1-1 出会いその1
連載作品としては2つ目ですね。
不定期で投稿していきますが、付き合ってくださるとうれしいです!
僕は青縞執太郎。
この街で、僕の人生を変える出会いが二度あった。
一つは、高校生活が始まると心を躍らせていた時に出会った、白いモフモフ。
そしてもう一つは、高校生活が始まる直前に出会った、ドス黒い大男だった。
話は高校入学の十日前に戻る。
三日後から、僕も晴れて一人暮らしというところだった。
僕は、鬼のような勢いで、身辺整理をしていた。
「まともに身の回り片づけられないような奴が、一人暮らしとかできんのかねぇ」
「その歳で一人暮らししてない姉ちゃんには言われたくない あと急に部屋入ってくんな」
正直もう少し早く片付ける予定だったが、量が多いのもあってなかなか終わらなかった。
ちなみに、僕には成人済みの姉がいる。一言で言うとウザい。
今回、僕が一人暮らしをすることにした理由の一つでもある。
「一人暮らしは大変だぞぉ? 全部自分でしなきゃなんないしなぁ」
「重々承知だけど 誰かさんの代わりに家事全般こなしてるからな」
「へぇ、誰だろうねぇ……」
皮肉を込めながら、僕は『要るもの』と『要らないもの』を分別していく。
「というかさ、それ全部持ってくの?」
『要るもの』に大量に入っていくものを見て姉が言う。
「当たり前だ 全部僕の思い出さ また読むし」
「何巻か置いてってくれない? お姉ちゃん、まだ読んでないのいくつかあるんだけど……」
「姉ちゃんは漫画読んでないで、家と仕事探せ!」
あと僕は、重度の漫画愛好家である。
この家には僕以外に、姉と母がいる。父は五年ほど前に病気で他界している。
子供二人を五年間、一人で育ててきてくれた母には感謝の気持ちしかない。
その母の負担を少しでも減らそうと思ったのも、引っ越しの理由の一つだ。
ちなみに、姉が家事を手伝っているところを見たことがないので、僕がいなくなった後はどうなるのかわからない。引っ越しの唯一の不安要素である。
そんな感じで姉の相手をしながら部屋にこもっていた、その日の夕方。
仕事から戻った母から、ちょっとした買い物を頼まれた。
ちょうどキリがいいところだったので、そのまま引き受けた。
その帰り路、離れてしまう故郷の風景に少し感動した時だった。
白い物体が、目の前に落ちていた。
レジ袋かと思ったが、よく見ると毛玉っぽい見た目だった。
ぬいぐるみだろうと思った。
ちょっとしゃがんでつついてみたりした。
やっぱり人形っぽかった。
ちょうど交番も近いし、届けようとそれをつかんで持ち上げた時だ。
その毛玉が動いて、腕を駆け上がってきたのだ。
「えっ、えぇ! ちょっ、待てって!」
慌てて振り払おうとしたが、速くて手が当たらない。
そのまま僕の肩まで登ってきた。
横を向くと、その毛玉には……。
大きな目玉が二つ付いていた。
これが、僕の一つ目の出会い。
見たことない生き物に驚いて、しばらく固まった。
はっとして、僕はその毛玉の顔を|鷲掴≪わしづか≫みにして、引きはがそうとした。
「離れろ、このっ……」
思いっきり引っ張っても、はがれる気配がない。
その後、帰りながらいろいろやったが、どうやっても離れることはなかった。
そのまま、家に着いてしまった。
帰って初めに会ったのが、姉だった。
「おかえり どうした、そんな顔して」
「どうしたも何も、変なもん拾っちゃて離れないんだ……」
「ん、何が?」
「これだよこれ! この肩に乗ってるやつ!」
「……? だから何が?」
「えっ……」
見えてない……のか……?。
毛玉は僕の肩で、欠伸をしている。口あったんだ……。
「お母さん、なんかシュウが変なの見えてるぅ」
「ちょっとやめて!」
シュウとは僕のことである。シュウタロウの略だ。
そこから頼まれたものを母に渡し、部屋に戻った。
片付けるためではなく、休むためだった。
ビックリしすぎて、精神が持たない。
母にも気づかれなかった。
どうやら、この毛玉は僕にだけ見えるらしい。
これをどうするべきか、見当もつかなかった。
しかし、一度は引きはがそうとしたが、よく見るとかわい――――――
カプッ
「いてっ!」
急に耳をかまれた。
「痛い痛い痛い!」
なんか、唇っぽいものでグリグリしてくる。
「痛いって、このっ……!」
毛玉を手で押さえて、顔を遠ざける。
耳が毛玉の口から離れた。
「このやろう……」
顔を肩から離したまま、毛玉を見る。
顔が毛でおおわれていて目玉しか見えないが、表情らしきものはあるらしい。
なんか、ムスっとしてた。
「何が不満足だ、コノヤロー!」
そこから、毛玉との格闘が始まった。
十分間、我を忘れて毛玉と戦っていた。
肩から引き返そうとしたり、殴ろうとしたりしたが、頑なに動こうとしなかったり、急に素早く動いて拳を避けたり。
僕は疲労困憊で倒れたが、毛玉は何食わぬ顔でこっちを見てくる。
そんな顔を見ると怒りがこみあげてくるが、もう動く体力がない。
毛玉は、肩から倒れている僕の腹に登ってきた。
こっちをじっと見て、目を細めた。
笑っている様に感じた。
遊んでいるつもりだったのか?
あの時噛んだのも、構ってほしかったのかな……。
さっきまでこみあげていた怒りはいつの間にか消えて、残った疲労のせいで眠ってしまった。
しばらくして母に呼ばれ、毛玉と一緒にリビングに降りて、夕食を取った。
毛玉は何も食わずに、僕と、僕の食べるものを見ていた。
こいつは何を食べるんだろうか……。
あと、先ほどのジタバタがしたまで響いていたようなのだが、何とかごまかした。
それから二日間、毛玉を肩に乗せながら生活をした。
そのままの状態で、片付けや家事の手伝いなどをこなした。
重さはあったが、そこまで苦ではなかった。
片付けの方は、漫画が片付いたところでほぼ終了となった。
残りの時間は、毛玉の観察に費やした。
肩に乗せて散歩に出かけたりしたが、本当に僕以外の人に見えていないようだった。
通り過ぎる人は素通り。何人か知り合いにも見てもらったが、一切反応はなかった。
時々話しかけたりするのだが、姉に見られるとかなり厄介だろうから、気を付けている。
話はしないが言葉は分かるようで、笑ったり、怒ったりした。
目だけで気持ちが分かるほど、豊かな表情だった。
口は普段見えないが、欠伸をするときだけ見える。
大きな口だったが、本当に何も食べようとしない。
おやつとか、夕飯の一部などをくすねてあげてみたが、見向きもしなかった。
寝るときは僕の腹の上に移動する。
この時なら気づかないかと思ったが、寝ている状態でも力が強く、引きはがせなかった。
そんな二日間を過ごしてから、僕は一人暮らしを始めた。