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第十六章 ダーク・サーキット 3

挿絵(By みてみん)


セルジュVSアイーシャ




 アイーシャは倉庫の外に待機させていた何体かの獣型の機械ゾンビ兵に、マシーナリーのマシーンで作った鎧を纏わせる。


 簡易的なレーシング・カーへと変貌していく。


 二人乗りだ。

 アイーシャはバイアスと共に、マシーンへと乗り込む。

 セルジュをすぐに追い掛けなければならない。


 しかし、何故なのだろうか。

 何か、誘い込まれているような気がしてならない。

 此処までくるのに、舗装されずボロボロになった路面を走り続けていた。アイーシャは何度かスリップしながらも、道を進んでいく。


 前方に、セルジュが見つからない。

 そう言えば、彼のダメージはどの程度のものなのだろうか?

 せいぜい、少し体力を消耗させたくらいしか行っていない。

 決定的なダメージを与えなければならなかった。

 アクセルを踏み続ける。

 アイーシャのマシーンは走り続ける。

 そう言えば、少しずつ、夕刻に近付いてくる。

 夜中になればやっかいだ。それまでに決着を付けなければならない。

 ふと。

 アイーシャはハンドルが重たく感じたような気がした。

 少しずつ、マシーンが減速していっているように見える。

 何なのだろうか?


「バイアス、気を付けろ」

 それは夕闇に紛れながら、姿を現していた。

 倉庫内には無かった。

 元から合ったものなのか、それとも、彼が独自に改造したものなのかは分からない。

 それは、まるで重戦車とレーシング・カーを融合させたような形状をしていた。


「何よ? これ」

「これは、俺は『ヘル・ハウンド』と名付けている。地獄の番犬だ」

 鉤爪のあるワイヤーが、アイーシャのマシーンに喰らい付いていた。何本もだ。


「さてと、アイーシャ。お前はハイウェイで始末させて貰うぜ。もしくは、“冷凍室”まで向かって貰う。どちらにせよ、形勢逆転って奴になるな?」

 ヘル・ハウンドと名付けたマシーンが、咆哮を上げている。異常なエンジン音なのだろうか。そのマシーンには、眼に見えるように、バルカン砲や小型ランチャーなどが搭載されていた。

 二つの機体は、ハイウェイを走り続けていた。

 もう、月が満ちて夜の時間へと変わりつつある。

 どうせ、ただの鉄屑だ。大した事なんて無い。


 しかし。

 バイアスの針や杭の攻撃を喰らっても、その頑丈な機体にはまともなダメージを与える事が出来なかった。それ処か、砲撃によってアイーシャの機体がダメージを受け続ける。

 セルジュは、アイーシャと適度な距離を保ちながら、ハイウェイを走り続けていた。


「行けよ、焼き尽くせ、ヘル・ハウンドッ!」

 その砲撃から、火炎放射の炎がアイーシャへと襲い掛かる。

 彼女は構わず、炎を剣捌きだけで振り払っていく。

 セルジュは舌打ちすると、今度は別の物を使う事にしたみたいだった。

 少しだけ、ヘル・ハウンドは、アクセルを踏んでアイーシャから、距離を開く。

 それは、小さなボールのような形をしていた。

 アイーシャはすぐに、それが何なのか気付いた。


 手榴弾だ。

 アイーシャは車の中へと潜り込む。

 手榴弾が爆発する。更にそれに混ざって大きな光も放たれる。どうやら、閃光弾も中に混ぜたみたいだった。


 アイーシャは機体の中にあったゴーグルを取り出して嵌める。

 地面にはいつの間にか、明らかに地雷らしきものが転がって設置されていた。アイーシャは光をもろに食らって両眼を押さえるバイアスに変わって、車の中にあるペンチやら何やらの工具を地雷へ向けて投げ付けて、機体がまともにダメージを受ける前に爆発させていく。


 勢いよく、ヘル・ハウンドは、アイーシャのマシーンをひっくり返そうと、機体をぶつけていく。

 黒煙が上がっていた。

 煙の中からバルカン砲の弾が撃ち込まれてくる。

 アイーシャは攻撃を予測して、ネクロ・クルセイダーの能力によって、既に自分の両腕をシールドのような形へと変形させて弾を悉く防いでいく。

 煙が上がった時に、アイーシャは気が付く。

 何処かへと誘い込まれているのか?

 ならば、その誘いに乗ってやろうと思った。


 明らかに、セルジュの運転しているマシーンには、アイーシャ達を死へと至らしめられるような強力無比なスペックが無い。

 そんなまどろっこしい事なんてするよりも、正々堂々と直接勝負を仕掛けてきた方が、彼の能力の性質上、アイーシャを追い詰められる可能性が高い筈だ。

 それでも、こういう行動を起こすという事は、彼の性格の問題なのだろう。


 既に、二つのマシーンがハイウェイを走り続けて、二十分以上が経過していた。

 いつまで、この茶番に付き合わなければならないのだろうか?

