一体、何なのだろうか。

 自分は、一体、何を見ていて、何処にいるのだろうか。


 アイーシャは崩壊感を抱えながら、生きていた。

 どうしようもないような、憎悪が膨れ上がっては消えていく。

 きっと、それこそが、メアリーの目的なのだろう。

 メアリーは、憎悪をこの世界全体に撒き散らしたがっている。


 それこそが、彼女の唯一無二の目的なのだろうから。

 彼女を蝕んでいるのは、メアリーなのか、それとも自分自身なのか、もはや何も分からない。




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