第五章 破壊と狂気の果てへ 1
アイーシャは、グリーン・ドレスと合流する。
緑の悪魔は、征服した区域の美少年を集めては、淫行に耽っていた。
緑の悪魔は、性欲というものに対して、奔放みたいだった。
「あはははっ、おかしいぃ。どいつも、こいつも、私と抱き合うと、燃え尽きて死んじゃう。早すぎるのよ、みんな、可愛い顔しているけどね。やっぱり、経験がとっても少ないのねえ?」
部屋の中には、大量の焼死体が転がっていた。
市民の家に押し入って、戦場に簡易的に作った休息地にて、彼女はこの辺りにいる自分好みの男を攫っては、侵略の証として凌辱していた。
彼女はまるで、逆ハーレムみたいなものを作っては、犯した美少年を焼き殺してしまう。彼女はそういう行為を、どうしようもない程に、止められないみたいだった。
アイーシャは、緑の悪魔に付いていけば、メアリーの精神的な蹂躙から抜け出せるかもしれないと思った。
きっと、戦って、何かを勝ち取るしかないのだろう。
それだけが答えなのだろうから。
†
グリーン・ドレス。
彼女は、世界を征服する者だ。
それは、彼女の能力の根源そのものであると言ってもいいかもしれない。
緑の悪魔は、自らが暴力の象徴になりたいとさえ思っている。
破壊と欲望、蹂躙。それらはとてつもない程に、ある種の神聖ささえ感じ取る事がある。
兵器とは、古来より、征服の象徴だったのではなかろうか。
彼女は、兵器を纏う事が出来る者だ。
自衛とは名ばかりの、他人を支配して、奴隷へと変えていく恐怖そのものなのだ。
彼女は、それを纏いたい。
自らが、人々が抱くであろう、嫌悪の象徴でありたい。
そればかりを願って、彼女は戦い、動いているのだろう。
グリーン・ドレスは、アイーシャと組んで、各地の街を征服し続けていた。
ありとあらゆる場所に、破壊の痕跡が作られていった。
そして、緑の悪魔は、自分好みの美少年を見かけると、捕らえて、夜の慰みものにした後、燃やして殺した。
緑の悪魔は、女でありながらも、性行為の暴力性を抑えられない者だった。
アイーシャは、そんな彼女を見て、しばし呆れていた。
†
この国は、全身全霊の武力を持って、彼女を撃退しようとしていた。
赤い線が、空に迸っている。
ミサイルの照準が、空飛ぶ悪魔に向けられていた。
緑の悪魔は嘲っていた。
それは、人一人に使うには、余りにも遣り過ぎなパワーを持った武器だった。
ミサイルだった。
都市一つを破壊して、何十万名もの命を瞬時に奪える武器だった。
それが、彼女目掛けて、撃ち込まれていく。
グリーン・ドレスは、ミサイルを両手で受け止めていた。
そして、爆撃をその肉体に、吸収していった。
破壊のエネルギーを、そのまま自身の力として、纏う事が出来る。
炎とは彼女にとって、食料みたいなものだった。
兵器とは、簡単に吸収可能な養分みたいなものだった。
緑の悪魔は、アイーシャと共に、ある大国に攻め入っていた。
此処は、軍事国家グリズリーという場所だった。
全ては、灰へと変わってしまえばいい。
歴史のある建築物も、住宅街も、デパートも、何もかもが塵へと変わってしまえばいい。破壊そのものは素晴らしい、悲惨であるが故にどうしようもない程に、素晴らしい。
何度も、爆撃の攻撃が、彼女へと撃ち込まれる。
こんな時は滾ってくる。
そして、自らの中に、あの人の幻影が憑依していくかのように思えてくる。
全てを飲み込んでしまえばいい。
そうすれば、見えてくる地点があるのだろうから、と。
パルスという男が納めていた。
彼は、この国で首相をしていた。
他国の侵略戦争などによって、肥え太った国だった。
「踊れ、踊れ、踊れ、踊れ、みな、死のエクスタシーを味わうがいい。私は暴力そのものに、破壊そのものへと変わっていくんだっ!」
かつての約束がある。
約束は果たされなければならない。
きっと、それは永久に契られた楔のようなものなのだから。
婚礼のようなものは、かつて行った。
だから、会えない今も、彼と共に生きているような気がする。
グリーン・ドレスは、焔に包まれながら、それらの全てを吸収してしまっていた。
さながらそれは、神話のドラゴンを彷彿させた。
†
インソムニアは煌々と燃える、グリズリーの街を眺めていた。
彼女は、寝転がってキャラメル・ポップコーンを齧りながら、その光景に見入っていた。
いわく、破壊はとてつもない程に美しい。
人の悲鳴や恐怖、恐慌はどうしようもなく、美しいなあと思った。
空が、紅に焼け爛れていた。
肉の焼ける臭いが、此方にも満たされていく。
森に火の粉が飛んでいた。
彼女は、ぐびぐびと、ダイエット・コーラを飲む。
インソムニアが感じる、美の具現化。
それを、あの緑の悪魔という化け物は実現してくれている。
おそらく、敵は後、一週間だって待ってくれるだろう。
それならば、それで彼女は一向に構わなかった。
しばらくして、彼女は立ち上がる。
全身が、機械に覆われた兵隊達が、此方側にやってきたからだ。
どうやら、この機械兵達は、元々は人間の死体に機械を纏わせたもののようだった。インソムニアは立ち上がって、自身の肩に張り付いているタトゥーに、引き剥がれていくように命じる。それは鎧を身に着けた死神だった。彼女は、身体に二つのタトゥーを住ませている。鎧騎士と三つ首のドラゴンの二体だ。それぞれ、皮膚の色々な場所へと移動していくのだが、主に腕や首筋に収まっている。
彼女は鎧騎士の方を召喚した。
「いくぜ、『ダンス・マカーブル』。奴らに、死の舞踏を踊って貰うとするぜっ!」
インソムニアは、心の底から、嬉々とした感情が湧き上がってきているみたいだった。
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