第十三章 崩落が進み、世界への侵食が拡大する 4
ルブルとの連絡は取れた。
彼女は、魔女の森の外へと抜け出したらしい。
途中、アイーシャに塹壕の家を覗かれて、エアに襲撃されたりしたらしい。
ルブルは、口調ではとぼけているみたいだが、かなり焦っているみたいだった。少なくとも、かなり身の危険を感じてはいるだろう。
セルジュは、ふいに呟く。
「アイーシャは俺が倒してやろうか?」
メアリーは、少し眼を丸くする。
「ふふっ、中々、自信過剰ね」
「ケルベロスだって、倒そうってんだから。アイーシャくらい倒せないとな。とにかく、俺はもっとずっと強くなりたい。俺は……」
お前を守りたいから。
セルジュは、そう、口の中で呟いた。
彼は両肘から、刃を生やす。
「ふふっ、それとても気に入ったでしょう?」
「ああ、俺が自分の力で奪い取った、力の象徴だからな」
彼の瞳は真剣だった。そして、どうしようもないくらいに、真摯だった。
「あんまり、嫌かもしれないけれども。凄く男らしいわ。ふふっ、私は楽しみにしている」
メアリーはまるで、女神のように微笑んでいた。
もうすぐ、夜が明ける。
ミソギを何処まで信用出来るのか分からない。また、ミソギの武器とやらが、どれだけ有効に機能するかも未知数だ。
更に、アイーシャは大きな障害になる事に変わりは無い。
そして、メビウス、ケルベロスはもうどうしようもないくらいの強敵だ。
漠然とどうしようもない感情も込み上げてくる。
イゾルダの顔がちらついて離れない。
彼は、最期には人を赦せたのか? ふざけるな、と言いたい。
ずっと人間という種を憎悪して朽ち果てたのだろうか。もし、最期に赦せたのだとすれば、一体、何が根拠だったのだろう?
電話で、セルジュは思い付いたアイディアをミソギに話す。
すると、ミソギは、馬鹿が、と口にした後、何の意味があってそんな無意味で無為な事をするのか理解に苦しむ、と告げた。セルジュは舌を出して笑う。
「無意味で無為だからこそ、面白いんだ。俺はやるぜ、アイーシャとの舞台を用意しろよ。奴に布告しろよ、エアって奴がやったように、ネットで中継するのがいい。ステージに近寄る侵入者共は皆殺しだ」
ミソギは電話の向こうで呆れていた。
彼からすると、ダートの行動は非建設的で、非生産的で、まるで後先なんてものを考えていやしないのだろう。ただ、面白いから、衝動のままに行動する。ダートのメンバーがやっている事はそればかりだ。
†
ホビドーは、どっと疲れた顔をしながら、街路の陰に横たわっていた。
スロープからの通信によると、オカマの大男を取り逃してしまったという。
パワード・スーツ達は、ホビドーの能力によって、あらかた片付いてしまった。最初、どうしようもない状況だと思っていたのだが、戦ってみると、相手が戦意喪失を引き起こしてすぐに退散していってしまった。
ゾンビと違って、やはり部隊が人間だと、勝てなさそうな相手には脅威を感じてしまうのだろう。
ホビドーは、缶ビールを口にしていた。
「……連中の何名かは、金で雇われている、って言っていたな。彼らなりの強い使命感とか意志とか持っていたら、もっと別なんだろうけどな」
街を取り囲んでいた者達の奇妙な装甲を、能力で破壊してやったら簡単に白旗を上げられてしまった。ホビドーの能力の全貌が、相手側はまるで把握し切れなかったというものもあるのだろう。
「訓練された軍人程度の精神力くらいはあるんだろうが、まあ、覚悟が足りない連中なんてあんなものか」
結局、彼が倒したのは、街中を取り囲んでいた敵兵の二割弱程度だった。
彼が、能力を全力で行使すると、相手は簡単に怯んでしまった。
捕虜になるくらいなら自害する、と、戦意を失った者達は言い放っていたので、仕方無く逃してやった。
どうにも、此方を怖がっている
上司のレウケーは速やかに殺せ、とは言っているのだが。
「俺は甘いな、駄目だな」
朝日が昇っていく。
たまには、守れる街の一つくらいあってもいいものだ。
ホビドーは、二本目の缶ビールを開けた。




