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第十二章 聖なる竜と金色の環 4

「ミソギちゃん」


 ラジュリは、通信機を取り出して、自分の主人と通話する。

 ホビドー達とは離れ、山岳地帯を歩きながら喋り続けていた。


「そう、そうなのよ。新たなる、ダートのメンバーですって。ラジュリ、見ていて、とっても恐ろしかったわよ」

 彼は、くねくねと全身を動かせながら、自分の主人に逐一報告をする。


「あなた、ダートとドーン、どちらがお金になるのか採算を考えているのでしょう?」

 通信機の向こう側で、ミソギは、ほくそ笑むように笑った。


「ふふっ、そうよねえ。そうそう、ドーンはお金を出してくれる見込みも無いし、金儲けに使えそうにないのよね。ええ、そう。ダートの引き起こした破壊によって、恐怖から武装したがる国家が増えている。だから、力を貸すんでしょう? とても儲かりそうね。世界中が混乱していくわね。嬉しそうじゃない、うふふふふっ」

 そう言いながら、ラジュリはくねくねと全身を動かしていた。

 この辺りには、まだ生体兵器の小さな種子が根付いている。


 彼は自身の能力であるハイエルフを撒き散らしながら、彼を襲おうとする小さな植物型の怪物達を眠らせた後、手に持った小さなレーザー銃のようなもので焼き払っていた。



「俺様には何が出来るか、って?」

 ルブルの問いに対して、ニーズは、くっくっ、と笑う。


「俺様は世界を破壊する者だ。ただ、そういう“存在”で“概念”なんだ。俺はそれだけだ。この世界に実体化しているが、みなが俺に対して、どのように畏怖して、どのように崇め、どのように恐怖するのか、には興味があるな」

 彼の口調は、何処までも傲慢だった。

 しかし、同時に、自分の存在の不確定さによって、自分自身に違和感を持っているかのようにも思えた。


「俺は神話の存在なんだ。ほら、神話ってのは、世界の破壊と終末を行える神がいるだろ? 俺はそんなもんなんだろ。だから、星だって壊せるんだから。宇宙そのものだとか。取り合えず、この世界全体だとかを終わらせられるんじゃないか? だからまあ、俺は何ていうか、そういう存在なんだろ」

 余りにも、圧倒的な実力を、彼はさも当たり前のものとして、話していく。


「ふふっ、幼稚な子供の空想みたいな力ね」

 ルブルは微笑する。


「神話ってのは、幼稚な連中の空想で生まれるだろ? それにほら、みんな、この世界の構造自体を知りたがる。だから、神話、ってか、物語作って理解しようとするんだ。そういった存在が、俺の住んでいる世界にはいる。平行世界って奴だ。お前も、以前、来た事があるだろ? あの時には、ろくに話さなかったようにも思うけどな」

「貴方が私を覚えていなくても、私は貴方をちゃんと覚えていたから」

「まあいい、とにかく協力してやるぜ」

 ニーズヘッグは、全身から、一つの揺らめく闇を発して、それを辺り一面へと広げていく。

 すると、大宇宙の惑星が空間から出現する。

「お前が、俺の力の媒介として、俺の力を“実体化”させるんだ。俺を“引き出す”んだ。俺はまあ、神話最強の怪物なんだろ。そういう事になっているらしいからな」

 瞬く間に。

 辺り一面に、宇宙が花畑のように咲いていた。


 圧倒的なまでに、広大な深淵の伽藍だ。

 暗黒のドラゴンは、ひたすらに笑い続けていた。

 果てしない黒の中から、幾つもの巨大な牙の生えた口が現れる。

 深淵の只中で、ルブルは浮遊している。

 ニーズヘッグは、大隕石を自在に操作し、ブラック・ホールを次々と生み出していき、更には宇宙全体を突き崩していく。


「俺は最強だ。おそらくな? お前の悪意が、お前らの世界で、俺の力を召喚するんだ。言わば、そう、それこそが俺の『アビス・ゲート』の力なんだ」

 彼は何処までも、不敵な顔をしていた。

 ルブルは、悪戯っぽく、思い付いた事を口にする。


「じゃあ、あれやって。死に際のヴェルゼから伝聞を貰ったの。グリーン・ドレスとアイーシャの二人が潜伏していた都市は、しばらくの間、氷の世界へと変えられた。彼女はその技の名を、『ドラゴン・タイラント』と呼んだ。自身を竜に見立ててね。貴方は本物のドラゴンなのでしょう? じゃあ、同じような事をやってみて? 貴方の力そのままの形でいいから」

