学園編入
玲央くんがなぜジークに敵意を持っているのは分からなかったが、それ以来、玲央くんとは会わない日々が続いた。
町に行くと、噂では美少女たちを引き連れて、魔物を倒していっているらしい。
すごいなあ。
ちゃんと勇者としての任務をこなしていっている。
それに比べて私はジークにビシバシ鍛えられながら、徐々に魔法の使い方を覚えていた。
玲央くんとは違って、ハイスペックではないし、根っからの文系の私はまず筋肉を鍛えることから始まった。
腹筋、腕立て伏せ、スクワットを限界まで毎日やる。
ジークは想像以上に鬼教官でした…。
なんてったって筋トレの後、魔力を安定させるため、魔力の球を作る練習までさせるんだから。
おかげで、私の魔力量もメキメキ上がるわ、太もも太くなるわ。
くそう。
なんで私には細マッチョになれないんだ。
筋トレ相応に太くなっていくんだ、泣ける…。
ジークは闇帝としての任務をこなしながら、指導してくれるので、とっても有り難いけど、
『毎日動けなくなってしまうまでやるのは、地球人にはきついです。』
などとは、言えません。
地球に帰る手段は今のところなく、こちらの世界で私は生きていくしかない。
ニーナさんの笑顔を見ることだけが、今の楽しみになっている。
毎日のギルド通いで、常連さんとも仲良くなった。
ジークが任務の時も、強面のおじさまが私の面倒をみてくれる。
正直、強面のおじさまたちの方が、ジークの何倍も優しいと、思う。
そうして18歳の夏休みは、案外あっけなく過ぎていったのだった_________。
「ジ、ジーク…緊張するね。」
なんと私はジークと同じ学園に途中編入することになった。
王道だ……。
私も着実に王道主人公の道を歩んでいる。
しかし、普通と違うのは、3年の秋学期から編入するということだ。
つまり。
みんなもう卒業に向かっていっている。
…私もう何も習えなくない?
しかし、学園に行くことを推し進めたのは、ジークの義母リカさんだった。
このままだと、学歴なしの無職になるのを心配して(本当はジークの傍にいてほしいからだとか)。
リカさんは元ギルドマスターなので、学園長とも知り合いらしく、特例で1年の授業に参加することを私は許された。
勇者の姉っていうこともあり。
そして、さらに玲央くんもこの学園に編入するらしい。
あれ?魔王退治は?と思ったけど、魔法を学びたいと王様に進言したそうな。
さすが玲央くん。
昔から真面目だったもんなあ。
ふと玲央くんと最初に会った時を思い出した。
すごいにらまれていたけど、可愛かったっけ。
私が、ふふ、と思い出し笑いをしていると、隣を歩くジークが不思議そうに首を傾げた。
おっと。いけないいけない。
ジークは魔法は落ちこぼれ設定なので、魔法の授業はまだ1年のクラスらしく、一緒なので、人見知りな私は嬉しかった。
今は、学園長室に向かっている。
この学園の制服は、とても可愛らしい。
首元にリボンタイを結ぶ紺のワンピース型セーラー。
まるで、女子高の制服みたいだ。
反対に男性は紺の学ラン。
異世界なのに、そこは妙に日本らしい。
「あまり緊張しなくていい。学園長は個性的だからな。」
ジークは私が話しかけても終始無言だったが、やっと口を開いてくれた。
学園長に会うとリカさんから聞いた時、ジークすごく嫌そうだったからなあ…。
ジークにとって嫌いな部類の人間、例えばうるさい、とかそういう人なのかもと私は考えていた。
広い広い校内の端の高い塔の上に学園長室はあった。
荘厳な造りの校舎に最初は圧倒されたけど、その中でも特に立派に学園長室は作られていた。
大きな扉を私はノックする。
コンコンコンコン。
手が震えている。
「どうぞ。」
という声が聞こえて、私は静かに扉を開けた。
そこには、椅子に座った男性と、秘書のような女性が立っていた。
「いらっしゃい、ようこそ国立魔術学園へ。」
ナイスミドルというべき男性が私を見て、声をかけてくれた。
「あのっ、柊かの子です!よろしくお願いします!」
私は風格ある学園長にどきどきしながら挨拶した。
ジークはなぜかそっぽを向いている。
学園長は深く考え込んだ様子の後、私に尋ねた。
「かの子くん、突然だが今日の君の下着の色は何色だい?」
私は固まった。
「は?」
その瞬間、女性の秘書さんとジークがげしげしと学園長を足蹴にした。
「またそんな発言を生徒に言うとは…!!!」
「相変わらずだな、学園長!」
学園長は椅子から転げ落ちて頭を守りながら、ごめんなさいを繰り返している。
私はようやく言葉の意味が飲み込めた。
ああ、なるほど。
セクハラじじいだからジーク嫌いだったんだ。
しばらくの間正義の鉄槌を下した後、秘書さんがこちらを向く。
「柊かの子さん、あなた、まだ使い魔と魔武器を召喚していませんね?これからそれらを召喚してもらいます。」
「は、はい。」
秘書さんもニーナさんに負けず劣らず、仕事ができそうな雰囲気だ。
ちょうどその時、玲央くんも入ってきた。
「姉さん!久しぶり!」
玲央くんは精悍な顔つきになった。
姉、嬉しいよ…。
だけど、ジークの姿を見つけると途端に険悪なムードになる。
「お前…まだ姉さんの周りをうろついていたのか?!」
「ガキにお前と呼ばれる筋合いはない。」
バチバチッと音がしそうなくらい、彼らはいがみあっている。
しかも、話題は私かい!
巻き込まれるのはもう勘弁と、とりあえず両方をビンタする。
最近よくビンタするな…。
「玲央くん、ジーク!ケンカは後々!!使い魔と魔武器、召喚しに行くよ!」
二人はまだにらみ合っていたが、おとなしく秘書さんと私の後についてきた。
ちなみに学園長はしばられて部屋に置いてけぼりにされていたそうな…。