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第四章 鏡が映し出す空虚な世界 4

 アイーシャが、ルブルの城から出るのは何ヶ月ぶりくらいの事なのだろう。


 外出は許されなかった。

 けれども、今は侵略という名目の下、外で戦う事が出来る。

 以前のような正義だとかの大義名分などはない。

 かつては、騎士という地位に所属していた。

 戦場で敵を殺す事に、楽しみを見出していた事もある。けれども、大義だとか信念だとか、そういった言葉が、全ての暴力を正当化してしまっていた。

 もしかすると、メアリーは、自分自身の暗い陰なのかもしれない。

 それを思うと、ぞっとせずにはいられない。

 アイーシャは頭を横に振る。


 今は未来なんて、無い。

 メアリーに敗北してしまった時点で、それは決定してしまったのだから。

 だから、今を戦おうと思う。


 彼女は剣を振り回す。

 金属の手足を手にしたのは、いつの日だったか。思い出せない。

 この力は、自身の“能力”なのだと、後から気付いた。

 でなければ、ずっとメアリーに弄ばれているだけの欠陥品だ。

 それだけは拒まなければならないのだと、彼女の心は叫んでいた。

 だから、力を手にしたのだろう。

 城から、数キロ先に、炎が渦巻いている。

 戦乱の地を思い出す。何だか、胸が躍りそうになる。


 彼女は、あの炎が燃え広がる戦いに、自分も参加してみようと思ったのだった。

 いつか、自分自身を取り戻す事が出来るのだろうか。分からない。やってみるだけの意味はある。反逆と反抗、メアリーに対してなのだろうか?

 あるいは、この世界の中で生きている弱い自分自身に対してなのかもしれない。

 醜悪で卑小なのは、セルジュだけじゃない。自分もそうなんじゃないのだろうかと。


 だからこそ、アイーシャは戦いへと出向く。

 それが、ダートの目的の一環だとしても、徹底して間違った道を歩む事になったとしてもだ。



 ケルベロスは、グリーン・ドレスという女の事を思い出す。


 確かに、何処かで見た事がある。

 確かにだ。

 何処だったのだろうか。

 直接、会った事は無かったのかもしれない。けれども、確かに知っている筈なのだ。

 少しずつ、少しずつ、記憶を蘇らしていこう。


 今、世界中では、イゾルダとグリーン・ドレスの二人が積極的に暴れ回っている。

 国々は、破壊され続けている。

 何とかして、止めなければならないとは思う。

 しかし、まだ、どうする事も出来ないとは思っている。

 ケルベロスは、犯罪者のファイルが収まっている部屋へと向かった。

 そこで、ドーンのランキングに入っている者達の顔を見ていく。


 グリーン・ドレスの顔を見つける。

 ランキングはAクラスだ。

 つまり、かなり強力な能力者であり、放置され続けていたと言える。

 何かがずっと、引っ掛かっている。

 そうだ。

 あのグリーン・ドレスという女の表情には見覚えがあるような気がした。

 独特の飄々とした口元の笑み。

 何かを思い出せそうだった。

 そして、それは思い出せず


「ウォーター・ハウス……?」

 それは、一度、アサイラムを破壊した者の名前だ。

 彼の生死は正確には不明だが、一応、死んだとはされている。

 かつては、上級ランクの犯罪者で、拘束された後、アサイラム専属のハンターになった。彼とはよく一緒に仕事をした。


 ケルベロスは、施設の図書室へと向かった。

 確かに、あの場所に挟まっていた筈だ。

 それは、世界地図だった。

 隣に、ヘーゲルという哲学者の『精神現象学』と、大航海時代の帆船の写真集などが置かれている。彼は、世界を掌握したかったんじゃないのだろうかと思う。

 確かに、あの女は、暴君ウォーター・ハウスと関係があるのだろう。


 ウォーターがよく開いていた本の中に、彼とあの女が一緒に写っている写真が挟まっていた。二人は何だか、とても幸福そうだった。

 ケルベロスは少しだけ、項垂れる。

 因縁というものはあるのかもしれない。

 ウォーター・ハウス。

 彼は、副所長であるチェラブを殺害して、自身の能力である殺人ウイルスを、アサイラムの撒き散らして、アサイラムの外へと出て行った。

 彼は、自由が欲しかったのだろう。もっと、本質的で、根源的な自由がだ。


 もしかすると、これは因縁染みた対決になるのかもしれない。

 ダートに集うメンバーは、何なのだろうか。

 ダートを率いているのは、ルブルという女だ。彼女の何に、みな魅力を感じているのだろうか。


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