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第十三章 崩落が進み、世界への侵食が拡大する 2

 ミソギは大都市の夜の中、笑っていた。


 此処は、二百三階の高層ビルの頂上だった。

 メアリーとセルジュの二人との交渉は終わった。

 表向きは、ダートが大国を滅ぼす。

 そして、滅ぼした大国の資源の殆どはミソギの所有物になる。

 それが交渉の内容だった。


 街には、光が広がっている。

 この街を、彼は自身の根城にしている。此処は彼の王国だった。

 地下には、色々な国家から手に入れた兵器を入れた格納庫が各地に眠っている。

 ダートが世界を破壊しているお陰で、みな、武装を強化したがっている。利益は順調に増え続けている。アサイラムの側はその事にはノー・マークだ。グリーン・ドレスやイゾルダとかいう奴らの起こした惨禍のお陰で、アサイラム側の兵隊達がその事に眼が回っていない。


 死人が増える事はとても良い事だ。


 それは金に繋がるからだ。

 死体が金を生み出す。それがミソギにとっての理屈だった。



 ホビドーは、パワード・スーツと戦い続けていた。


 敵は、手に手に、命中すると熱線で焼き尽くすレーザー兵器まで有している。

 この街の兵隊達は、敵の装備にまるで勝てずにいるみたいだった。


 彼は、自身の能力である『アシッド・フィールド』によって、片っ端から、パワード・スーツの装甲を破壊して、中の人間を攻撃し続ける。

 しかし、どうしても持久戦になれば不利だ。


 一体、この街は、どのくらいの敵に囲まれているのだろう?

 まるで、予想も付かない。



 ルブルは、白骨ドラゴンに乗りながら、森を低空飛行していた。


 ドーン側に見つかれば、相手次第では終わりだ。

 何とかしなければならないのだが、自分の力ではこれが限界だ。

 明らかに、周りの者達に自分の強さが追い付いていない。

 ルブルは焦る。

 先ほど、……数分前から、此方に向かってくる何者かがいた。


 アイーシャでは無い。ケルベロスでも無い。それから、魔女の壷を通じて対話した誰とも違う。もっと、違う何かだ。


「何なのかしら?」

 彼女は酷く警戒を始める。

 そいつは、光の輪に包まれながら、浮遊していた。

 純白に黄金色の刺繍が施された、法衣のようなものを身に付けている。

 端正な顔で、白金の髪をしていた。

 背中から、白い竜の翼を生やしている。


「お前がルブルか?」

「あら……、貴方は?」

 それは、一瞬の出来事だった。


 ルブルの白骨ドラゴンの頭部と、右翼が消し飛ばされていく。

 男は指先から、幾つもの光の輪を出していた。

 ルブルは、地面へと墜落していく。そして、墜落する直前に、ドラゴンの残った部品を組み替えて鳥のようにして、何とか地面との激突を免れる。

 鳥の鉤爪が、ルブルの両脚を絡み取って、彼女を吊るすような形を取っていた。


「あら、いきなりの挨拶、酷いじゃない?」

 男は顎を押さえながら、首を捻る。

「お前がダートの首領ルブルか? こんなものなのか? 今、俺が本気で攻撃すれば、お前、塵も残らなかったぞ」

 男は完全に小馬鹿にしたような口調で彼女を見据える。

「ヴェルゼ……、グリーン・ドレス……。彼らも中々だったけれども、貴方も凄そうね?」

「メビウス、デス・ウィング。それから、お前ら側のニーズヘッグってのと直面したんだが。何というか、はっきり言っていいのか?」

「ええ、どうぞ?」

 ルブルはゆっくりと、地面に着地する。

「おい、お前。俺が相対してきた奴らと比べて、かなり弱いよ。本当に、悪の組織のボスなのかよ?」

「うーん、自覚はあるんだけどねえ。そもそも、別にトップが最強である必要なんて無いじゃない? トップは組織を動かしていればいいだけだから」

「そうか。まあ、人間、色々あるからなあ。それから、お前、何ていうか怠け者っぽいもんなあ」

 そう言いながら、男は何処からか取り出した、ナッツがふんだんにトッピングされた、ミント・アイス・クリームを取り出して、それを食べ始める。

 そして、空中で脚を組みながら、再び、何処からか取り出した手鏡で、自分の髪型を真剣に眺めていた。


「なあ、ダートのメンバーは面は良いか? 俺は美しい方か?」

「ふふふっ、まあ、ヴェルゼとかよりは、美形なんじゃないかしら? ダート、どちらかというと、女の方が多いし」

「そうか」

 そう言いながら、男は、辺り一帯の森へと光の輪を撒き散らしていく。

 すると、苔やカビなどに侵食された場所が消え、遠くでは、何かの生き物の悲鳴が響き渡っていく。


「貴方の名前は何?」

「俺か。俺はエア。力の名は『ホーリー・ドラゴン』。汚れたものを浄化し、滅していく。デス・ウィングの誘い……まあ、俺の半ば強引な要請もあって。ダートに入ろうと思っていたんだが。どうしたもんかな」

