表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/80

第十七章 そして、舞台は回転する。 1

 マシーナリーに目を付けたのは、『地下街』の存在だった。


 グリーン・ドレスが焼き払ったのは、街の表層と住民達だけだったが、この都市には何故か、巨大な地下世界が存在していた。


 もしかすると、旧時代の遺物なのかもしれない。

 街の科学者達は、何とかして、この街の地下にあるものの謎を解き明かそうとしていた。

 しかし、志半ばで、襲撃にあって、みんな死んでいったのだろう。


 ルブルは新たな根城を見つけて喜んでいた。

 同行していたミソギは、此処が資源にならないか考えている処だった。

 地下世界は、広大で、何故、こんなものが放置されていたのか分からない程だった。

 鍾乳石が綺麗に切り取られている。

 地面も綺麗に舗装されている。

 所々に、泥水で黄土色になった湖が広がっているが。

 まるで、つい最近、開拓したかのようだった。

 一体、此処が何の為に作られたものなのかは分からない。

 もしかすると、何処かの忘れられた民族の残した遺産なのかもしれない。

 調べてみる余地はある。


「ねえ、ロマンチックよねえ。ミソギ、此処、何なのかなあ?」

 ルブルは揺り椅子に座りながら、鼻歌を歌っていた。


「知らんな。俺は此処が金になるかどうか、それしか頭に無い。街のテーマパークだったのか? 核シェルターか何かだったのか? それにしては、何故、住民達は此処に避難しなかった? 生き残った連中は、アサイラムに避難していると聞いているが…………」

 ミソギは煙草を吹かしながら、建築物内にある模様などを見ていた。


「此処はピラミッドか何かか? しかし、理解に苦しむ事だが、文明は売れるからな。考古学者って連中に……。いや、違うのか? ただの精神病患者が作った施設なのか?」

 此処も、ある種の異空間だった。


 マシーナリーの地下世界。


 そこには、『さかさまの城』が眠っていた。

 棚やテーブル、椅子などが天井に固定されて貼り付けられて、シャンデリアなどが床に設置されている。そして城自体が逆さにデザインされている。

 ルブルが座っている揺り椅子は、天井に固定されていたものを引き剥がしたものだ。

 彼女はとても上機嫌で、城の中を探索したみたいだった。

 まるで子供だ。未知の物に対する好奇心が強いのだ。


「……こういう無駄な物を作る奴の頭がどうなっているのか、俺は理解に苦しむな……」

 ミソギはぼんやりと、空ろな顔をしていた。

 頭の中に、奇妙な映像が流れてくる。脳内でイメージとしてのみ再生されていたものが、次第に現実世界を侵食し、輪郭を伴ってくる。

 ドラッグの禁断症状だった。

 浮遊感を伴いながら、どうしようもない程の高揚感と憂鬱感が襲い掛かってくる。

 それにしても、彼にはやる事があった。


 ……そう、テーマ・パークは金になる。この施設をテーマ・パークにすれば、また大きな金が生まれるよなあ。

 彼は、ふと、あの男の顔がちらつく。どうしようもない偽善者の顔だ。

 彼には、気になっている男がいた。

 その男は、此処に現れるだろうか。


 ……もし、重症から立ち直れば、今度は俺が相手をしてやるよ。

 ミソギは死体の偵察部隊達に混ざって、ハイウェイまで向かう事にした。

 この地底の城へ向かうには、ハイウェイを通らなければならない。

 その辺りにいておけば、そいつが現れるんじゃないかという思いがしたからだ。



 暗黒の地。

 そこは、魔物達が饗宴を繰り広げる場所だ。


 レウケーは暗黒の地を歩き続けていた。

 この辺りの何処かに、デス・ウィングの店である『黒い森の魔女』という場所があるらしい。その店は、いつも決まった場所には無く。ぽつりと、ある場所に見つかるらしい。

 大体の場所は、屍峠を超えて、白骨山脈が見える辺りだ。

 空は暗雲を立ち込めている。

 何処かで、奇妙な鳥達の鳴き声がする。

 昆虫の脚のような形状の木々が生えている。

 此処はいるだけで、とてつもなく不安になってくる場所だった。まるで出口の無い悪夢の迷宮を彷徨っているかのようだ。


 デス・ウィングと取引をしようと思っている。

 ケルベロスの肉体を治さなければならない。

 鬼火が浮かんでは消えていく。

 何処からか、獣の咆哮が聞こえてくる。

 ふっ、と、後ろを振り返ると。

 巨大な双頭の大鴉が、レウケーへと向かって襲い掛かってくる。

 大鴉は二つの頭から、紫色の炎を吐いていく。

 レウケーは。

 刀を抜いて、その真っ黒な翼の鳥を一刀両断に切り伏せていた。


「……、此処は余り長くいては拙いな……」

 そもそも、此処は人間のいるべき場所では無いのだろう。

 それぞれ、二つの身体と翼に分かれた鴉達は、地面を這いずりながら、レウケーの肉体を喰らおうと襲い掛かる。

 レウケーは、刀を再び振るう。

 すると、爆撃が彼の周辺を覆い、化け物鳥の肉体を粉微塵にしていく。


「さてと、不安が残るばかりだが……」

 しばらく歩いていくと、ゾンビ達が彷徨う沼地が見えてきた。此処を通ってしばらく進めば、人の骸骨で積み上げた白骨の山脈が見えてくる筈だ。

 それにしても、このゾンビ達は何者なのだろうか? この地に迷い込んだ人間達の成れの果てなのだろうか?