 そう言うと、彼女は思わず腹を抱えて、笑い出す。


「はあぁ?」

「タイラントは暴君って意味でしょう? グリーン・ドレスは、最大の奥義って奴を、自身の持っている最強の技の名前に、自身の尊敬する男の異名を入れた。ねえ、ニーズヘッグ。貴方、踏み躙ってよ? もし、緑の悪魔が生きていれば、ニーズ、貴方の足元にも及ばないんだって事を示したい」

 ルブルは強気の表情を見せる。


「アイーシャは絶望すると思うわ。そして、ケルベロスも……メビウスも…………」

 もし、ニーズヘッグを完全にコントロールする事が出来れば。

 そして、ニーズヘッグ自身が自らの力を適度に、この世界において使いこなす事が可能ならば、彼一人で全ての敵を制圧出来るだろう。しかし、ルブルはその事もまた、望んでいなかった。

 狂気の先を見たいからだろう。


 人間が与えられる不条理な暴力に対して、どんな答えを見出すのか、などを……。



 この都市の名前は無い。


 何故ならば、この都市は、おそらくは数百年、あるいは数千年は続いたかもしれない歴史を、今、終わらせられるだけなのだから。


 人口、数千万はいただろうか。

 それは、一つの大陸だった。

 様々な国が幾つも犇いていて、領土問題などに関して冷戦状態が続いていた。

 裕福な層が貧困層を搾取する。そんな当たり前の構造を保っていた。


「グリーン・ドレスとかいう奴の真似事をしろ、か…………。それくらいでいいのかよ」

 ニーズヘッグは、鼻で笑う。

 ルブルの情報によれば、グリーン・ドレスとかいう女は、熱を操り、辺り一面の熱を奪い、零度の世界へと変えていく『ドラゴン・タイラント』という技を使用するらしい。

 ルブルの緑の悪魔とかいう奴に対する当て付けなのだが、名前の響きは何となく気に入ってしまった。

 だから、彼は少しずつ、その気になっていく。

 ニーズヘッグの全身は闇色に塗られて、そのフォルムが変化を遂げていく。

 人型の姿だったものが、翼が生え尾が生え、首が伸び、両手と両脚から鍵爪が生まれ、所謂、黒き竜の姿へと変貌していく。


「やるか」

 彼の声は、咆哮へと変わっていた。


「『アビス・ゲート・ドラゴン・タイラント』」


 闇の扉から発せられる、暗黒の暴君竜。

 彼の力が、降り注ぐ。

 それは、時間にすれば、およそ一瞬の出来事だった。

 街全体から、光が奪われて、ニーズヘッグの創り出した闇の深淵へと飲み込まれていった。炎も、陽光も、もはやこの街に生まれる事は無かった。

 人々の命全てが、闇へと飲み込まれていく。

 そして、凝縮された闇に飲み込まれた場所は、黄色い砂漠へと変わり果てていた。虫の一匹も、草の一本も生えない砂漠にだ。

 彼はせせら笑う。


「何だぁ? この世界の人類って奴は、この程度のもんなのかぁ? つまんねぇなあ。俺様が遊んでも仕方が無ぇんじゃねえか」

 ニーズは、がっくりと肩を落とす。


「まあいい。この星、この次元、この世界。暇潰しに、アビス・ゲートを撒き散らしていくとするかな。どうせ、誰も俺に勝てねぇんだから」

 そう言いながら、彼は全身から、禍々しい漆黒の光を放ち続けていた。



 レウケーは自室で、トレーニングを終えて、床に伏せっていたが、しばらくして頭からペットボトルの水をぶち撒けて、起き上がる。

 自己嫌悪ばかりが膨れ上がってくる。

 彼の部下である、スロープとホビドーは、引き続き、あのニーズヘッグとかいう男の調査を続ける事にすると言っていた。二人共、自分よりも、よっぽど前を向いている。

 イゾルダの生体兵器の脅威は、少しずつ去ろうとしていた。

 グリーン・ドレスに破壊された都市も、一部は復興を続けていると聞かされている。

 少しずつ、世界は元通りになる筈だった。

 絶対に、立て直していくべきだった。


