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第五章 破壊と狂気の果てへ 4

 メビウスは、暗い森を突き進んでいった。


 確か、情報によれば、この辺りに、ルブルの城がある筈だ。

 メビウスは有無を言わさずに、敵の首領を倒す事を念頭に入れた。

 それこそが、戦いにおいての、定石と言えるものなのだろうから。


「おい、待てよ」

 後ろから、声が聞こえる。

 振り返ってみると、腰元まで髪の毛を伸ばした女が立っていた。


「お前、メビウス・リングだろ。この俺が始末してやるよ」

 メビウスは、興味を無くしたように、先に進む事にする。

「おい、待てよ。俺はダートのメンバーだ。俺がお前を倒してやるよ」

 メビウスは、人間で言う処の、鼻で笑うような仕草をする。


「お前、“男”か。私はお前程度は、抹殺対象にしない。お前の肉体はどう見ても、ただの人間女性大程度しかない。せいぜい、命は大切にする事だな」

 そう言いながら、メビウスは彼にまるで興味を示さなかった。


「見てろよ、俺の能力はすげぇんだぜ?」

 ぶわっ、と、辺り一面の木々が、捻じ曲がっていく。

 風が吹き抜けて、一面の空間自体が、渦巻きを帯びているかのようだった。


「お前ごときでは、私は倒せない。では、私は行くぞ」

 そう言って、金色の巻き髪をした球体間接人形は、セルジュを置いて行ってしまった。

 彼は、茫然自失のまま、女の去っていた場所をずっと眺め続けていた。


 セルジュは、一人取り残されて、途方に暮れていた。

 敵からも、戦力外通告をされてしまったという事なのだ。


「ああ、畜生。畜生、俺はそんなに弱いのかよ? ふざけやがって、ああっ?」

 彼は悔しくて、涙が頬を伝わっていた。

 自分は、無能で、無力なただの屑だ。そんな思いで、いっぱいだった。



「どうやら、あちらからも攻めてきたみたいね」


 ルブルはとても楽しげに笑っていた。

 どうしようもないくらいの高揚感が、彼女を支配しているのが分かった。

 彼女は狂喜している。

 まるで、深淵を覗き見る者の顔をしていた。

 自らが死んでいく事さえも、もはや遊戯でしかないかのように思えて仕方が無いのだろうか。

 奥から、メアリーが現れる。


「どう?」

「ふふふっ、お人形さんが迷い込んできたみたい。ねえ、ずっと迷わせてみる? それはそれで、とっても楽しい事なのかもしれないけれども」

「うーん、困ったわねえ。私の『マルトリート』も、持続力に限界があるのよ。いつまでも、使っていられないものなのよね」

 そして、メアリーは心配げな顔で、魔女に言う。


「処で、セルジュがいなくなったのだけれども。何処に行ったのかしら、とっても不安なの…………」

 セルジュはいてくれるだけで、それでいい。

 それが、メアリーの本心だった。

 彼の能力は、確かに強力なものだが。それを使いこなすだけの機転などが、彼にあるとは、とても思えなかったからだ。



 メビウスは、ルブルの城だと思う場所にまで辿り着く。


 城は奇形的な形をしていて、何度も、何度も増築したみたいな形状をしていた。

 おそらく、幻影の能力なのだろう。

 その城は、辺り一面に幾つも聳え立っていた。

 メビウスは思考する。


「さて、私を永遠に迷わせるつもりなのか?」

 それはそれで、駆け引きの勝負になるだろう。

 メビウスは、精神力では負けるつもりはまるで無かった。

 人間ごときの浅はかな思考の前に、ひれ伏すつもりなど、まるで無かった。

 ウロボロスの回転の力は、ほぼ無敵だ。

 以前よりは、力を失ってこそいるが、それでも強大な力には変わらない。

 力を持つという事。

 それが、統治者としての使命なのだ。

 メビウスは、ドーンの統治者だ。

