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魑魅魍魎が蔓延るこの街で  作者: 縁側 熊男
第一章 ようこそ、この街へ
3/3

1-2 出会いその2

 今日から僕の一人暮らしが始まった。

 新しい絨毯の上に座り、新しい家具が置かれた部屋を見渡す。

 マンションの一部屋。広くも狭くもない、心地いい広さ。

 何より、姉にちょっかいを出されずに漫画が読めるってのは最高である……!

 本棚も前より少し大きいものを買って、今読むものを手前にしばらく読まないと思うものは後ろに本を置く。

 シリーズはまとめて、巻数順にそろえるというのはルールで、それは崩さないのだが。

 とにかく、ここで快適に漫画を読んで、まったりと高校生活を楽しむ予定だった。


 ただ、三日前に同居人が決まった。

 肩に乗っているこの白い毛玉の様なのがそれだ。

 何やら僕以外の人間には見えないので、僕はこいつが漫画に出てくる妖怪なのかなとか思っていたりする。

 こいつの正体が何なのかは気になるのだが、少し愛着が湧いたせいかそこまで気にしなくなっていた。

 一人は正直寂しいかもと思っていたが、こいつが肩に乗っているおかげか、それは感じない。

 できれば、ちょっとおりてくれるときがあったりすると肩が楽なんだが。

 こいつと出会ってから、少し倦怠感≪けんたいかん≫を覚えるようになった。

 そりゃ、ずっと肩に乗っかられていればなぁ……。


「さてっ!」

 そう言って僕は立ち上がった。

 母と姉の手伝いで家具は設置されたが、まだ一人暮らしをするには足りないことがある。

 家事をどうやりくりしていくかとか、お隣さんへの挨拶とか、色々である。

 だが、家事を一日でこなす計画表はすでに立てたし、一つある隣室は空き部屋である。

 ならば、僕がすべきことはただ一つ。


 本屋の確保である。


 一人暮らしを始めてから1時間も経たないうちに、僕は家を出た。

 戸締りもこれからは考えなければと思いながら、玄関のカギを締める。

 ネットで事前にここ周辺の地理は調べてある。無論、本屋の位置もである。

 そして、地図もプリントアウト済み。本屋には赤丸と付けてある。

 地図と風景を見ながら、道を覚えていく。

 実家から十数km離れたこの街は、僕がいままで来たことのない街だった。

 住む場所が変わってすごく新鮮で、気分がよかった。

 さらに、待ちに待った新刊を買いに行くのだから、最高以外の何物でもない。

 家に帰れば、それを誰にも邪魔されずに読める……。

 ふと思い出したかのように肩を見る。

 毛玉も、何か楽しそうに周りを見ていた。

 自分に向けられた視線に気づき、僕と目が合う。

 そう、唯一の不安要素。

「お前は邪魔するなよ……!」

 聞こえるように呟いた。

 肩のあたりが、少し震えているような気がした。


 駅前。

 特に都会の駅前。

 そこは、人と商売であふれている。

 家から最寄りの本屋は、そんなところにあるのだ。

 実家の辺りは都市の外れもいいところで、田舎かと思うぐらい静かだった。

 少し中心に近づくだけで、これだけの人が集まるのか……。

 僕は人混みが好きではない。あの流れをかきわけて歩く感覚がなんとなく嫌なのだ。

 これから毎回ここを渡ることになると、少し嫌な気分になる。

 さらに、横断歩道はその極地である。前からくる人をかき分けなければならない。

 だがそれを乗り越え数m直進すれば、そこに本屋≪ゴール≫はあるのだ。

 信号が青に変わった。


 かき分けるようにして進んでいく。

 多くの人が、僕の周りを囲うように前に進む。

 多くの人が、僕の後ろへ通り過ぎていく。

 足音や声、様々な音がそこには飛び交っていた。



「へぇ、白バクかぁ 珍しいな」


 僕は、なぜかその言葉が強く聞こえた。


 音がした方へ、後ろへ振り返った。

 人が流れていく中、 立ち止まってこちらを見ている姿があった。

 黒いマントという現代には不似合いの格好をした、長身の男。

 僕は立ち止まった。

 その男と目が合った。

「…… えっ、君、私のことが見えるんですか?」


 横断歩道に立ち尽くしていた。

 その時、なぜその声を強く感じたのかも、なぜ振り向いたのかもわからない。

 何も考えることなく、僕はその男を見ていた。



 これが、僕の二つ目の出会い。

 

 


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