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第十七章 そして、舞台は回転する。 2

 二階建ての店だった。

 作りは、西洋建築を思わせる。


 商い中、と書かれた看板が書かれている。

 レウケーは店の中へと入る。

 外では、ブレイズが待機していた。

 店の中には、異形の品物が置かれている。

 彼はまじまじと、それらの品物を眺めていた。

 中でも、姿鏡が眼に付いた。中には、別世界が広がっているかのようだった。

 どうやら、無人みたいだった。だが、ブレイズから聞かされている。

 もし、店主が一階にいなかったら、二階へ上がれ、と。

 レウケーはブレイズに言われた通りに、店にある階段から二階へと進んでいく。

 何か得体の知れない紋様などが、壁に描かれていた。

 床や天井などは、その奇妙な紋様などによって覆い尽くされている。

 そこには、一人の女性と、彼女が看病する、シーツの中に臥せっている白金の髪の姿を見つける。


「お前がデス・ウィングか?」

 レウケーは、女の方に言う。


「そうですけれども、……ああ、駄目ですよ。今、取り込み中でして。また次の機会にでも……」

「商い中という看板にあったが?」

「すみません、帰る際に直していてくれませんか?」

 彼女はそう言いながら、ふと、レウケーの顔をまじまじと見つめる。

「おや? お客さん、もしかして、ドーンの者ですか?」

「そうだ。更に言うと、アサイラムの職員の一人だ」

「ふうん?」

 女の顔は、愉悦に歪む。


「今、此処に眠っている男は、ダートのメンバーに参加した者の一人、ホーリー・ドラゴンのエアですよ。彼は肉体的な損傷は治したのですが。どうも、精神的に参ってしまっていて、このまま眠ってしまっているんです。まあ多分、鬱を発症したのかも」

「なんだ、と……?」

 ホーリー・ドラゴン。

 メビウス・リングが取り逃したと聞かされている。

 レウケーは思わず、この場でグラウンド・ゼロを叩き込むかどうかという発想が頭をかすめるが、すぐに冷静な思考を取り戻す。


「お前はつまり、匿っているのか?」

「そうですね。昔からの友人ですし、何よりも、私はドーンとダートのどちらに肩入れするつもりもない。メビウスの肉体のパーツを渡し、ルブルにはミソギと、このエアを紹介しましたから」

 レウケーは、少し固まってから、デス・ウィングに刀の刃先を向ける。

「お前も、お前もダートに加担しているのか? ならば、俺達、人類の敵だ。分かっているのか?」

 デス・ウィングは、余裕たっぷりの表情を浮かべながら鼻で笑った。


「人類の敵ですか。それは望む処ですよ。私にとって、この世界なんて全て劇場でしかありませんからね。みんなマリオネットの人形のように操られているようなものなのですから」

 そう言うと、デス・ウィングは立ち上がる。

「それよりも、私に何か用事でもあるのでしょう? 私はドーン側にも協力するつもりでいるのですよ? 私は中立を保つつもりですから。どうします? 何か御相談があって、此処に来たんじゃないんですか?」

