異世界への召喚道連れ
私、柊かの子は彼氏いない歴=年齢の地味女子である。
彼氏ってどうやって作るんだ?
そもそも男とどう話せばいいんだ?
完全に出だしが遅れてしまった。
今は高3の8月。
誕生日が早かった私は、もう18歳になってしまった。
18歳の誕生日に、ファンタジックなこと、小さな子を救って死に、異世界に転生する!とかが起こると期待していたが、なんにも起こらなかった。普通にケーキ食べてプレゼントもらって終わったよ?
おかしいな、私がたくさん読んだファンタジー小説には起こるのに。
そろそろ空想ともお別れしなくちゃいけないかも。
そんな私には、いわゆるチートな義弟がいる。
名前は柊玲央。名前からすでにチート感がするよね。
今は高1で、両親同士の再婚で、私が8歳、彼が6歳の時に姉弟になった。
性格は優しく、とても素直で超イケメン。
頭もとても優秀で、スポーツも勿論万能。
私にとってはもったいない、ありえない唯一の弟。
しかし、義弟との恋愛は全くなく仲の良い姉弟です。
そんな夏休みのある日、玲央くんとアイスを買いにコンビニへ向かっている最中、
起こったのです。
夢にまで見た光輝く魔法陣が!!!
だけど、私じゃない。
呼ばれたのは、玲央くんだった。
やっぱりね。
私には平凡に地味女子で生きていくしかないんだ。
玲央くんは、自分の足元に現れた魔法陣に戸惑っている。
「姉さん、これ何!?」
我が弟は魔法陣を知らないらしい。
一時期オタクも兼業していた私は努めて冷静に答える。
「魔法陣、玲央くんは異世界に勇者として召喚されるんだよ。」
お父さんとお義母さんは私が最後まで面倒見るから安心して行ってきて、と私は微笑みながら手を振った、
はずだったんだけど…。
玲央くんが吸い込まれる直前、私の腕をがっちり掴んだ。
そして一緒に吸い込まれてしまったのだった。
まぶしい光に包まれ、体がぐにゃりと曲がるというか、気分が悪くなる感覚にしばらく襲われた。
でも、がっちり掴まれている手の感触だけは薄れなくて、玲央くんの執念に少しビビった。
やっと光が収まり、ゆっくり目を開けてみると、想像通りの光景。
目の前には魔法陣、貴族っぽい人々、王族っぽい人、半端なく可愛い玲央くんと同い年くらいの少女。
多分王女様だな、と案外冷静に考察した。
王女様は、現れた玲央くんのあまりのイケメンさに瞬きもせず、うるんだ瞳で見つめている。
あ、惚れちゃったかな?
王様らしき、王冠を被った威厳のある男性が、私たち二人に声をかけてきた。
「あなたが勇者様ですか?そして隣のあなたは…?」
玲央くんはぽかんとしながらも、姉ですとだけ答えてくれた。
「勇者様とそのお姉様だ!無事に召喚が成功したぞ!!」
私は、掴まれていた手をそっと離し、素早くその場を離れようとした。
このままだと、私まで祭り上げられる!
小説通りだと、勇者は女神のいる泉で覚醒し、能力を得るはずだから、平凡地味女子の私はむしろ邪魔!
ていうか王女様とのラブロマンスの邪魔!
玲央くんが大勢の人に囲まれている間に、邪魔しないように逃げなきゃ。
私はゆっくり、しかし早足で後ずさりしていく。
すると、後ろにいた人にぶつかってしまった。
日本人の習性で、反射的に振り返ってすいません、と謝る。
後ろにいた人の顔を見ると、フードを被った男性だった。
ま ず い。
この人絶対、国一番の強い系の人だよ…。
勇者を静観して見てたんだよ…。
私はもう一度謝って急いで去ろうとする。
「おい。」
低い声が私を呼び止める。
「はい……?」
私は震えながら、振り返って彼のフードに隠された顔付近を見た。
待って、私男性とまともに話せないんですけど!?
どうしよう…何話されるんだろう。
一瞬で頭がパニックに陥る。
「お前、勇者の姉だろ?なんで立ち去ろうとするんだ。」
一番聞かれたくないこと聞かれちゃった~!!
私は、何も言わないのもいけないと焦ってこう答えた。
「私ここにいちゃいけない人間なんです!」
言った途端、私は思い出した。
国一番の強い系の人は、小説では、魔力がないと思われて捨てられた幼少期の人の場合が多いって。
ま ず い。
琴線に触れることを言ってしまった。
どう反応がくるか、固唾を飲んで私はその人の口元付近を見る。
彼は、少し笑っている。
そうして、居場所がないならうちに来るか、と提案してくれた。
よく考えてみると、ここから逃げ出しても、衣食住が全くない私。
それどころか、戦闘能力0な私が今外に出たら、真っ先に殺されて終わりだろう。
それなら、この強い人の傍にいた方が安全では、とやっと思考が追いついた。
ぐるぐる考えている私を見て、彼は口元が笑っている。
こうして、国で一番強い人(?)の家に住まわせてもらうことになった。
対する玲央くんは、やっぱり勇者として祭り上げられていた。
王女様は、優しくイケメンな玲央くんにもうメロメロ。
……学園に入ったらハーレムは近いな、と私は強い人(?)の隣で微笑んでいたのだった。