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第六章 空よ、この鳥篭を壊しておくれ 1

 暴君、ウォーター・ハウスは、よく図書室に入っていた。


 ケルベロスも彼の付き添いのようなもので、よく図書室のソファーに寝転がっていた。そして、砂糖のたっぷり入ったコーヒーを啜る。それが日課にもなっていた。

 彼は、ぼんやりと思索に耽るのが好きな男だった。

 いつも、何を考えているのか、分からない時も多い。


 彼はどうやら、今日は、地球儀の模型図にはまっているみたいだった。世界各国は、それぞれ、自国を中心に地球儀を作っていた。そして、地球儀の歴史というものにも、興味を抱いているみたいだった。遥か昔、この惑星の周りを、あらゆる天体が回っていると見なされていた。しかし、今では、この惑星そのものが、宇宙を回っている。

 決して、此処は宇宙の中心では無かった。

 しかし、彼は、それよりも、何故、人が自らを中心だと思いたがるのかについて、思索しているみたいだった。

 ケルベロスは、キャンディを舐めながら、煙草の代わりにする。

 図書室では禁煙だからだ。


「なあ、ケルベロス」

「何だ?」

「何故、人々は世界を支配したがるのだろうな。俺にはそれはとても興味深く映る。何なのだろうな、人間という生き物は。高みを目指し、上昇志向を持ち、誰よりも高い塔へと上りたがる。それが人という種族なのだろうなあ」

 そして、彼は本を棚に戻すと、おもむろに意外な事を口にする。


「あのな、俺は今、どうやら好きな人間がいるらしい」

 ケルベロスは、怪訝そうな顔になる。

「何だ? それは、珍しいな」

「ああ、此れ見ろよ」

 そう言って、彼は通信機に保存してある写真を見せる。

「何だよ、これ。後ろ血塗れじゃねぇか。何だよ、お前と似ているような女だな」

「まあ、言うな。それから、一応、殺した奴らは、賞金首の連中だぞ。つまり、合法だ。なあ、ケルベロス。俺は最高な夜を眼にしたよ。この女、この後、此処に移っている館に火を放ったんだ。そして、笑い転げていた。あれは、素晴らしかったなあ」

 そう言いながら、彼は唇を指先で弄っていた。


「とても楽しい夜だった。彼女となら、何でもやれそうな気がした」

「はっ、言うなあ」

 ウォーター・ハウスは、ソファーに腰を下ろす。

 彼はいつも、植物だとか、帆船だとか、気球だとか、宇宙だとかの本を熱心に読んでいた。そういったものが、とても好きなのだろう。


「なあ、ケルベロス。聞きたい事があるんだが……」

「なんだよ?」

「女を幸せにするってのは、どうすればいいのかな?」

 ケルベロスは、思わず、飲み物を噴出しそうになる。


「分からんな、俺には分からん。俺は狂っているのだからな……」

 普通の幸せの形、って何なのだろうなあ。

 彼は、そんな事をぶつぶつと呟いていた。

 ケルベロスは苦笑する。

 その時の暴君の横顔が、どうしても忘れられそうになかった。



「コッペリアはいるか?」


 暗い工房の中に、メビウスは入っていく。

 中には、陰気そうな美少年が、ひたすら粘土をこねくり回していた。

 彼は、メビウスの身体を見て驚愕する。


「メビウスさま、その…………」

「ああ、油断していた。戦力外だと思っていたんだけどな」

 見ると、メビウスの右腕と右足が欠損していた。

 コッペリアは、焦りながら、すぐに代えの部品を彼女の手足にくっ付ける。

 メビウスは、新たに付けられた手足を動かしていく。


「駄目だな、以前よりもウロボロスの力に耐え切れない」

 そう冷たく言い放って、メビウスは工房を出て行く。

 コッペリアはいたたまれない顔になっていく。

 メビウスは振り返って、彼に告げる。


「じゃあ、コッペリア。私は行くが。お前の腕が上達して、私の力を可能な限り、引き出せる実力にまで上がる事をとても期待しているぞ」

 そう言って、彼の主人は、暗闇の中へと消えていってしまった。

 後に残されたコッペリアは、複雑な顔で、粘土の塊と、焼き釜を眺め続けているのだった。




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