 彼女は無邪気さと、悪意が入り混じるような笑みを浮かべる。


「処で、この店を荒らしたりはしないで下さいよ? 貴方ごときを始末するのは、とても簡単なのですからね?」

 柔らかな口調だったが、レウケーの心を挫くのには、確かな物言いだった。

 どうやっても勝てないだろう、という歴然とした力量の差が、彼女を前にして現れていたのだった。


「そうだ、頼む……」

 レウケーは思わず、頭でも下げそうに言った。


「ケルベロスという男を助けてくれないか? 奴は俺達の希望なんだ」

「ふむ? いいですよ?」

 彼女は何もかも知っているかのような表情をしていた。

 そして、何もかもを楽しんでいるのだろう、という事がよく伝わってきた。

 何かしら、好からぬ事を企んでいるかもしれない。しかし、余計な邪推をしている余裕も、此方には無かった。縋るしかないのだ。


 突然。

 まるで、ゴム鞠でも跳ねるように、部屋全体が振動する。

「何だっ?」

 デス・ウィングも、少しだけ焦った顔をする。

 毛布に包まれて臥せっていた男、エア。

 彼が半ば、覚醒したのだった。


「おい、エア。お前、もう少し寝ていろ。私は彼と少し話す事がある。それから、商売の邪魔するなよ?」

 慇懃無礼だった口調とうって変わって、デス・ウィングの喋り方がぞんざいになる。

 レウケーは彼女から、明らかな焦りが見せた。

 更に。

 エアの指先が光り、糸状の環を辺りに撒き散らしていく。

 壁などに描かれている文様がそれらを吸収していくが、耐え切れないのか、光によって壁が破られた箇所もあった。


「ああ、クソ。えと、貴方、お名前は?」

「レウケーだが」

「此処はかなり危険です。エアが目覚めた。防御ルーンによって、彼の能力を中和しようとしたのですが駄目だった。ああ、私の店…………」

 そう言うと。

 デス・ウィングは、狭い部屋の中に風を巻き起こして。

 壁を風の突風で突き破って、エアを店の外へと弾き飛ばしていく。


「さて、貴方も、行きましょう」

「あ、ああ?」

 レウケーは気付くと、突風の中に飲み込まれていた。

 どうにも、抗えない強い風力だ。

 気付くと、腰から落とされていた。

 店の外だ。

 ブレイズは、どうやらいなくなっていた。

 代わりに、全長数十メートル程もある赤と青の毛皮をした、マントヒヒのような怪物が姿を現していた。


「あれは何だ?」

 レウケーは突風の中で、デス・ウィングに訊ねる。

「あれは私の使い魔ですよ。店を攻撃すると出現するようにしてある…………」

 マントヒヒの怪物は、エアを持って握り潰そうとしていた。

 しかし。

 怪物の右腕が光の輪の中に飲み込まれていく。

 怪物は今度は、もう片方の腕でエアを潰そうとする。だが、左腕も光によって消し飛ばされる。

 そして。

 大きな光の鎌が出現して、怪物を縦に一刀両断にした後、怪物の肉体を光の中へと食い尽くしていく。

 どうやら、ホーリー・ドラゴン、エアは眠りから醒めたみたいだった。

 彼は薄い部屋だけを身に付けていたが、全身を、まるで鎧のように、光のオーラによって覆っていた。


「駄目か…………」

 デス・ウィングは、かなり焦っているみたいだった。

「あの、貴方の能力ってどんな奴ですか?」

 彼女は少しだけ、縋るようにレウケーに訊ねる。

「ああ、ああ」

 レウケーは能力の概要を言う。

 デス・ウィングは唸る。


「じゃあ。私は私の能力で店を防御しますから。それ、此処で全力で放ってくれませんか?」

 レウケーはしぶしぶ、自分のグラウンド・ゼロを放つ。



 間違いなく、自分は狂っているという自覚だけはあった。


 エアは、自分の異常な潔癖症は、歪んだ信仰心から生まれたものなのだろう、と分析している。

 そして、何処までも何処までも、自分の狂気は広がっていく。それはきっと、果てが無いのだろう。もし、自分が否定する対象が世界の全てならば、どれだけのものを消滅させていくのだろうか? その事に関しては、かなり興味があった。

 何の為に自分が生きているのか分からない……。


「なあ、デス・ウィング」

「何だ?」

「お前は、本当に、俺の女神になってくれるか?」

 デス・ウィングは唇を歪める。

 かつて、彼女が持ち出した提案。

 エアの病んだ心に、光を刺し込もうとした言葉。

 そして、更なる病気を与えてしまった言葉だ。


「俺は処女崇拝を強く持っている。決して、汚れる事の無い女のイメージというものを、強迫的に抱いている。けれども、現実は違う。女ってのは、汚れたがる面はあるな。俺の母親がそうだったように。俺が恋した女もそうだったな。俺の事を好きだと言った女もそうだった。そして、どうしようもない程に、性欲ってのは奔放に人類全体に蔓延しているよな。俺は人から生まれた。俺は両親の生殖行為によって誕生した。けれども、俺はそれが気持ち悪いと思っている。なあ、俺は歪んでいるだろ?」

