第十五章 死と絶望が行進していくのだから 4
ルブル。
メアリー。
クルーエル。
セルジュ。
イゾルダ。
グリーン・ドレス。
アイーシャ。
ヴェルゼ。
ミソギ。
エア。
ニーズヘッグ。
ペイガン。
……………………。
十三名まで、後、一人だ。
ルブルは、数の縁起のようなものを重視している。忌み数だからだ。
後一人は、どのような形でやってくるのだろうか?
メアリーは、それが楽しくて仕方が無い。
十三名揃えば、終わらせよう、とルブルは言い始めている。メアリーも、それに従うつもりでいた。元々、ダートの侵略にそれ程、明確なプランなんてものは無かった。おそらくは、人間とは何なのか? という事を知りたいが為に、ルブルは行動したのだと思う。たとえば、聖書においては、神が七日で世界を創造した事で、七という数字に意味が与えられたように。ルブルは十三という数字に意味があると思っているのだ。
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高層ビルの頂上で、一等のスイート・ルームで夜景を見ながら、ミソギは高級なバーボンを毎夜飲むのが日課だった。そして、純度の高い“フォクシー”という幻覚作用のあるドラッグも煙草状にして好んで愛用している。
ミソギは、愛というものを知らない。
だから、他人が傷付くという事を理解する事が出来ない。人間というものは、搾取し、搾取され合う存在でしかないのだ。
柔らかなベッドで、彼は、女達を呼び集めて、楽しむ。女達は、表の顔は女優やアイドルや社長秘書などの顔を持っている。彼女達は、ミソギに取り入りたがる。だから、彼は女達をベッドに連れ込む。
愛なんてものは無い、ひたすらに、ミソギは彼女達を嘲っている。
表の顔は、有名なアイドルをしている女は、ミソギやミソギの部下とアブ・ノーマルな性行為を平気で行う。表の顔は、清楚なイメージを保っている女がだ。彼女達は、自ら望んで、彼に取り入るのだ。彼がどれだけの悪人なのかを知っておきながら、彼に取り入ろうとする。
ミソギは女に……、人間というものに、失望し切っている。
みな、金さえ積めば、どんな非道な事にでも手を染める。
金こそが、神なのだとさえ、ミソギは思っていた。
そう、金こそが、全ての神秘の原点であり、教典そのものだった。どんな宗教団体も、愛も夢も、金のみで動いている。だからこそ、金は信じるに値する。
一部の例外は、能力者達だ。
彼らは狂っている。人間という領域の力を超え、更に、その思考回路も狂気の領域にいる。ミソギは彼らを理解する事が出来ない。
国家の汚点、汚職行為などを隠蔽する為にも、政治家などが彼の下へと訊ねてくる。ミソギは必要となれば、暗殺も請け負うし、軍事兵器を国家へと売り続けている。それに対して、モラルというものは必要が無いのだと考えている。
ミソギは、時たま、どうしようもない程に孤独だ。
デス・ウィングという女が、彼の心を悩ませている。
彼女はいつも、ミソギの理解の出来ない品物ばかりを欲しがるからだ。人間の死体だとか、人を撃ち殺した武器だとか、自殺者が出た建築物だとか。
デス・ウィングは、所謂、ミソギにとって価値の無いものばかりを欲しているように思えてしまう。何が、そんなに面白いのか理解に苦しむのだ。
……お前の精神の支柱にしているものは、面白くないが。お前の心の歪み自体は面白い。それに、お前は私が愛しいと思ったものを提供してくれる、とても嬉しいものだ。
デス・ウィングは、普通の人間が欲しがらないものばかりを欲しがる。むしろ、金を払ってでも、処分したがるものを欲しがる。
ミソギにとって、人間は動く肉のオブジェにしか過ぎない。
彼は、自分はマシーンであれば良いと思っている。少年時代はずっとそうだった。いつしか人間らしい感情というものを、何処かに失ってしまったような気がする。だから、彼には芸術に触れての感動とかいうものがよく分からない。美しい風景を見て、心を揺さぶるという事なども無い。女を肉欲以外で好きになるという事も無い。
彼が売り捌く兵器の被害によって苦しむ人々の映像を見た事がある。そこに、かつて飢餓に苦しんだ自分のような子供を多々見る事もある。けれども、ミソギにはそんな映像を見ても、もはや何も感じない。この世界においては、搾取されるものは、ゴミ以下でしかない。それだけなのだから。
ミソギは、もはや他人を憎む感情さえも分からない。命よりも大切なのは、金だ。
愛よりも、大切なのは金だ。文化や伝統よりも、道徳よりも、芸術よりも、自然よりも、充実した人生などよりも、何よりも大切なのは金なのだ。
資本主義と、その中で流動する金だけが、彼にとっての神だった。そして、何よりも、金を動かしているのは戦争なのだろうと彼は考えた。だからこの世界において、権力と暴力こそが全てであり、銃や爆弾などが意味のあるものなのだろうと考えた。後は、肉欲や食欲や物欲などの欲望を満たすものが、適当にあればそれでいい。それだけが、彼に人生の全てで、他人の人生も実際はそんなものでしかないのだろうと思った。
デス・ウィングは言う。お前は、死にたいという衝動さえも奪われたのだろう、何かに復讐したいという憎悪さえも、もはや失われてしまったのだろう。お前の心は死体でしかないのだ、と。
ミソギは腹の底から笑った。誰に何を思われようが、それで構わない、と。
そんなお前が面白い、と、デス・ウィングは言うのだった。




