表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/80

第十章 武器商人と滅ぼす光 1

 ルブルの作った塹壕のような、地下の家の中だ。

 セルジュは、自室へと戻る。

 そこが、いつものように、彼にとっての居場所だった。

 全身を映す鏡を部屋に、取り付けていく。


「よう、ダリア」


 セルジュは冷笑を浮かべる。

「俺は欲しいものは、全部、奪おうかって考えている処だ。お前の肉体をぶん取ったようにな? なあ、普通に考えて、お前は殺されて死んだだけなんだよ。俺がお前の肉体を再利用しているだけって解釈もあるよな? ルブルとか見てみろよ、あいつは本当に人間の死体は道具や、何かの部品だとしか思っていない。そこに人格だとか、人権だとか、そんなものをまるで見ていやしない。最高だろう?」

 罪悪感を握り潰そう。

 そんなもの、自分には存在してはならないものだと考えよう。


「お前の思考回路は手に入らなかった。それで別に構わないだろ? 俺がお前から取ったものは、顔や髪、胸、腹、腰。綺麗な指先、肘、腿。皮膚、血液、筋肉、骨。眼球、鼻、耳、それから一応、恥部。胃、腸、肺、心臓。別にそんだけだ。お前の脳だとか、お前の魂だとか、って奴は奪っていない。お前は人格まで俺に侵される事なんて無かった。なら、別に大した事、無いんじゃないか?」

 セルジュは、両肘と背中、両膝から、鋭く婉曲したナイフを生やす。


「ケルベロスの力だ。この刃物はとてつもなく美しい。お前だけでは手に入らなかったものだ。なあ、俺はこれ以上、誰かから何かを奪えるのかな? 俺には分からない。俺はどういう風に、強くなっていくのかが…………」

 間違いなく分かっているのは、ダリアの肉体を手にしても、自分はダリアじゃない。

 何処までいっても、自分は自分でしかない。

 人の表面を取り替えたとしても、その人間になる事なんて出来はしなかった。

 なら、自分は今、誰に劣等感を覚えているのだろう……?


「ミソギの話を聞いている限り、この世界ってのは他人の人生の奪い合いなんだな。支配者と被支配者が存在している。誰もが、その渦の中にいるのかもしれないな?」

 何の為に、自分が生きているのか、まだその意味を実感出来そうにない。

 だから、きっと手に入れなければならないのだ。

 この押し寄せてくる劣等感は、何なのだろう?

 きっと、自分自身の精神を、もっとも嫌悪している。

 自分の人生は呪われている。未来は更に、呪われていくのだろう。

 それでも構わないと誓った筈だ。

 抗おうとするのが、愚かなのかもしれない。

 抗う? 何にだろう?


「俺は、俺は矮小な自分を乗り越えたいのか……?」

 彼は鏡の部屋の中で、一人、打ち震える。

 化粧の仕方を教えてくれたのは、メアリーだ。

 髪の結い方を教えてくれたのは、メアリーだ。

 服を見繕ってくれて、着こなし方を教えてくれたのも、メアリーだ。

 そして、ダリアの肉体を奪う提案をしたのも、メアリーだ。

 だから、セルジュはメアリーに尽くそうと考えているのだ。主君のように思いたいのだが、彼女自身は、そういう関係を望まない。あくまでも、大切な仲間として接してくれる。


 彼女の役に立つ瞬間の為にだけ、自分は生きている。

 きっと、それが自分の始まりなのだから。

 そう。

 たとえ、自分が醜悪な化け物になっても構わない。

 その覚悟が、ずっと必要なのだから。

 外で、ルブルの声が聞こえた。

 どうやら、この城の主が帰ってきたみたいだった。



「ヴェルゼが死んだみたい。そして、アイーシャの体内に入れた通信機からの信号は途絶えた……」


 そう言いながら、ルブルは、塹壕の家の中へと入ってきた。

 どうも、ルブルは不安定そうだった。おそらくは、受信している波長のようなものが酷く乱れているからなのだろう。

 中では、セルジュとメアリーの二人が待機していた。

ルブルが暗黒の地から帰ってくる頃には、メアリーの全身は体裁上、復元していた。しかし、実際、どうなのかは分からない。彼女の肉体はアンデッドだ、どれだけの耐久力があるのかは、ルブルにも未知数だった。

 セルジュは自室に閉じ篭って、相変わらず、自分の姿を見ていた。

 小さいながらも、以前、城にいた時と同じように暮らしている。


「二人共、お疲れ様」

 ルブルはそう言う。

「そっちこそ、大変だったんだろ? なんだ? その、デス・ウィング、ってのは?」

 セルジュが自身の部屋から出て、ルブルに話し掛ける。


「昔からの友人。それで、私が留守にしている間、異常は無かった?」

「ええ」

 メアリーが頷く。

「新たなダートのメンバーが追加される、“武器商人”と言うらしいわ。本名は聞かされていない」

「ふうん?」

 セルジュの顔がいぶかしむ。

 ルブルは武器商人の電話番号を、デス・ウィングという女から教えて貰ったらしい。

 ルブルは通信機を使って、武器商人に電話を入れる。


「えっ、既に手配しているの? 分かったわ、場所は、そうね……」

 漆黒の魔女の声音に、警戒心が灯る。

 そう。


 今から、十数時間後に、ヘリがこの森の付近に訪れるらしい。

 セルジュとメアリーの二人が、ヘリに乗ると言った。


「今度は、俺とメアリーが出向いてやるよ。ルブル、お前が此処を守ってくれよ?」

 セルジュは不敵な笑みを浮かべる。

 黒い魔女は、とても信頼に満ちた眼差しで、二人に対して頷いていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