「お前は面白いよ。だから、私は君の事が好きなんだがな」

 デス・ウィングは、彼の話を聞くのが大好きだった。

 二人は、冷徹な風が吹き荒れる地で会話を続けていた。

 そこは、人ならざる者が訪れる、異界だった。

 エアは少しだけ、空ろな瞳で空を見ていた。

 デス・ウィングは含み笑いを浮かべていた。

 もうどうしようもない程に、二人共、暗鬱な顔をしていた。


 何の為に自分達は生きているのだろう?


 この世界は、存続するに値しない。

 世界の暗闇に触れた時、人間の暗黒を垣間見た時、彼が感じたものだ。きっと、みな、優しい嘘の中で生きているのだろう。生きているという事の動機として、他人に対する愛情だとか、

 汚いものもあるけれども、美しいものだって存在する。

 そういった事を考えながら、それを根拠付けにして生きているのだろう。

 存在するという事の無意味さ、そして底知れない程の空虚さ。それは実感としてあった。

 自分は汚れている。この世界は汚れている。

 そういった感覚を、どうしても消せそうにない。

 どうしようもないくらいに、何もかもを光の彼方へと消し飛ばしてしまいたい。その感覚につねに苛まれてしまう。自分も、他人も、何もかもを吹き飛ばしてしまいたいという考えに、取り付かれてさえしまっている。


 デス・ウィングの存在は、何故だか、彼にとって大きかった。

 彼の中にある、大きな何かを、彼女は認めてくれたのだろう。

 自分の存在の意味を認めてくれたような気がする。


 そして、今回の件。

 ダート……、ルブルの目的は何となく、分かっていた。

 人間の欺瞞を暴く事、そんな事なんじゃないのか、と。結局の処、人は醜悪な存在であるという事を自覚せずに生きているんじゃないのかと。

 それにしてもだ。

 何故、自分のような存在は、この世界にとって害悪以外の何者でもないのだろう?


 生きたい。

 悔しい。


 自分を苦しめるだけの、こんな世界を破壊してやりたい。

 それらは切実な感情だった。

 エアの中には、ただそればかりがあった。

 性行為は彼にとって、悪しきものだった。

 凌辱されていく女達に対しての、執拗なまでの同情心があった。そして、彼は、あらゆる性的なものを憎んだし、あらゆる世界の汚点のようなものを呪詛していた。

 更に、彼は何故、自分がこんなにも世界のありとあらゆるものを強く嫌悪しているのか分からなかった。幼少期からそうだった。


 そして、自らの主観に基づく敵意によって、あらゆる主観的に汚れていると感じたものを滅せられる力を手にしてしまった。

 何故、この世界に暴力が蔓延しているのだろう?

 何故、性的なものは暴力を齎すきっかけになるのだろうか?

 そして、自分自身の齎す力が、新たな悲劇を生む存在でしかないという事も理解していた。自分が純粋な性格の人間なんだ、という言葉だけでは還元出来なかった。

 醜悪なオブジェばかりを収集する、デス・ウィングという女だけが、何故か彼の事を理解してくれた。

 そして、更に彼女は告げるのだった。私は、この世界をさかしまに捻じ曲げた美こそが美しいのだと感じている、と。そして彼女は言う。私は私を殺してくれる存在を探し続けているのだ、と。


 エアは……。

 救われた。

 彼女に、救われたのだった。

 ……………………。

 ……おい、なら、面白い事、聞いていいか? 俺はお前を“理想的な処女像”という幻想を持っている。現実には存在しない、何者にも汚されない女という概念を探し続けている。俺は、処女崇拝という奴を持っている。現実は醜いから。俺はまあ、恥ずかしいが。今なお、性交経験が無い。ははっ、馬鹿にしろよ?