 ……深く考えない方がいいかもしれない。飲み込まれる。

 レウケーは、峠を進んでいく。

 遠くには草原が広がり、首だけの獣達がお互いを食い合っていた。沼地を見ると、食虫植物のようなものがゾンビ達を食べ始めていた。

 辺りの草木からは、異臭が放たれている。気温は寒いとも暑いとも思わず、ひたすらに湿っているように思えた。

 突然、何者かが、遠くにある髑髏で創り上げた山脈から近付いてくる。

 レウケーは刀を構えながら、近くにある洞窟の中へと隠れた。

 洞窟の内部には、びっしりと、アルビノのキリギリスが壁にこびり付いている。それから、鎧のような殻を持つ甲虫などが無数に犇いていた。

 レウケーは嫌悪感に襲われながらも、洞窟の中から近付いてくる者の姿を見ていた。


 それは、ドラゴンだった。

 一頭の巨大な翼を持つドラゴンが此方側へと近付いてくる。

 ドラゴンは、レウケーのいた辺りへと舞い降りると雄叫びを上げる。

 そして。


「何処に行った? 人間。この辺りにいたんじゃないのか?」

 人語を話す竜だった。

 レウケーは様子を見る事にする。


「此処に迷い込んでしまったのなら、出口へと案内してやろうか? 此処は人の来る処じゃないぞ」

 レウケーはしばらく考えた後。

 蛮勇を奮う事にして、巨大な空飛ぶ怪物の前へと歩み出る。


「お前は何だ?」

 レウケーは訊ねる。


「俺か。人間、俺の名前はブレイズ。この辺りの番人をしている飛竜だ。白骨山脈の主をしている。その趣では、望んで此処に入ったようだが、お前は何の用だ?」

「デス・ウィングという奴に会いに来た。そいつは何でも揃えている店を開いているらしいな? 俺の友人の無くなった脚と腕を治して貰いたい」

「ほう?」

 ドラゴンは瞬きを行う。


「ああ、世界中の都市を破壊している化け物の一人を倒す際に、右腕と両脚を負傷して、その傷が治らず腐食していったから、俺が叩き切った。だから、その、何だ。腕と脚を再生させられる人ならざる道具が欲しいんだ」

「成る程……。お前はもしかして、アサイラムの者か?」

 ブレイズと名乗ったドラゴンの言葉に、レウケーは眉を顰める。

「アサイラムを知っているのか?」

「ああ、俺の住処の白骨の城の頂上には、TVのスクリーンがある。そこでアサイラムの存在を知った。ちなみにネットにも大量に情報が流出しているみたいだな」

 レウケーは思わず、腰を抜かしそうになった。


「ドラゴンが、TVやパソコンを動かせるのか?」

「……俺の部下のスケルトン達にリモコンやタイピングを行わせている。今度、俺の家に来るか? 家庭内ゲーム機やオーディオもある。運転こそ出来ないがレガシー車もある。エレキギターも置いてある。それなりにくつろげるとは思うぞ?」

 レウケーは思わず頭を抱えていた。

 そして、狐に化かされたような顔になる。


「オーディオ……音楽を聴くのか?」

「ああ。最近はエヴァネッセンスのファースト・アルバムを聴いている。静謐でいい」

「ゲームなんかするのか……」

「コントローラーは大型に改造してあるがな。プレステ3をやっている。ファイナル・ファンタジー13だ。このゲームの次回作も出ているらしいが駄目だな。どうしても、俺は少し時代に乗り遅れているらしいんでな」

 レウケーは、どう答えていいか分からなかった。


「最近はスマートフォンという物も手に入れた。パソコン並のスペックの携帯電話らしいが、どうにも、動画機能ばかり使ってしまうな」

 レウケーは通信機を取り出して、ブレイズに見せる。

「ドーンで至急されているのは、簡素だが、もっと高スペックの携帯電話だぞ。よほどの場所まで行かないと圏外にはならない。それから耐久力が高い。…………」

「そうか。それも見てみたいもんだな」

 そう言って、飛竜は嬉しそうに翼をはためかせる。

「それにしても、お前は名前は何て言う?」

「レウケー、だ」

「そうか、レウケー。人間はいいな」

 ブレイズは、何処と無く切なげな口調で言った。


「俺は人間が好きだ。人間が作り出す物もな。俺はデス・ウィングと同じように、コレクターの資質がある。俺は主に、人間界にある、所謂、俗っぽい品物を集めるのが好きだ」

 ドラゴンはとても楽しそうに裂けた口を歪めた。


「そうだ、レウケー。俺と友人になれ。デス・ウィングの場所まで案内してやる。だが、気を付けろ。今、奴の店には客人が入っている。そいつはな…………」

 ブレイズは、神妙な顔をしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