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第十章 武器商人と滅ぼす光 2

 そこは、森の外から、数キロ程、離れた場所だった。


 黒いスーツの男だった。目元まで伸ばした髪の毛や、瞳も黒だ。年齢は三十代後半くらいだろうか。ブランド物のネクタイやシャツを身に付けている。


 彼が武器商人だった。


「お嬢さん達が、ダートのメンバーかな?」

 メアリーは頷く。

「ええっ」

「そうか。俺の本名はミソギと言う。一緒に来てくれないかな?」

「喜んで」

 メアリーとセルジュは、ヘリの後部座席に乗る。

 運転手は五十くらいの男だった。どうやら、ミソギの側近の一人らしい。

 ちなみに、俺は側近を殆ど作らない、と。彼は独り言のように呟いたのだった。彼の瞳は、何者をも信じない頑なな、強い懐疑心が灯っていた。



 それから、数時間後の事だった。


 繁華街へと案内される。

 此処には、主に違法な風俗産業やドラッグの販売ショップなどが、ちらほらと散見される。都会の体を為した無法地帯なのだろうか。


 大ホールだった。

 いつもは、コンサート会場として使われているらしい。

 武器商人ミソギは、今夜、此処でパーティーを開いているらしかった。

 セルジュとメアリーは、豪奢なドレスを渡されて、その中へと案内された。

 ドレスは、多少、露出度が高かったが、まあ正装というものはこんなものなのだろう。

 二人は大ホールの中に案内される。

 会場内には、正装をした男女が沢山、交流を行っていた。

 おそらくは、政治家や企業の幹部などが集まっているのだろう。

 セルジュは顔ぶれを見ながら、かつて住んでいた故郷に、外国の新聞雑誌でよく顔を載せていた政治家などがいるなあ、などと考えていた。

 白い髭を生やしたタキシードの男が、ミソギに対して、連れている二人の女性は何者か? と訊ねていた。すると、ミソギは冗談めかした口調で、彼女達は“人類の敵”です、と答えた。タキシードの紳士は笑っていた。

 ミソギは二人に振り返る。

 右手には、シャンパン・グラスを手にしていた。


「処で、俺は本当に女好きなんだが。お嬢さん達、どうだ? 俺とお手合わせに今夜?」

 ミソギはそう言って、自らの左手の親指と人差し指で輪を作って、右手の形を拳銃のようにして、右手の人差し指を左手で作った輪の中に軽く出し入れする。


「いや、私、レズなんで。両刀でも無いんで」

「俺、身体、女だけれども、これでも男なんだよ。俺は自分の身体しか愛せないんで」

 メアリーは露骨に強い生理的な嫌悪感を露にし、セルジュは舌を出して中指を立てる。


「つれねーな……? 色々、体験してみるもんだぜ? こんな美男子、いつもなら、女の方から誘われるんだ。奴ら、必死で色仕掛けしてくるぜ?」

 ミソギはそう言って、自分の唇に指先に手を当てた。


「お前よりも、イゾルダの方が俺の憧れだったぜ? 俺はホモじゃねぇが。俺は元々の肉体は貧相だったからなぁ。だから、ケルベロスって奴、見ているとムカ付いてくるんだが」

 そう言いながら、セルジュはステーキをがつがつと音を出して食べる。


「下品よねぇ。貴方がグリーン・ドレスにバラバラにされれば良かったのよ。あいつ、美男子好きだから、貴方とやりたがるんじゃない? いや、貴方を殺りたがるのかしら?」

 そう言いながら、メアリーは強くセルジュを抱き締める。

 ミソギは少し、面食らったような顔をする。

 その後で、溜め息を吐く。


「はっ。まあ、お前ら、世俗離れしてそうだよなあ? 女ってのは、俺の顔と金見せれば、あちらから寄ってくるんだが。お前らみたいなのや、デス・ウィングみたいなのは、俺の理解の外にいるねぇ。まるで、思考が分かんねぇよ」

 メアリーは、彼をよくよく観察しながら、ふと思い至った。


「でもまあ、私は貴方嫌いだけれども、ルブルは好きでしょうね。合格、なんじゃないかしら? ダートのメンバーとしては。でもそうね………やっぱり、……」

 出来れば、採用試験を厳しくしたい。

 出なければ、使い物にならなかったり。それ処か、また裏切られて、組織が壊滅しかねないからだ。此方を利用したいだけの相手で、なおかつ脆い存在ならば、簡単に切り伏せたって別に構わないだろう。


「ちなみに、俺は銃口でファックするのも好きだ。撃ち殺すと、欲望の絶頂に至るんだよなあ? ショット・ガンがいい。下の孔から挿れて、上の口から綺麗に出ていくと、どうしようもなくなる」

