表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/80

第十二章 聖なる竜と金色の環 3

 エアは、イゾルダの生体兵器が集まっている場所へと向かっていた。

 何者かによって、多くの生体兵器が駆逐されていっているらしい。


 彼は、その者達には、大して興味が無かった。

 彼はおもむろに、この場所を選んで、相手に来るように指示をした。

 それは、自分が好きなデザインの建築物が建てられていた場所だったからだ。

 この街は、宗教が根差されており、聖堂などが多く建てられていた。

 しかし、それらは見るも無残に破壊されているのだが、それでも、それはそれで廃墟の持つ退廃的な美しさを放っていた。


 そこは、海の神に対する信仰心が強い場所だった。

 漁業が盛んで、毎年、陸の動物などを海へと流して、信仰心を強めていた。

 今や、隣接する海の水によって街全体が押し流されてしまい、瓦礫の山と化している。そして、所々の地区が、未だ水に飲まれている。

巨大なウツボ型の生体兵器によって、壊された島国だった。

 この生体兵器は津波を引き起こして、街全体を襲撃したのだった。

 海底へと沈んでいく大聖堂。

 エアは不思議な景観を眺めていた。


「あれが、イゾルダの能力で生み出した化け物か……」

 思わず、大きく息を吐き出してしまう。

 海底には、島程もある、ウツボが影を見せていた。

 ゆらゆらと水の底で、この辺り一帯に寄生している。

 この辺り一帯が、大神殿となっていたのだろう。

 様々な神の彫像が、そこいらに置かれている。


「で、此処でいいのか?」

 言われて、エアは頷く。

 その女は、彼が訪れた時には、既にこの地へと鎮座していた。


 黒衣の女は、無感情な瞳で訊ねる。

 捻じ曲がった、腰まである金色の髪が、風に靡いていた。



 沢山の死体達が横たわっている。


 所々で、悲鳴を上げ続けている者達もいる。

 そこは、焼け野原だった。

 ペイガンは、剣を構えながら、ぼんやりとした顔で、辺りを彷徨っていた。

 彼はぼさぼさになった、自らの髪の毛を掻き毟る。

 まるで、この世界では無い、別の何処かの世界を彷徨っている場所だった。此処は、彼が知らない場所だ。


 頭の中身全てが、シェイクされてしまったみたいだった。

 記憶は断片的だが、確かにそれは網膜に焼き付いている。

 それは、災厄としか言えなかった。

 まるで、巨大隕石でも飛来してきたかのように、この街は壊れてしまった。


 ペイガンは薄っすらと覚えている。

 それは、炎を纏った天使だった。


 どうしようもないくらいに美しくて、おぞましく街を壊してきた。

 彼は現実に帰る事が出来ない。

 喪失感は、とても強い。

 彼は、未だ身体が震えて仕方が無かった。

 未だ、燃え殻が辺りに渦巻いている。

 とぼとぼと、亡霊のような歩みで。

 瓦礫の中を歩いていると、どうやら生きた人間らしき者を見つける。

 一人の男が、呻き声を上げていた。

 どうやら、彼は下半身が、瓦礫の中へと挟まってしまったらしい。

 彼は、ペイガンを見つけると、叫び声を上げて呼び止めてきた。

 ペイガンは、咄嗟に、現実に戻って、男の両腕を引っ張っていく。

 男は、瓦礫の中から引きずり出されていく。

 ペイガンは両目を剥いた。

 男の腰から下は、馬の両脚をしていた。


「何だ、お前…………?」

 ペイガンは、思わず、尻餅を付く。

 ……、えっと、確か。あれ、あれ、何だっけ? そうだ。ケン、ケンタ……、ケンタウロス、って奴なのか? 何だそりゃ? そんなのいるのかよ? 俺、絵とかでしか見た事無いぞ。ギュスターヴ・モローの絵の奴…………。

 そう言えば、彼が集めていた画集も、焼けてしまった。

 まあ、それは今となっては、どうでも良い事だ。

 自分は、まだ夢の中にいるんじゃないのだろうか。もしかすると、自分は死の間際にいるのかもしれない。


「俺は、夢を見ているのか…………?」

 彼は思わず、呟いていた。

 どう言葉にしていいのか、分からない。


「助けてくれて、ありがとう。俺はカシュー……。それにしても酷いな。街が焼け野原だ」

 ペイガンは、まじまじと男の下半身を見ながら、困惑する。

 これは、どう反応すればいいのだろうか?