 デス・ウィングは、彼のそんな話をとても嬉しがって、聞いているようだった。

 ……キリスト教徒の純潔主義、婚前交渉による性的な嫌悪感に通じるものがあるが、お前の闇はもっと深いんだろう? 私はそんなお前が好きだよ。ちなみ、この私も……。

 デス・ウィングは、自分は処女なのだと言う。性交渉を一切、した事が無く、そのまま不死の化け物になったのだと言う。

 ……私達は、この世界に生まれてはならなかったんだ。私達は生きているだけで、この世界に対して、背いているんだ。お前は普通の人間という奴を、憎悪しているのかもしれないな。お前はきっと、狂っているんだろう。私は、そんなお前を肯定する。

 ……俺は、何故、自分が生きているのか分からない。そもそも、俺がこの世界から歓迎されないのなら、俺が死ねばいいだけなんじゃないか。

 ……私は、お前の“理想の女”になってやるよ。別に、狂信とか妄信とかしなくていい。私は神じゃない。ただ、何と言うか、お前がこの世界に生きるに値するだけの支柱になりたいとは思っている……。

 頑なに、強い信仰を持って育った子供が、やがて大人の汚い世界を垣間見て、世界に溢れる汚いものを見て、その心がズタズタに引き裂かれていく。


 彼はきっと、大人になれない心が弱い小さな子供でしかない。


 デス・ウィングは、自らが死ぬ事のみを希望として生きている。醜悪なものを収集するのは、生きる意味が無い中で、生きる意味を無理やりに作り出す根拠付けなのだと言う。彼女は、エアの希望に為り得るだろうか? 分からない。


 性行為は汚く醜い。生まれ落ちていく生命は汚く醜い。人間の持っている負の部分が、汚く醜い。偽善、欺瞞、そういったものを許容する事が出来ない。

 そのどうしようもない、強迫神経症じみたものを抱えながら、彼はずっと苦しみ続けていた。もし、自分が世界の創造者だったとして、じゃあ、どうすれば、この世界は素晴らしいシステムになるのか、そういう風にデザイン出来るのかも分からない。


 ただ、自分は間違っているのだ、と、彼はひたすら自分を責め続けた。

 世界を破壊したいという感覚を、拭い去れそうにない。

 他人をどうしようもない程に汚らしいと感じる感覚が、消えそうにないから。

 自分は何処へ向かえばいいのかと思った。何もかもが、分からなかった。



 何でも屋、黒い森の魔女はかくしてレウケーの能力によって、守られる事となった。


 店は無傷だったのだが、辺り一帯が、爆心地として破壊の爪痕を残していた。森が消し飛び、大地が抉れて、今なお黒煙が上り続けている。

 エアはまだふらつきながら、ぼろぼろになった店の二階でコーヒーを口にしていた。

 レウケーは頭を抱えながら、顔を少し引き攣らせていた。


「エア、お前、私の使い魔殺したの何度目だ?」

「さあな、覚えていない」

 デス・ウィングは、ぷるぷるっ、と顔を震わせていた。

 彼女は、ぱちぃ、ぱちぃ、と指を鳴らしながら、手首の周りに風の刃を集め始めていた。

 レウケーは理解していた。肌で感じる。怖気さえする。

 メビウス・リングが倒せないのも、よく分かる。

 デス・ウィングは恐ろしく強いが、更に、目の前にいるエアという男も、やはり、尋常ではない能力者なのだろう。

 勝てる相手ではない。

 ドーンのハンターが束になっても、このエアという男の能力で簡単に駆逐されるだろう。

 レウケーは考える。

 どう動けばいいのかをだ。

 しかし……、次にエアの口から出た言葉は、レウケーの表情を更に困惑させるものだった。


「おい、お前、俺はもうダートへの協力から離れるぞ」

 エアは、何処か無気力そうな声で言った。

「そうか、お前はそもそも何の為にダートに協力しようと思ったんだ?」

 デス・ウィングは彼に訊ねる。

「何の為だったか。きっと、何かを知りたかったのかもしれない。人間ってのは、どう動くのだろうか、とか。しかし、俺は何か興味を無くしてしまった。俺は何がしたいんだろうな? 俺は確認したかっただけなのか? この世界に俺が存在している意味を……」