 セルジュは、飲んでいたワインを軽く吹き出しそうになる。


「何だ、お前も倒錯型のサイコ・キラーか」

 セルジュは、飽き飽きしたような顔をしていた。

「ちなみに、俺の方はというと両刀でもあるぜ? 猿や豚みたいな顔の親父に、バックからやらせている。それで、糊口を凌いできた事もあったもんだ。いい金蔓だった」

 ミソギは自嘲的に笑った。


「だから、デス・ウィングってのにも、気に入られている。俺はあの女、女と思えなくて苦手だけどな。まず、血が出ないのが萎えるんだ」

 ミソギは尊大な顔で、煙草に火を付ける。


「俺は能力者じゃないが、武器だけで、能力者共を大量に屠ってきた。奴らの力なんて、手品みたいなもんばっかだったからなぁ? 銃や爆弾があれば、充分に殺せる」

 それは本当なのだろう。

 そして、ミソギは数々の修羅場を潜ってきているのだろう。

 しかし、しかし……だから、それがどうした、という思考に行き着いてしまうのだ。

 セルジュは、メアリーに耳打ちしていた。

 セルジュはアサイラムに行って兵隊を探してきた感触としては、イゾルダとグリーン・ドレスの二人を念頭に入れて、メンバーを選ばなければ話にならないという事が身に沁みて分かったからだ。

 それくらいに、今から対峙する相手、今まで対峙してきた相手はやっかいなのだ。

 そして、あのグリーン・ドレスを倒したのが、ヴェルゼで、そのヴェルゼを倒したのが、アイーシャだ。


「なあ、メアリー。さっきヘリの中で、兵器とか戦争とかこの男、言っていたが。緑の悪魔の奴一人で、全部、使いこなせたよな? そして、アイーシャのネクロ・クルセイダーの機械ゾンビ、相当、やっかいなんだっけ?」

「そうなのよねえ…………」

 セルジュは、今度はミソギにはっきり聞こえるように言った。

「なあ、ひょっとして。外にいる連中とか、警備兵とか、この会場の奴らとか、全員、まとめて死体にしてから、ルブルが操って武器持たせた方が早いんじゃねぇの?」

 そう言うや、否や。

 セルジュは、肘からアケローンのナイフを出すと、一瞬にして、ミソギの首を切り落とそうと襲い掛かる。

 ミソギは、いつの間にか手にしていた鉄製のステッキで、セルジュのナイフを防ごうとする。ステッキは、そのまま二つに両断されて、セルジュの肘の刃物は、彼の頚動脈の辺りをかすめていた。

 ミソギは、明らかに狼狽したような顔をしていた。


「お前、……何しやがる?」

「俺の不意打ちで、このまま首が落とされるならやっぱりいらない、ってんだよ。なあ、アイーシャって奴のネクロ・クルセイダーの機械ゾンビは、ルブルのゾンビに銃や刀持たせた程度じゃねぇんだぞ? 奴の兵隊一人で、数十名の人間を一度にミンチに出来る、って聞いている。しかも、ルブルのゾンビと違って、アイーシャのゾンビは、銃も刃物も通らねぇえらしい。俺達は焦っているんだ。このままだと負ける。お前が道楽程度で、ギブ・アンド・テイクだの、金儲けだのすげぇ、下らねぇえ事言うんなら。全部、奪ってから、俺達の資材にしてしまった方が早いって言っているんだよ?」

 ミソギの額に、筋が走っていく。

「マーザ・ファッカーッ! ざけやがって。悔い改めさせてやる」


 ミソギは立ち上がって、いつの間にか手にしていたハンドガンの照準をセルジュへと向ける。

 セルジュは鼻で笑っていた。

 辺りに、騒ぎが広まっていく。

 おそらくは、ボディー・ガードらしき者達が集まってきて、次々と手に手に銃を握り締めていた。

 メアリーは、冷たく彼らに言う。

 まるで、スピーカーから音が発せられたように、よく通る声だった。


「あら、貴方達。牽制くらいで、それ見せるならいいけれども。もし、撃ち込んだりすれば。殺すわよ? 大人しくしている事ね。どうせ命中なんてしないんだから」

 そう言いながら、彼女は料理に口を付けていた。

 彼女は、七面鳥が気に入り、それをテーブル・ナイフで切り分けていく。中には、シチューが詰まっていた。


「味付けがいいわね。今度、ルブルとセルジュにも、同じもの作ってあげないと……」

 そう言いながら、彼女は、味付けなどを確かめていた。

 ミソギは、ハンドガンを手にしながら、いきり立つセルジュを牽制する。


「なあ、セルジュ。てめぇは、金が欲しいって思わなかったのかよ? 俺はずっとずっと欲しかったぜ? 何しろ、子供の頃、草とかゴキブリとか食って生きていたからなぁ? そして、病気を抱えながら生きた。地雷に怯えながら生きた。お前は、どうなんだ? お前、育ち実は良さそうだからなぁ?」