 だが…………。

 ケルベロスは、車椅子に乗りながら、アサイラムの施設内を移動していた。

 イゾルダとセルジュから受けたダメージが、まともに回復していない。

 治癒系の能力を使う能力者達を探しているのだが、そういった者達の多くは、ケルベロスの治療よりも、より多くの被害者達の怪我を治癒する方針ように、ケルベロス本人が支持を出しているのだ。

 そして、何よりも、セルジュから受けたダメージよりも、イゾルダから受けたダメージの方が酷く。まるで膿のようになっており、彼の肉体を蝕み続けていた。

 絶対に、何かしらの毒物を混合させた攻撃だろう。特に、呪いのように、アサイラム施設内にあった治癒系の能力者の能力で治らなかったからだ。

 セルジュから受けた左腕のダメージは、自然治癒によって少しずつ回復していた。骨がべきべきにへし折れていたが、ケルベロスは彼の意志に敬意を称して、能力者の能力によって、治すのを拒んだのだった。

 レウケーは、相変わらずな、そんな彼の性格に呆れてしまう。宿病のごとく、治らないものなのだ。本当にお人好しなのだ。


「やはり、何とか探してきましょうか?」

 リレイズは、ケルベロスを強く気遣っていた。


「いや、俺はやはり、このままアサイラムで待機している。メビウス様や、インソムニア、それから他の奴らを信頼したいから」

 レウケーは思わず、うんざりした溜め息を吐き出す。


「綺麗事ってか、世迷い事言うのはいいんだが……」

 レウケーは、憔悴し切った顔でケルベロスの前に佇む。


「もう、既にダートは新たな戦力を付けてきている…………」

 レウケーは忌々しそうに言った。


「何よりもまず、俺の部下達が遭遇したニーズヘッグって奴だ。どうやら、そいつは、イゾルダとグリーン・ドレスに代わって、色々な都市を破壊しているらしい。しかも、少なくとも、あの二人よりも悪質なんだ。ニーズヘッグが通った場所は、“生き残った人間”がいないんだ。少なくとも、イゾルダとグリーン・ドレスの時は、多くの者達が生き残って、奴らの災厄から逃げてきた。今、俺の部下達は彼らの為に、避難所とシェルターを作ろうとしている。それから、とにかく各地で恐怖に震える者達の声が上がっている。とにかく、みな、逃げ場所を探している。俺はある程度の人々をアサイラムに避難させようとも考えているが、どうかな? もっとも、此処も安全とは言えないけどな?」

 ケルベロスは眼を閉じる。


 どれ程、今、世界中に混乱の波紋が広がっているのくらいは、彼は理解しているからだ。けれども、どうしても性格の甘さが抜け出ない。


「分かった。この辺りに、シェルターを作ろう。人々が住めるような孤島は幾つもある。今こそ、アサイラムに収容されている囚人達の力を借りよう。彼らの協力で、故郷や家族を失った者達の逃げ場を作ろう」

 レウケーは再三、溜め息を吐く。


「頑張れよ、偽善者。俺は何てか、応援している。少なくとも、俺はイゾルダもグリーン・ドレスも倒せなかったからな。もしかすると、お前なら、能力者達の可能性の未来を作れるかもしれないからな」

 そして、レウケーはリレイズにも聞こえるように強く言った。


「ああ、それから。更に、事態が深刻化している。先ほど、また宣戦布告のようなものがあった。ニーズヘッグ以外でも、新たに二人程、メンバーが加わったらしい。一人は“武器商人”と名乗っている、もう一人の方は“ホーリー・ドラゴン”だそうだ。脅威は、どう考えても、以前と同じくらいか、下手をするとそれ以上だと考えた方がいい」

 ルブルは次々と、メンバーを増やしていっている。

 どう手を付ければいいのか、もはや分からない。

 事態は収束していくのだろうか。




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