 ますます、闇が濃くなっていく。

 アイーシャは第三者の襲撃にも備えて、バイアスへと指示を出していた。

 気付けば。

 いつの間にか峠へと差し掛かっていた。

 ガードレールが見え、その外は大きな絶壁が広がっている。

 ヘル・ハウンドは勢いを上げていく。

 アイーシャも距離を伸ばされないように自身のマシーンを加速させる。

 何かが道路へと撒かれていた。


 アイーシャはそれを見て焦る。


 オイルだった。

 アイーシャのマシーンは勢いよくスピンする。

 滑りながらガードレールを削り取ってゆく。


 このまま崖から落下すれば、致命傷こそ負わないであろうが、かなりのタイムロスを強いられるだろう。その際に、完全に態勢を立て直される可能性が高い。新たに罠を仕掛ける準備を万端にしてしまう筈だ。何よりも、このまま逃げられるのは拙い。

 出来れば、今すぐにでも倒してしまいたい。


 アイーシャは地面へ向かって剣を突き立てて、ブレーキの代わりにしていく。勢いが多少、殺される。半ばマシーンが激突して損壊したガードレールから飛び出した状態のまま何とか持ち応えて、軌道を元の道路の中央へと変えていく。

 しばらくすると、ヘル・ハウンドは勢いよく、近くの林の中へと突っ込んでいった。そして、タイヤを唸らせながら斜面をよじ登っていく。


 アイーシャも後を追おうとハンドルを捻る。

 しかし巧く斜面を登れずにいた。

 彼女は仕方無く、ブレーキを押して駐車した後、林を自らの脚で登ろうと決める。ヘル・ハウンドの動きは遅くなっている。ならば、マシーンを捨てて自らの脚で走った方が早い。

 地面にはオイルがふんだんに撒かれていた。


 アイーシャは訝しげに感じながらも、オイルの水溜りを避ける。

 空中から何かが飛んできた。

 それは、炎の灯ったマッチ棒だった。

 彼女は水溜りから離れる。

 オイルに火が灯る。

 すると。

 オイルから距離を置いていたアイーシャの上半身が燃え上がる。

 迂闊だった。

 アイーシャの姿はオイルの水溜りに映し出されていた。

 オイルの海も“鏡”だった。鏡に映ったアイーシャが燃えた為、本物の彼女にも炎が広がったのだった。


「ふざけやがって…………っ!」

 彼女は転がりながら、自らの身体に移った炎を消し止めようとする。しかし、一向に消えない。

「バイアスッ! 地面を抉ってでも、辺りの炎を消し止めろ!」

 バイアスは、言われて、自身の能力を使用する。

 彼は、今度はドリルを作り出していた。

 そして大地へ向けて、作り出した削岩の機械を飛ばし続ける。コンクリートの地面がめくれて、一帯の炎を強引に鎮火していく。それと同時に、アイーシャを覆っていた炎も消えていく。


「セルジュ……、そんな使い方も出来るのかっ!」

 彼女は火傷のダメージに構わず、バイアスをその背に乗せると、両脚をバネ仕掛けに変形させて、林の斜面を飛び跳ねていく。

 ヘル・ハウンドは、どんどん遠くへ離れていくが、それでも道路を走っていた時よりは移動速度が遅く、未だ見える距離にいた。このままならば、すぐに追い付ける筈だ。


 アイーシャは、剣を分解して樹木へと撒き付ける。

 そして、全身を回転させながら。

 まるで、空飛ぶ独楽のようになって、ヘル・ハウンドへ向けて跳躍する。バイアスは少し目を回していた。


 途中、樹木の一本が邪魔をして、巧くヘル・ハウンドの上には着地出来なかったが。かなり距離を縮める事に成功する。

 彼女はバイアスに指示を出す。


 バイアスは、クリムゾン・サクリファイスで作り出す杭を、化け物マシーンへ向けて撃ち込み続ける。

 杭の一本がタイヤに命中して、勢いよくセルジュのマシーンがひっくり返る。更に駄目押しのように、バイアスが攻撃を続けていく。


 すると、ヘル・ハウンドのエンジンに命中して、機体が火を噴き始めていた。

 これで、完全に此方側が優位に回っただろう、アイーシャは下手な口笛を吹く。



 アイーシャの攻撃によって、ヘル・ハウンドは炎上をし始めている。


 同じように、アイーシャの方もボロボロだった。

 このまま長引けば、相手の方がどんどん優位な状況へと向かっていく。

 マシーンがまともに動かなくなってしまっている。

 もう、これは捨てるしかないだろう。


「……ああっ、クソ。……冷凍室まで、行ければ…………」

 セルジュは考える。

 アイーシャは自分が倒す。そう誓った筈だった。

 それよりも、この乗り物から、早く出なければならない。

 両脚が異様に痛いと思えば、ハンドルの部分がへし折れて、腿の辺りを圧迫していた。おそらくは骨がへし折れているかもしれない。


「……何でだ? 俺の映し鏡やアケローンの骨格変形を使えば、本来なら一撃でアイーシャを殺せる筈だろ? …………畜生、俺はまだ弱いのか? 自分の力さえも、巧く使いこなせないのか?」

 何とかしなくては。

 自分は弱くなんてない。自分は強くありたい。

 セルジュは、肘から生やした刃でハンドルを切断して脱出を試みる。

 この軍用車には、火炎放射器やバルカン砲まで搭載されていた。そして、小型爆弾なども後部座席の中に積んでいた。悉く、防がれてしまった。


 ……ミソギから貰った物を使って改造した車だったんだけどな。

 やはり、アイーシャ程の能力者相手なら、生半可な兵器くらいじゃ梨の飛礫でしかないみたいだ。


 ……お前、本当に強いのかよ? ミソギ。お前が幾ら殺戮兵器を売買する武器商人だからって、上位能力者は核兵器でさえ歯牙にもかけねぇんだぜ?

 セルジュはどうやって、アイーシャを返り討ちにしようか考える。


 余り、時間はありそうにない。

 ヘル・ハウンドはタイヤやエンジンを壊されて動かなくなってしまっている。そして、車内に残っているのは、催涙ガスやいくつかの爆弾、狙撃銃くらいだった。使い物にならない事は目に見えている。

 やはり、自身の能力で倒すしかない。


 ……冷凍室に行けば、俺のテリトリーなんだけどなあ?


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