「ああ?」

 セルジュは、腹の底から笑った。


「確かに、俺はそれなりに裕福な家で育った。普通に大学に通わせてくれるな。だが、俺はお前が嫌いだ。お前の思想も嫌いだ。俺はお前が国民の大半が餓死寸前の国で育って、ずっと親に殴られ蹴られ人格を否定されながら育った境遇だとしても、何と言うか、俺はお前に同情しない。心の底から、小馬鹿にしてやる材料が増えるだけだ。なあ、同情して欲しいのかよ? 可哀想だな、って甘ったるい涙でも流して欲しいのか? そんな奴、余計にダートになんていらない。児童保護団体やクソ偽善者のボランティア連中に悲しまれてろ」

 セルジュは、円月刀のような形の肘のナイフを振り翳す。

 相変わらず、ミソギは、その攻撃を、銃身を盾にして捌いていく。


「メアリーは言う。他人の不幸は蜜の味だ、ってな。日々を幸福に生きる為のスパイスだ。たとえ、全人類の殆どが飢餓で切実に飢えて、毎日、食べられるという当たり前の幸せを望んでいようが。俺は、俺やメアリーは、自分達よりも、ちょっと顔が良かったり、ちょっと楽しげで幸せな恋愛をしている奴らを妬んで呪って生きてやるよ」

 セルジュは、ラッシュを続けた。

 何度も、何度も、肘のナイフを振り回していく。

 その度に、ミソギのハンドガンによって防がれていく。

 ……身体能力がやっかいな男だった。

 ルブルから又聞きした、デス・ウィングからの情報によると、このミソギという男は、一切の異質な能力を有していないにも関わらず、彼が有する武器などで、能力者を倒してきたらしい。恐ろしい男なのだ。

 それでも、セルジュは、アケローンの性能を確かめる意味も込めて、まるで怖気付く事無く、ミソギへと向かっていく。


「まあ、俺達ダートは、自分が全てのエゴイストばかりでいいって事だ。他人がどんなに苦しもうが、悲しもうが、それらを踏み潰して自分の快楽を満たせればいい。そういう連中を揃えたい。それがルブルの意思だ、分かるよな?」

 ミソギは、明らかに苛立った顔をしながらセルジュを見ていた。

 そして、おもむろに彼は、セルジュの顔へと向かって唾を吐く。

 セルジュは、彼の飛ばした唾を難なく避けて、嘲笑う。


「俺もお前が嫌いだ。お前らのような連中が大嫌いだ。なあ、俺には理解できねぇよ。何だ、その、人を殺すのはどんな気分なのか試してみたかったって、っていう非合理的な理由は? 殺しちまったら、刑務所行くし、職失うだろ? そしたら、シャバに出ても食うに困る。お前らのような異常快楽殺人犯は、俺の理解出来ない理由で犯罪に手を染めるよな? 普通に幸せな人生を送れる筈なのにな?」

「お前、本当は同情されたいだけだろ? 恥ずかしくないのかよ?」

 二人は、まるで一歩も引かなかった。


「処で、ミソギ。お前、言っている事、支離滅裂なんだよ。お前、女を撃ち殺すのも趣味だって言ってたんだろ? それなのに、異常快楽殺人犯が嫌い? 馬鹿じゃねえのか? それとも、ただの同属嫌悪かよ?」

「筋通ってるだろ? 幸福な家庭で育った奴が、狂ったフリなんかすんのが、反吐が出るってんだよ。デス・ウィングや、お前のようなタイプが俺は一番、嫌いなんだ。俺は、今でも、幼少期のトラウマに蝕まれる…………」

 ミソギは、いつの間にか、両手に小型ショット・ガンを手にしていた。

 そして、それらの引き金を引いて、セルジュへと撃ち込んでいく。

 銃撃戦は始まったのだった。

 いや、銃とナイフの戦いか……。

 メアリーは、ひたすらに、席に付いたままコーヒーを飲んでいた。

 どうやら、ミソギのボディー・ガード達は、拳銃を握り締めながらも、二人の身体能力に付いていけずに、まるで照準を合わせられずにいるみたいだった。

 ミソギはセルジュの動きを何故か、追えている。自分では能力者じゃないと言っていたのにも関わらず、セルジュの動きを追えているのだ。

 セルジュは、両肘の刃物で、ミソギの攻撃を全て受け止める。

 音速で飛んでくる弾丸を、正確に弾き飛ばしていた。


「やはり、軽いんだよ。お前の攻撃はなぁ? 所詮は、ただの鉄砲玉だろ?」

 そう言いながら、セルジュは、その辺りにある椅子を蹴り飛ばす。

 椅子が、ぐちゃぐちゃに変形しながら、一本の槍となって、ミソギの下へと襲い掛かる。

 ミソギは、あっさりと、それをかわす。

 更に、乱戦は続いていく。

 メアリーは、一通り、ディナーを食べ終わっていた。

 メアリーは、通信機を取り出すと、ルブルへと連絡する。


「中々、ミソギという男。面白いわよ。ダートのメンバーに相応しい奴だと思うわね。あらっ、…………デス・ウィングが、もう一人、斡旋してくれるの。そう、頼もしい限りね」




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