「ふうん、お前の方から私にダートに加入したい、って持ち掛けたな。メビウス・リングと戦って、TV局を乗っ取って、世界中にお前の鬱憤を伝えた。他に何かやりたい事って無かったのか?」

「分からない。ただ俺は、俺のこの世界に対する破壊衝動を広めようと。ああ……、畜生、納得行かないのは俺だって同じだ。何もかもを消し飛ばしたとしても、無意味なんじゃないかって。なあ、デス・ウィング、俺は何の為に生きている?」

 デス・ウィングは、しばし沈黙していた。

 レウケーは、少し苛立ち始める。

 このエアという男は、かなり不安定な精神で、そして、どうしようもないくらいに自分の感情の爆発によって、破壊行為を行っただけなんじゃないのか、と。


「デス・ウィング、俺のこの世界に対する嫌悪感はどうすれば無くなるのかな」

「さあな、私にも分からない。私も私が生きる理由が無いからな」

 そう言いながら、デス・ウィングは鼻で笑う。

 どうやら、本当にエアという男は、戦意喪失のようなものをしていたみたいだった。レウケーにとっては理解の及ばない理由だったが、彼には何か彼なりの理由があったのだろう。そして、レウケーは思い至る。もしかすると、ダートに関与したメンバー達は、みな、何かしらの理由があって破壊衝動に陥って、そして破壊する事に関して、突然、空虚感を覚えてしまったのかもしれない。

 アイーシャとグリーン・ドレスは明確にダートを裏切ったらしいのだが。

 その事も、レウケーにはまるで理解が及ばない理由だった。

 ただ、このエアという男の言葉を信じるならば、彼は今後、しばらくはダートから離れて世界の破壊を行わない、という事になる。彼の行った行為は微々たるものだ。現時点では、武器商人やニーズヘッグの方が明らかに問題なのだから。


「分かった。エア、お前はダートを抜ける、という事を俺は信じたい…………」

 エアは、ぽかん、としたような顔をしていた。

「そうだ、デス・ウィング」

 レウケーは此処に来た理由を思い出す。

「その、ケルベロスという男を治療する道具を、俺に売ってくれないか?」

 デス・ウィングはそれを聞いて、唇を歪める。

「ええ、いいですよ。貴方は、店を守ってくれましたし。存分に協力して差し上げましょう」



「借りを多く作ったな」

 精悍な顔の男は、そう言った。

「そうでもないさ。お前はお前の使命をまっとうしにいけばいいだけだろ。俺には何も出来ない、結局の処な」

 レウケーは煙草を吹かしていた。

 闇の品物は買う事が出来た。

 ケルベロスの肉体の毒素を抜く事にも、成功した。


 トカゲの頭を生やした植物が、ケルベロスの両脚と右腕に移植されていた。これはデス・ウィングから購入した品物だ。

 やがて、自身の肉体の一部として正常に機能すると聞かされている。

 レウケーは紫煙を吐きながら思う。やはり、この男でなければ、駄目なのだろう、と。



 …………。

 数十キロのダンベルを持ち上げながら、肉体がまともに機能し始めた事を実感する。


 ケルベロスは、治癒した脚で立ち上がる。

 セルジュが布告した場所はマシーナリー。

 そこに、ルブル達の新たなる城がある。

 ミソギという男は意外な程にやっかいだった。

 ホビドーが彼の部隊に苦戦している。

 ケルベロスは溜め息を吐く。


「俺はいつまでも偽善ではいられないかもしれない。イゾルダの時のように、誰かがやらなければならない事なのだろうから…………」

 彼は出来れば、敵を殺したくない。

 理想と現実は違う。

 放置していれば、より多くの者達の血が流れ、被害が拡散していく。


 インソムニアは、まだ現れない。

 何処かへと消えてしまっているのだろうか。


 


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