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第八章 映し鏡のセルジュ 2

 イゾルダは形見のように、とても役に立つ生体兵器を幾つも残してくれた。


 だから、彼の意志を次ぐ為にも、それらを有効活用しようと思った。

 セルジュは、カメレオンのように、周辺の景色に同化する生体兵器を使って、此処まで来たのだった。


 アサイラムだ。

 来るまで、それ程、手間は関わらなかった。


 何だかんだで、此処の警備は手薄だ。

 並の能力者ならば、此処に来るのは、至極困難なのだろうが、生憎、ルブルも、そしてイゾルダに至っては、彼の作り出す兵器だけで、こんな場所、安々と訪れる事が可能なのだ。

 そして、ルブルの真似をして、特殊な者達だけが聞き取れる音波を、生体兵器に放たせながら、セルジュは、アサイラムを徘徊していた。

 アサイラムは島国だ。建物以外にも、外に出れる囚人達や護衛のハンター達が、リゾートのように使ってもいる。

 ある建造物の窓を割って、セルジュは中へと進入して、囚人達の記録を眺めていた。

 そして、少しだけ苛々したような顔になっていく。

 此処に突入して、約四十分、そして、この部屋の中に進入して、約十五分が経過していた。彼は窓を閉め、F-1546と呼ばれる生体兵器の中から、細長い黒い鞄を取り出し、窓際に立て掛ける。

 しばらくして、二人の男が部屋の中へと入ってきた。

「お前らは、何だ? 一応、俺が“呼んだ”んだが」

 ヴェルゼは、グリーン・ドレスとアイーシャの討伐に向かっている。

 イゾルダが死に、アイーシャとグリーン・ドレスが裏切り、メアリーに重症を負わせてしまっていた。

 明らかに、ダート側の戦力は不足していた。

 此処に“掘り出し物”が無いかセルジュは、探しにやってきたのだった。

「俺の名前はフロッグマン」

 そう、二人の内の一人である、小太りの男が答えた。

「俺の名はピュロマーネ」

 そう言って、針金のように細い赤いシャツの男がくるくるっ、と全身をくねらせる。

 そして、彼らが自己紹介した後に、更に三名の男達が部屋へと入ってきた。

 セルジュは面倒臭そうな顔になる。

「で、お前ら、何が出来るんだよっ?」

 フロッグマンは、口から泡を吐き続けた。それが地面に落ちて、地面が溶け崩れていく。更に、彼は口の中から、長い舌を取り出して回す。更に、彼は背中から、蝙蝠のような翼を生やしていた。

「俺の方は、何でも燃やせるぜ」

 ピュロマーネと名乗った男は、辺りに炎を弾を撒いていく。そして、彼自身に、炎の蛇が撒き付いていく。

「何だ、つまらねぇなあ。イゾルダやグリーン・ドレスは、もっとずっと凄かった。お前らは足元にも及ばない、ゴミなんだよ。何なら、全員、纏めて俺を殺しに来いよ」

 それを聞いた能力者二人は、怒り出して、セルジュへと襲い掛かろうとする。

 それぞれ、溶解液を投げるべく、炎で人体発火を起こすべく、能力を振るう。

 動かなかった他の能力者三名は、一瞬にして、信じられない光景を目の当たりにしていた。

 セルジュが、背後の窓ガラスを、肘に纏った鉄甲で叩き割る。

 すると、ガラスに映った二人の能力者がバラバラに砕け散っていく。

 フロッグマンと、ピュロマーネの死体を見て、セルジュはつまらなそうに他の三名を眺めていた。

 能力者三名は、茫然自失としながら、散らばって、細切れに砕け散った死体を眺めているのだった。

「おい、どうするよ? お前らはどうする? 俺は今から、ケルベロスの処に行くんだが、付いてくるか? 生体兵器F-1546の音波を読み取ったって事は、てめぇらは、反乱分子の才能がある奴らなんだろう? こんなものなのかよ? 馬鹿にしやがって」

 そう言って、セルジュは、他の三名を押し退けて、部屋を出ようとする。

 既に、この部屋内にて、アサイラムの見取り図は入手していた。

 ふと、セルジュは部屋の扉を開ける途中、三名の中にいる男をまじまじと見つめる。

 セルジュは、手にした犯罪者のファイルのコピーを眺めていた。

 この男の名は、カーカス。殺害数は六名。

「お前、カーカスだろ?」

「そ、そうですが……」

 そう言って、その男は答えた。仏頂面で、顎鬚が濃い男だった。

「お前、俺と似ている」

 セルジュは、カーカスの顔を、まじまじと見つめていた。

「浮気した女を張り付けにして、少しずつ切り刻んでいったんだっけ? 何日も、死なないようにな。お前、爪を操る能力者なんだっけ? お前の爪の斬撃を食らうと、血が止まって、苦痛だけが続いていくんだよなあ? そして、お前は振った女の浮気相手の男と、過去にその女が付き合っていた男四名を似たようなやり方で殺害した、と。まあ、普通の犯罪者なら、矯正不可能なんだろうが。アサイラムじゃあ、よくいるよなあ、そして、お前は模範囚とやらなんだっけ、すげぇな」

「ははっ、こんなお嬢さんの下に付くなんて、大歓迎だよ」

「そうかよ、ちなみに、俺は男だよ。一応な。身体は女なんだが。まあ、お前と同じように、嫉妬深くて、好きな女の身体をぶん取ったんだよ」

 そう言って、セルジュは今度こそ部屋を出ていく。

 カーカスに続いて、残りの二人も、どうやらセルジュに付き従いたいみたいだった。

 セルジュは、鼻を鳴らして小馬鹿にしながら、部屋を出る。




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