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第二章 全ての希望を灰や塵へ 1

アイーシャとメアリーの話である『魔女の城のメイド』です。


http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/428998/



 インソムニアは、死と共に生きている。


 彼女は、死に憧憬を抱いているからこそ、殺し合いが、とてつもなく大好きだった。

 夜道だった。

 彼女は、二人の男と戦闘を行っていた。

 一人は、ショットガンを操る男、もう一人は全身が水脹れのようになって毒液を吐き出す男だった。

 ショットガン使いの男は、次々と弾丸を彼女の肉体へと撃ち込んでいく。

 彼はそれで、インソムニアの肺や喉の辺りに、所謂、致命傷というものを負わせる。

 しかし、インソムニアは、嘲笑ったかと思うと、何処かから取り出した、大きな鎌で、その男の首を刎ねた。


 毒液を吐く男は、危ういと判断して一人、逃れようとするのだが。彼女は、右手をその男へと向ける。すると、彼女の右手から闇色の光が放たれたかと思うと、その男に直撃して、男を粉微塵にしていく。

 これにて、今日のハントは終わりだ。

 これから、彼らの賞金を貰いに行かなければならない。

 彼女は能力者組合である、『ドーン』のハンターをしているのだ。犯罪者達に複数の者達が賞金をかけて、倒した者には賞金が送られる。そういった単純なシステムだ。

 命の危険性から副業で行っている者も多いのだが、彼女は違った。

彼女は、骨の髄まで、ドーンのハンターだった。殺す事も、死ぬ事も、夢物語のような未来なんて存在しない事も受け入れていた。だから、毎日、享楽的に生きる事こそが、彼女の楽しみだった。

 賞金で、新しい服を買おう。考えているのは、そればかりだ。

 インソムニアは、少女の姿をしていた。

 全身を、ゴシック・パンクの服で纏っていた。

 彼女は右耳に幾つも開いたピアスを弄りながら、ショットガンの男の首をころころと脚でボールのように転がしていた。

 ふと、彼女は、背後から何者かが現れたのに気付く。

 それは、腰元まで、金色の螺旋を描くような縦ロールに伸ばした漆黒のドレスの女だった。まるで、浮遊するように、女は地面に降り立っていく。

「何の用だ? メビウス・リング」

 インソムニアは、気だるそうに嘲笑った。


「『アサイラム』のケルベロスからの要望なのだが。今、アサイラムには、護衛兵が不足している。一時的にでもいいが、お前に戦力になって貰えないだろうか?」


「ふうん?」

 インソムニアは何処か不愉快そうな顔をしていたが、二つ返事で了承する。



『アサイラム』というのは、“能力者”の犯罪者達が収容されている施設だ。


 能力者は、普通の犯罪者としては扱えない。普通の刑務所には入れられない。だから、殺害して始末するのが、此れまでの対処法だった。

 しかし、アンブロシー、チェラブ、ハーデスという三名の男が、能力者収容施設としての刑務所である『アサイラム』というものを作った。

 そこは、世界の果ての孤島に作られており、辺り一面は、気象が荒く、途中の大きな滝壺によって一帯が覆われている場所だった。

 アサイラムは、ベーシック・インカムが成立されており、囚人達には、可能な限り、最大限の自由と人権が保障されていた。

 食事、恋愛、読書、収集、衣服、スポーツ、その他の、ありとあらゆる娯楽が、アサイラム内では与えられていた。

 だからこそ、大半の者達は、強大な力を持っていても、従順だった。一応、頭蓋の辺りに、能力をコントロールする装置が埋め込まれていたのだが、それは余り関係が無いだろうと言えていた。そして、彼らは、彼らの力を使って、人類の未来に貢献して貰う。実際、大気汚染の浄化、電脳システムの拡大、都市建設、自然の繁栄、食糧難の解決、ありとあらゆるアイディアを使って、能力者達は、人類の未来に貢献し続けている。

 ケルベロスは、彼らを人類の遺産だと思っている。悪を通ったものしか、善なるものを理解出来ないとも考えている。

 ただ、極稀に、アサイラムの秩序を破壊したがる囚人達も存在した。


 …………。

 ケルベロスは、マルボロに火を点けながら、回想から戻る。

 師であるハーデスは死に、所長は行方不明。そして、副所長であるチェラブは、ある男によって殺された。

 彼は、今や、臨時的に所長という役職に付いている。

 荷はとてつもなく重い。

 けれども、やりがいはあった。

 守るべきもの、大切にするべきもの、それらの信条と共に生きる事が出来たからだ。


 …………。

 二日程、前の事だった。

 彼宛に、ネット回線を通じて、電報があった。

 情報元は不明だ。

 あるいは、ネットを媒体にした、何かの力なのかもしれない。

 電報の内容は、単純だった。


《アサイラムを来る日に、我々で襲撃する。》


 ダート、という文字が下にはあった。

 人名なのだろうか。あるいは、組織の名前なのだろうか?

 よく分からない。

 ただ、何となく、此処を破壊したがる人種が何なのかは特定が出来た。

 それは、“秩序を破壊したがる者”だ。

 このアサイラムという機関は、ドーンのハントに対する回答の一つでもある。

 能力者は逆に言えば、不当なまでに差別される傾向もある。

 だから、犯罪者にならざるを得ないという実態もある。

 どうにかして、それに終止符を打ちたい。

 それこそが、アサイラムが作られた所以なのだとも聞かされている。




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