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第五章 破壊と狂気の果てへ 2

 アイーシャは、念入りに自身の武器を研いでいた。


 彼女は真剣なまでに、自分の使う武器に固執しているみたいだった。

 メアリーが嫌いだし、セルジュも鬱陶しいし、イゾルダの作り出すものも気持ち悪いから、という理由で、彼女は此処にいるのだった。


 アイーシャは、緑の悪魔の側に付いた。

 それは、もっとも合理的な理由で、消去法で選んだ、という事だった。

 グリーン・ドレスは、楽しげに、この国の玉座に鎮座していた。

 皇帝である、パルスという男の焼死体は、玉座の隣に転がっていた。

 アイーシャの機械ゾンビ兵の一体が、グリズリーの中継をしていた。

 映像は複数、並んでいるのだが。ある区域で、機械兵達が、次々に破壊されている場所がある。大鎌を手にした少女の姿が映っていた。


「あなたの、機械ゾンビ、どんどん倒されていっているわよ」

「いいのよ、別に。どうせ、私の『ネクロ・クルセイダー』なら、幾らでも大量生産出来る事だし。そのうち、あの子も消耗して不利になっていくんじゃないのかしら?」

 そう言いながら、アイーシャはふわわっ、と、面倒臭そうな顔をする。

 グリーン・ドレスは、どうしても衝動を抑え切れないみたいだった。


「私は出向いていくわ。弱い人達の為にね?」

 彼女の全身が、赤い炎に包まれていく。

 アイーシャは、ぽりぽりと、この国の名物の豆菓子を口に入れて食べ続けているのだった。そして、リモコンを付けて、王室のみで中継しているアニメ画を見ているのだった。



 炎の翼が、空を舞っていた。


 大気が、どんよりとした赤を帯びていた。

 ジェット・エンジンのような音が、辺りに響き渡っていく。

 彼女は、破壊する事によって、自由を獲得したような気分になる。


 グリーン・ドレスが、自身の能力である『マグナカルタ』を使い続けていたのだった。

 炎が建造物を焼き払い、路上を火の海にして、ダムも熱湯へと変えていく。

 人が創り上げてきた都市というものが、余りにも、簡単に崩れ去っていってしまっていく。

 装甲を守った機械兵が、街を占領していた。

 インソムニアは、それらの兵士を次々と、大鎌で切り裂いていく。

 死神の少女の方も、とても戦う事に充足感を得ているみたいだった。

 彼女に向けられて、銃弾などが飛ばされていく。

 インソムニアは、召喚した、三つ首のドラゴン・ゾンビを頭部の辺りに乗せるような形にして、何とか、致命傷を防いでいく。

 グリーン・ドレスは、空からせせら笑っていた。


「あらあら、お馬鹿さんばかりねぇ? アサイラムではお世話になったわねぇ。あなたのせいで、私は一度、あなた達に負けた事になっているのよ。その屈辱を晴らしてもいいわねぇ。ねえ、でも、あなた達は所詮、地上を這う南京虫みたいなものなのよ。今度は、私を傷付ける事なんて、出来ないわ。さっさと、跪いて焼け死ぬがいいわあ?」

 緑の悪魔は、噴出する、炎の翼を広げていた。

 辺りは、更に増え続ける機械のゾンビ兵団によって、蹂躙され、街の者達が殺されていく。

 破壊に次ぐ、破壊だ。

 それは、留まる事を知らなかった。

 インソムニアの肉体の欠損が酷くなっていく。

 彼女は右手から、キルリアン・ストリームの負の光弾を撃ち続ける。

 この能力は、周辺にある負のエネルギー、恐怖や不安などといったネガティブなエネルギーを弾丸へと変えている攻撃だった。だから、弾は尽きない。

 しかし、インソムニアの肉体は、徐々に疲弊しているかのようだった。


 突如。

 颯爽と、鉛玉を撃ちまくる機械兵達を殴り倒していく男が現れた。

 ケルベロスだった。

 アサイラムの所長という役職を無視して、彼は前線に赴いてきたのだった。

 彼は、宙に浮かんだ赤銅色の髪の女に訊ねる。


「お前、ウォーター・ハウスの女なんだろう?」

 ケルベロスは訊ねる。


「あら、よく知っているわね。何処で調べたの? あなた、女々しいストーカーなの?」

「俺は奴とは同僚だった。奴は一般的には、悪人と呼ばれる人種だったが、俺にとっては、とても良い奴だった」

「ふふっ、思い出は汚して欲しくないわねぇ。あなたごときにはね。でも、そうねえ、あの人は、今、どうしているのかしら?」

「……死んだ、と聞かされている。まあ、友人が奴と戦って、その友人も消息不明なんだがな。処で、グリーン・ドレス、奴はかなりモテた。お前以外にも、女は幾らでもいたかもな」