 まるで、何なのか分からない。

 ペイガンは、口を半開きにしながら、ぼうっと、俯いていた。


「ああ、そうだ……」

 その男は、死体の服を剥ぎながら、自身の腕の傷口を縛っていた。


「なあ、俺の背中に乗っていくか? 人、一人くらいなら、乗せれる」

「うあっ…………っ!」

 ペイガンは、裏返った声を上げて、頭を抱えていた。



 カシューは、森の中を走っていた。

 ペイガンは、彼の首に掴まりながら、頭の中を整理していた。


 そもそも、炎の天使が訪れたの自体が、非現実だし。街が壊され、友人知人、家族がみんな死んだり、何処かへと消えてしまったりした事自体が、おかしい出来事なのだ。

 とにかく、頭の中が痛くて仕方が無かった。

 彼は、剣術というものを習っていた。

 いつも通りに、稽古場に行って、その帰りに、そいつは天から現れた。

 そうだ、師範の焼死体も見つかったんだった。


 ……この辺りは、共通言語が未開拓なのよね? だから、宣戦布告の為の言葉だけ覚えてきた。私の名前はグリーン・ドレス。この街を焼き払い、破壊する者だ。

 そう言って、炎を纏った天使は、右腕を掲げて、右手から無数の炎の塊を放ち続けたのだった。

 ペイガンは確かに、その光景を覚えている。

 少しずつ、おかしくなってきているのだろうか。

 ただ、もう平穏な生活には戻れないのだろうなあ、という事だけは理解していた。

 大切な日常というものは、壊れてしまったのだ。

 そう、無慈悲なまでに、何もかもが無くなってしまったのだ。これから、どうしようと思い、悩むのだ。ただ、ぼんやりと思うのは、自分は生きなければなあ、と思った。どんな事があっても、生きなければならないなあ、と。

 それくらいに、余りにも多くの者達を失ってしまったのだから。

 赤い天使に対する、憎しみが不思議と湧いてこないのは、きっとまだ、自分が夢現の中にいるような気分だからだろう。


 実際、今、ケンタウロスの背に跨っている。

 彼は、どうやら、生き残った者達がいる避難所へと連れて行ってくれるらしい。



 ニーズヘッグ。

 彼は、深淵の力を操る魔竜だ。


“この世界には、存在していない世界”に住む、神話のドラゴンなのだ。


 次元の狭間を通って。

 彼は、ルブルの下へとやってきた。

 ルブルの波長を感じ取って、彼はこの世界まで、降下する事が出来たのだった。


《俺様は、この世界を平らにしたり、ましてや消滅させる事なんて出来ないぞ。何しろ、この世界に召喚された俺様は、あくまで、近くにいる対象の恐怖や不安などによって、肉体や、力を実体化させる事が可能なのだからな》


 彼は自分自身の存在を確認するかのように述べていく。


《俺は、星も、そして宇宙全体も破壊出来るが。あくまで、別の平行世界でのみだ。この世界においては、せいぜい、街を瞬時に滅するくらいの事しか出来ない。しかも、ターゲットに依存している。どうにも、不安定な存在だろう? 俺なんぞ、お前の作っているダートとかいう組織に必要なのか?》


 彼は自分自身の存在に、酷く疑問を抱いているみたいだった。

 彼は力こそ持ってはいるが、目的というものが無いのだろう。その力をどのように使えばいいのか分からないのだろう。

 概念とは、つまり何処までこの世界に根差されているのか。

 ルブルには分からない。

 人間が持っている、底知れない根源のようなもの。

 その一つが、恐怖であり、破壊の衝動そのものだったりする。


『神の世界』、あるいは『不在の世界』という場所においては、そのような“概念”によって構築された者達が渦巻いて、住んでいる。そいつらは、この世界に肉体を持たない。おそらくは、たとえば、メビウス・リングなどもそのような存在で、この世界に人形という媒体を通して、受肉しているのだろう。

 ニーズヘッグが、受肉する為の媒体は“人間の余りにも強大過ぎて勝ち目の無い存在がいる”という根源的な恐怖や畏怖の感情だ。

 そうやって、人間を使い“認識させる事”によって、彼はこの世界に降下し、実体化する事が可能だった。


 ニーズヘッグとは知り合いだった。

 かつて、ルブルが“世界樹を巡る旅”において出会った、最強の魔竜こそが彼だった。彼の強さのみにおいては、信頼を置いている。


 間違いなく、その強大さのみならば、緑の悪魔やヴェルゼなどよりも、比べ物にならないくらいに強い。しかし…………。

 あくまで、この世界においての彼の存在は、不安定そのものでしかないのだろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