 エアと名乗った男は、迷っているみたいだった。


「貴方は、何ていうか……狂っているの? 素敵なくらいに」

「さあな、知らんよ。デス・ウィングは俺を狂人だと言うんだから、そうなんじゃないか? 異常な強迫神経症染みたいな潔癖症が、そのまま力の形になっているみたいだしな」

 エアは指先を振るう。

 ルブルの隣を、光の刃が駆け抜けていく。


「お前をこの世界から消し去るのは、簡単みたいだが。確かに、お前は俺からして不快だし、きっとその精神は醜悪なんだろうな。だが、俺には動く理由がある」

「何が目的かしら?」

 ルブルは狡猾そうな笑いを浮かべる。


「ダートは、ドーンを倒すつもりでいるんだろう? ドーンは俺の敵だ。メビウス様は俺を受け入れてはくれねぇみたいだ。だから、意趣返ししてやろうと思っているのさ。俺を否定した世界を俺は赦さない。俺は信仰が好きだ。神を信じる精神が好きだ。汚れたものは、駆逐するべきだと思っている。この世界を浄化したいと考えている。全ては醜悪だ。しかし、どいつもこいつも同じなんだ。俺は何もかも気持ちが悪い。ルブル、お前らだけじゃなくてな」

「そうね、ダートの目的は。……メアリーの目的は、人間の隠し持っている闇を引きずり出す、という事。暴力性、異常性欲、怨嗟、そういったものを連鎖させていこうと、彼女は考えている。貴方にとって、メアリーは何?」

「駆逐すべきゲスだな、そいつは。だが、味方してやる。俺は人間それ自体を汚いと思っているからな」

 エアは少しだけ、恍惚とした笑みを浮かべていた。

 ルブルは、口笛を軽く吹く。


「合格。ダートのメンバーに入って。好きなようにやっていい。何なら、結果として、この私を貴方が殺す事になったとしても、それはそれで楽しいから。ダートは、私が消えても動き続けるでしょうから」

「成る程な。お前は……、人間の暗黒をこの世界に浮上させたいんだな。なら、良い事だ。お前は今は滅さない。俺が人類を嫌う理由を形にしてくれるのだからな」

 そう言うと、エアの光の翼は増え続ける。


「じゃあ、俺はどう動けばいい?」

「意のままにすればいいんじゃない?」

「じゃあ、ドーンと戦うぜ。メビウスとまた会いたい。俺が此れまで恨んできた、この世界の不浄を認めやがる。偽善者だもんなあ、連中は」

 そう言うと、エアは何処かへと飛び去ってしまった。

 ルブルは、とても楽しい気分に浸っていた。

 狂っている。

 そして、その狂気をまともな人間は中々、理解する事が出来ない。

 それが、ダートのメンバーの条件だった。


 エアという男は、きっと、本当にこの世界が汚らしいと考えているのだろう。何もかもが醜く、人間それ自体が醜悪なのだと考えているのだろう。彼女にとっては、とても素晴らしい歪んだ精神だった。デス・ウィングは、やはり良い相手を選んで派遣してくれる。

 ……さてと、メアリー達はどうしているのかしら?

 このままだと、本当に自分は殺される。

 自身のカラプトで出来る事も限られている。

 アイーシャ如きには、殺されてやるつもりは無い。

 戦略の練り直しが必要だろう。それは、どちらかというとメアリーの方が得意だ。

 夜の帳が、空には広がっている。

 それにしても、騒々しい男だった。


 ルブルは一息付く。



 バイアスはまだずっと、死の幻惑の中を漂っているみたいだった。まるで、深い海原へと飲み込まれていき、そこにはきっと真実が眠っているかのようだった。


 彼はひたすらに、アイーシャに尽くしたいと思うのだが、どうやら彼女の思惑は、バイアスのそれとは違ったものみたいだった。

 何の為に殺したのだろう?

 バイアスの友人を、家族を。

 彼は彼女達のその行動を肯定してしまった。

 だから、自分は狂っていった。

 アイーシャは、ダートを倒す事に執心している。

 なら、それを従うべきなのだろうとは思った。

 自分がかつてイメージした人間とは違う。

 アイーシャの瞳は澄んでいる。

 自分の瞳は濁っている。

 この違いは、何なのだろう?

