表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/80

第十章 武器商人と滅ぼす光 4

 グリーン・ドレスは、アイーシャの為に死んだ。

 アイーシャ自身は、そう解釈している。


 明らかに、他人を踏み躙る事しか考えなかった彼女は、何故、最期に他人を助けよう、といった信念を持ったのだろう?

 だから、メアリーとルブルは絶対に倒さなければならない。

 それだけが、今は彼女の生きる目的だった。

 そして、もしこの因縁を断ち切れて、望みを叶えられたならば、自分自身を取り戻す旅にでも出ようと考えていた。


 きっと、自分は正義にも悪にも興味が無い。

 故郷なんてものも、もう何処にも無い。

 メアリーが、彼の仲間達を、みんな殺してしまったのだから。



 魔女の森へと向かう途中だった。


 まだ、太陽は真上にある。

 アイーシャは、顔を布で覆いながら、近くの田舎の村に寄っていた。

 そこは、露店やバーが多かった。

 牛馬が歩いている村だった。畑には様々な野菜が植えられている。

 彼女は店の一つに入り、そこでビールを注文して、しばらくの間、くつろいでいた。

 イゾルダの生体兵器が各地で暴れ回っていると聞く。

 今更、ドーンに付こうとはまるで思わない。心情として、それはまるで考えられなかった。ドーンは敵という認識は無いが、味方とも思えない。

 これは、純粋に自分自身の戦いなのだと思った。


「どうしたものかな…………」

 少し眩暈がする。どうにも、グリーン・ドレスが死んでから、頭が痛い。熱が出ているのかもしれない。

 ふと。

 彼女の下に、近寄ってくる者がいた。

 見ると、まだ、年端もいかない少年だ。

 淡い茶色の混ざる金髪の少年だった。左耳にピアスをしている。

 彼は、くくっ、と笑っていた。


「ねえ、君さぁ。機械兵、操っていた人でしょう?」

 アイーシャは、呆けたような顔をする。

 何だ? こいつは?


「雰囲気で分かるんだよねえ。赤黒い髪をした女がいたっ、って。グリズリーの兵隊の生き残りが言っていたよ? 御丁寧に写真まで撮っていた。それから、ドーンってのを、調べて見ると、リストに君の顔が載っているんだよねえ? この意味分かるかな?」

 アイーシャは、ふうっ、と溜め息を吐く。


「刺客か。いいだろう。お前らは私を殺す権利はある。けれども、私の方も、お前らを返り討ちにする権利はあると思っている」

「俺の名はバイアス。力の名は、クリムゾン・サクリファイス。あのさあ」

 アイーシャは、両腕を変形させていた。

 何か知らないが、何かやってきたなら、速攻で首を刎ね飛ばしてしまおう。

 彼は、アイーシャの下へ更に近付くと。

 そのまま、片膝を付いて、深々とお辞儀をする。

 アイーシャは、彼のその行動に、完全に面食らっていた。


「俺を、この俺を……貴方様の手下にしてくださいっ!」

「…………はあっ? …………」

 アイーシャは、思わず声が裏返る。

「その為に、俺はグリズリーの周りにいた生き残りの人達を、俺の力で皆殺しにしてきました。生贄は完全に揃っているのです。何なら、生贄をお渡しします。それの証明として」

 アイーシャは、面食らった顔をする。


「外に向かって下さい。俺はトラックを運転して、此方まで来ました。ありったけのガソリンを詰めて、運転して、貴方様を探してきました。トラックの中を見て下さい」

 アイーシャは、まるで催眠術にでも掛けられたかのように、言われたままに立ち上がる。

 ビールの勘定を、店員に渡して、店の外に出る。

 すると、確かに一台のトラックが止まっていた。確か、軍事大国グリズリーに合ったタイプの奴だ。この少年が運転してきたのか……?

 彼は、トラックの荷台を、その場で空けていく。

 アイーシャは嫌な予感がしたので、この村の者達の眼に留まらないように彼に言う。

 アイーシャは、トラックを半開きにして、荷台の中を覗き見る。

 そして、絶句した。


「この、サイコ野郎がっ…………」

 彼女は忌々しげに言った。


「あのさ、普通に考えて、私は恨まれて襲撃されるべきなのよ? お前は、お前は何を考えている? ふざけるな…………」

 少年の顔は、ただひたすらに笑っていた。笑い続けていた。

 荷台の中は、冷凍室になっていた。

 そこには、おそらくは、百名近くの人間の部品が無理やりに押し込められていた。

 細切れに解体されて、丁寧に積み上げられていた。


「献上品なのです。生贄なのです。貴方達は美しかった。炎の天使も美しかった」

「炎の天使……か。グリーン・ドレスはもう死んだ。私のせいで死んだ。私は今から、メアリーを殺しに行く。ルブルもだ。ドレスは私を闇の中から、救ってくれたから。お前は、……お前が、忠誠を誓っているのは、私達じゃあない。メアリーなんだ。彼女は、憎悪と狂気を撒いていっている、ああ、畜生……」

 アイーシャは、少年の顔を見ながら、思わず涙を流しそうになる。

 メアリーは、人を狂気へと追い遣る才能がある。

 おそらくは、セルジュも、彼女のせいで変えられてしまった。

 本来ならば、マトモな人生を歩むつもりだったのだ。


 ……可哀想だけれども、このガキ。此処で、殺してしまおうか?

 そう考えるしか無かった。

 少年の眼は、水晶みたいにきらきらと輝いていた。

 ……いや、グリズリーを破壊したのは。グリーン・ドレスだ。そして彼女は、メアリーの支配下で行動したわけじゃない。この少年は、自分や緑の悪魔が作り出した、罪の結晶そのものなのだ。

 アイーシャは、嘔吐感を堪えながら、少年に向かっていう。


「じゃあ、じゃあ……、私と共に、来いよ。ただし、世界の破壊じゃなくて、メアリーとルブルを。ダートの大元を倒す旅路だ。それ以外は認めない。特に、ダートに加担するようなら、今、この場でお前の首を切り落とすっ!」

 少年は、また深々とお辞儀をする。


「貴方の望みに。俺は喜んで、自らの人生を奉げます…………」

 アイーシャは、自らの赤い髪を撫でながら、とてつもなく逡巡していた。

 …………正直、メアリー達と戦うには、自分一人では不安があった。

 なら。

 なら、きっとこれは運命なのだろう。


「一つだけ約束してくれないか……?」

 アイーシャは強く言った。

「え、ええ、……何でも聞きます」

「私が殺せ、って言った相手以外は殺すなよ? それだけが私に付いてくる条件だ」

 彼女はそう言いながら、思わず、右腕を刀に変形させて、バイアスの喉に突き付けていた。

「それから、これから行く先の山中で。今からこのトラックの中にいる奴らの墓を作る。お前がやれよ? 一人、一人だ。野良犬に食われないように、深く掘れよ? シャベルくらいは貸してやるからさぁ」

 アイーシャは強く言い放つ。


 バイアスは彼女が、何を言っているのかよく分からないみたいだった。

 けれども、無邪気な顔で従うつもりでいるみたいだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