 それを聞いて、緑の悪魔は、額の血管を引くつかせる。

「あらそう? なら、あなたは暫定的に、私の男の仇って事でいいわよね? という事で、さっさと焼け死んで貰おうかしら? 皮膚が弾け飛んで、肉が溶けて、骨が剥き出しになりながら、踊るように死ねっ!」


 グリーン・ドレスの右手に、炎が収束していく。

 やがて、それは剣のような形へと変わっていく。


「『マグナカルタ・イグニート・ソード』」


 彼女は、炎の剣を振るっていた。

 彼女の全身が発光するように燃えて、真っ黒な骨格が点滅しながら、浮かび上がっていく。

 グリーン・ドレスは、とてつもなく楽しそうな顔をしていた。

 炎が燃え盛っていく。

 天から長く伸びた炎は、大地へと突き刺さっていた。


「弱い、弱い、弱い、弱い、弱い、弱い。下らないわねぇ、何で、こんなに弱いのかしら? 此処を守ろうなんて、とんだ羞恥プレイだったわねえ?」

 炎が、大地を焼き焦がしていく。

 彼女は、焼け爛れた鉄骨を振り回していく。

 そして、辺り一帯にある建造物を、鉄骨で薙ぎ倒していく。

 インソムニアと、ケルベロスは、炎の中へと包まれていく。

 何百、何千度の炎へと達していくのだろうか。

 彼女は、周辺から熱エネルギーをひたすら集め続けていた。

 彼女は、自分の能力の限界の先を知りたいと思う。

 もし、宇宙へ行く肉体を有していたら、太陽でさえも吸収してしまうかもしれない。


 グリーン・ドレスは、恍惚と傲慢さに酔い痴れていた。

 何もかもを、押し潰したい衝動ばかりに支配されていた。

 突然、機械兵が、グリーン・ドレスの飛んでいる方向へと投げられていく。

 彼女は、風を操作して、それを振り払う。

 再び、機械兵の残骸が、彼女へと向けて投げられる。


「何かしら? 無駄だって分からないのかしら? もう、あなた達の能力なんて、私には通じないのよ」

 突然。

 投げられた機械兵の全身が変形していき、全身から、刃を生やしていく。

 そして、さながらブーメランのように回転しながら、グリーン・ドレスの背中を深く裂いていく。

 そのまま、緑の悪魔は旋回しながら、落下していく。

 炎を全身から噴出しながら、彼女は呪詛の言葉を吐き続けていた。


「このまま、倒せるかな?」

 ケルベロスは、全身に火傷を負いながら呟く。

「なあ、お前の能力どんな事しているんだよ?」

「俺の『アケローン』か? 俺は、骨格のあるものを好きなように変形させる事が出来るんだ、自分の身体だってそうだ。俺は、あの機械兵の肉体を変形させて、刃物が突き出て、奴を狙って、回転していくように作り変えたんだ」

 そう言うケルベロスは、突出した、再生能力を持たない。

 全身火傷で、かなり苦しい状態に追い込まれているみたいだった。

 インソムニアは、炎の中から立ち上がると、大鎌を持って、緑の悪魔に止めを刺そうとする。


 すると。

 一閃。

 一閃によって、インソムニアは、真っ二つに切り分けられていた。

 インソムニアは上半身だけで、地面に転がっている事に気付く。

 振り返ってみると、大剣を持った赤黒い髪の女が、インソムニアを二つに分けた事に気付いた。

 グリーン・ドレスは地面に落下した後、しばらくの間、呻いていたが、既に気を失っているみたいだった。


「お前の名前は何だ?」

 赤黒い髪の女は、ケルベロスの鼻先に剣を突き付ける。

「俺の名はケルベロス、お前は?」

「私はアイーシャ。宜しく」

 そう言うと、彼女は気絶している、グリーン・ドレスを肩に担いで、その場を離れていった。

「まあ、今回の処は引き分け、という事でいいかな?」

 赤黒い女剣士は冷淡な顔で訊ねる。

 ケルベロスは、首を横に振る。

 この街はほぼ壊滅状態だった。

 ルブル達は壊す為に戦っている。

 しかし、ケルベロスは、守る為に戦っている。

 なら、勝敗の理由もまるで違うものなのだ。


 グリズリーは瓦礫の山と化している。民間人も焼き殺されて、兵士達はアイーシャの能力によって、機械の兵団へと変えられてしまっている。


 何一つとして、彼は守れていない。

 つまり…………。

「なら、俺達の完全な敗北じゃねえか」

 ケルベロスは、地面に勢いよく拳を撃ち付ける。




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