 彼は、未だ、仲間達を自らの能力で殺した事に対して、罪悪感というものを抱けずにいる。きっと、命なんてものは夢幻でしかないと思っているからか。


 そう。

 いつの日か、自分は人間らしさ、とかいうものを忘れてしまっていた。

 人はストレスを感じると強くなれる。

 アイーシャが、そんな事を言っていた。


 苦痛から、苦悩から逃れたいが為に、強くあろうとする。それこそが、強さと呼ばれるものの正体なんじゃないのか、と彼女は言うのだ。人間は本質的に弱いからこそ、何かしら強くなろうと抗う。だから、アイーシャは剣技を磨いてきたのだとも。



 ペイガンは、これからどう生きればいいか分からなかった。


 少なくとも、もう日常なんてものは何処にも存在しない。

 目の前に見えている景色が、いつだって豹変してしまっている。

 赤い天使の幻影が消えそうにない。

 それは、死の魅惑そのものだった。非現実なまでの暴力は、とてつもなく美しかった。彼は毎晩、魘される。愛する者達は、みな死んでしまった。街は廃墟になり、一体、いつになれば、復興するのかまるで分からない。それでもなお、あの天災は美しいと思う。憎しみを持つ事がどうしても出来なかった。多分、自分の感性は間違っている。

 それにしても、あの彼は何処に行ったのだろう?


 カシューは良い奴だった。

 半人半馬だったが、ペイガンの話をよく聞いてくれた。

 このシェルターの中は、色々な国や街から避難してきた者達で溢れ返っている。だから、民族も、種族もばらばらだ。言語が通じない者達が殆どだった。

 どうにか、レウケーという男が配布するマイクなどで、翻訳が成立している。

 カシューがいてくれたなら、また心が安らぐんじゃないのだろうか。

 シェルターにいる者達と、中々、打ち解けずにいる。


 けれども、何処か陽気なカシューなら、そんなペイガンをフォローしてくれると思うのだが…………。

 自分はきっと怖いのだろう。

 余りにも、多くのものを失ってしまっているという事実と直面する事がだ。



 レウケーは項垂れていた。


 何処も、略奪や強姦、殺人が相次いでいる。

 欲望そのものを剥き出しにして、人々は法を犯している。いや、今や何処も無法地帯なのだ。人間というものは、法律だとか道徳とかによって欲望をコントロールしていても、一旦、それらが突き崩されると、こんなにも人の自制心は脆いものかと思わずにはいられない。

 怨嗟がずっと、広がり続けている。


 ダートの狙いはこれなのだ。

 人々の本性を暴き出す事、所詮は、人間の意思というものはモラルなどで、コーティングされているが。所詮は、動物でしかない。


 この人類を死滅へと追い込みたいと願っていたダートのメンバー。

 彼らの言い分が、正しいとさえ思い込んでしまうのだ。

 人間の世界には、秩序が必要なのだ。

 友愛だとか、信仰だとか、性善説だとか、そういったものは虚構でしかないのだから。

 あくまでも、秩序やそれが行使される環境が与えられているからこそ人間は優しく、愛という観念を生み出す事が出来るのだから。


 ……ケルベロス、お前は言った。人々の笑顔を見れるから、守る価値はある、と。でも、お前はそれでいいかもしれない。けれども、誰もがお前に為れるわけじゃないんだ。

 レウケーは、自分の弱さに苛立ちを覚える。

 ダートの構成員に一度も勝利していない自分は、負け犬でしかない。

 なら、自分は前線に赴くべきではないのだ。

 けれども、レウケーはつねに苛立ち続けていた。

 人間も所詮、生き物でしかない。

 だから、子孫を残し、種族というものを維持しようとする。

 人間は不幸にも、思考というものが生まれた。だから、正義だとか道徳だとかの概念が必要だったのだろう。人間は存続するに値しない。実際、植物や動物のみが存在する世界であったって構わない。更に言うならば、生き物全てが絶滅したとしても、だから、どうだというのだろう?

 レウケーは、夜、魘され、寝汗ばかりをかいていた。

 睡眠時間も延びている。


 実際、起きている間も、殆どは待機時間と、情報伝達ばかりが多くなっていき、後は部下達や、ドーンの他のメンバーにやらせている。

 たまに、シェルター内で揉め事が起きれば、レウケーが向かって諌める。そんな仕事ばかりだ。

 最近では、煙草の本数やコーヒーの量も増えている。

 そんな事を彼が考えていると、ふと扉が開く。

 レウケーの部下の一人が、パソコンを持ってきた。

 何でも、ホーリー・ドラゴンからの話があるらしい。

 レウケーはいぶかしんだ。

 それは、動画だった。

 今や、世界中のネットに配信されているものだ。

 レウケーは嫌な予感がしていた。

 ネットを閲覧出来る国の者達ならば、みな、見れる筈なのだ。

 リアルタイムだ。録画された奴じゃない。

 レウケーは、配信されている動画をスクリーンで、まじまじと眺めていた。

 謎の仮面の男が少しの間、演説を行う。

 映像が流れ続ける。

 レウケーは絶句していた。

 この男は、何て事をしてくれたのだ、と。


 本来ならば、アンダー・グラウンドの映像として流れているような代物だった。それらの映像は、所々にモザイクを入れるものも多かった。




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