 だからこそ、そこら辺の能力者共など、簡単に肉塊に変えられるだけの力を有していなければならなかった。



 メアリーの幻影が幾つも現れては消えていく。


 空中に突如、浮かび上がる、斧や槍などで攻撃するのだが。

 幻影に混ぜて、ルブルの作り出した歯や爪の伸びたゾンビなども突撃させる。

 悉く、それらが破壊され尽くされていく。

 メビウスは、回転の攻撃である『ウロボロス』によって、それらの幻影を破壊していく。

 彼女の力の前では、鉄のように強化した幻影も、全ては紙屑のようなものだった。

 キリが無いな、と彼女は思う。

 しかし、持久戦には持ちこたえるつもりでいた。

 幻影の中に、一枚の鏡があった。

 そこに、メビウス自身は映し出されていた。

 鏡がひび割れていく。

 右側辺りだった。

 彼女は、咄嗟に、後ろに飛び退く。

 完全に、行動が遅かった。

 ぱきり、という音がする。

 鏡が、弾け飛んだ音だ。


 すると。

 メビウスの、右腕が砕け散っていた。

 そして、次に、右脚が砕け散っていた。

 何をされたのか、まるで分からなかった。

 メビウスは、そのまま地面に倒れそうになるが、回転の辺りに巡らせる事によって、その場に立ち続ける。

 かなり、拙い状況だった。

 かなりのダメージを負ってしまっていた。

 しかも、四方に逃げ場が無かった。

 いつの間にか、彼女を破壊した鏡の幻影が、彼女を覆おうとしていたからだ。



 

「してやられたわね」

 メアリーは、溜め息を吐く。


 数十メートル程先に、それは作られていた。

 孔だ。

 地面に、大きな孔が開いていた。

 メビウスは、地面を刳り貫いて、此処から逃れたのだった。

 セルジュは、わなわなっ、と震えていた。


「なあ、メアリー。俺、役に立ったよな? 俺、役立たずじゃなかったよな?」

「ええ、セルジュ。貴方は強かったわよ、確かに役に立った」

 メアリーはとてつもなく、優しい笑みを浮かべる。


 そう言って、メアリーはセルジュを強く抱き締める。

 その後、彼女は彼の長い髪を撫でていくのだった。



 イゾルダは表記番号を与えられて、ずっと試験管の中で育てられていた。

 彼を研究している白衣の者達は、彼に対して、様々な実験を行っていた。


 イゾルダは、色々な生物の遺伝子を注入され続けていた。

 どうやら、彼は何度も、何度も、失敗した実験体らしかったのだが、彼の場合は、中々死なないサンプルとして生かし続けられていた。

 試験管から出されて、何名かの者達と友人になったのだが。何日かすると、友人達は、焼却処分されたり、よくても標本として飾られたりしていた。

 自分が何の為に生まれてきたのか。

 そして、友人達が何の為に死んでいくのか。


 彼にはまるで分からなかった。

 どうしても、理解し難い、不条理でしかなかった。

 ずっと、何の為に自分は生きているのだろうか。そんな思いに駆られ続けていた。

 しかし、ある時、彼もまた、死刑宣告を下されたのだった。

 それは、彼の力が余りにも、強大になり過ぎたのと。余りにも、人ならざる知性を持ってしまった為らしかった。


 それまで、信じていた研究者達は、彼を冷たい視線で見つめているだけだった。

 確かに、彼らは述べたのだった。


 人類の為に、彼は死ぬ必要があるのだ、と。

 そう宣言された時、ならば、死ぬべきなのは、どちらなのかと彼は考えた。

 結論は、自分が生きる道だった。

 そして、彼は憎悪と共に、その場所を脱出した。何名もの血塗りの死体が生まれた。

 ルブルの精神の伝令が訪れるまで、彼はひっそりと闇の中で暮らしていた。


 彼に光を与えてくれたのは、ルブルだった。

 だから、彼はダートに尽くしたいと、ひたむきに願うのだった。


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