先輩と俺の仕事風景
「はいじゃあ夕礼始めまーす。おはようございます、今日も一日頑張りましょう!」
俺こと大野要のバイトは高山店長の夕礼から始まる。もちろん、同じシフトである小松崎千江美先輩も一緒だ。ちなみに夕礼とは何かというと、まあ連絡事項だ。ブラックだとこういうのが無いらしい。
「えー本日は特売品がいくつか売り切れております。発注はかけましたが、早くても届くのは明日以降とのこと。お客様に尋ねられたらそうお答えしてください。『早くても』 明日以降ですよ? 天候や交通状況によっては遅れる可能性がありますので……」
夕方以降のバイトはつらい。こういうのの叱られ役をやらなくちゃいけないからな……。まあ仕事だから仕方ないが。内心ぼやきつつ、情報をメモ帳に書き留める。隣を見ると主にレジ専門の千江美先輩もメモしていた。バイト初期の頃は忘れて担当を呼んで「無いって言ったでしょ!」 と叱られたことがあるらしい。そりゃ必死になるよな。
「えーそれから売り上げですが、雑貨や日配が売れるよりは、うちはドラッグストアなので薬を売りこみましょう。そうでないと元が取れませんからね。新商品の花粉薬の宣伝をレジでですね……」
カードお持ちですか? と同じくらいうざがれる宣伝がきた。……まあうん、仕事だから仕方ないな。俺は普段品出しだけど、レジに入る時は営業スマイルで言わないとだな。「これおススメですよ☆」 うわあ似合わねえ。千江美先輩を見ると同じくげんなりしていた。お世辞にもコミュ力があるとは言えないもんな。しかしそれでも言わなくてはいけないのが仕事だ。
「ええと以上で終わりかな……ああ! そうそう大事な連絡があります」
そう言って高山店長は表情を暗くさせながら言った。遠方から来たこの店長は、ここに来てから出ていた出ていた腹が引っ込んで顔周りがすごく痩せた気がする。まあイケメンにはなったけど。立地がいいからかこの店は客が多くて忙しいのだ。それをまとめる立場の苦労……うわ考えたくもねえ。現場で手一杯だ。
「えー隣の市のA店で未成年に酒を売ったということで、従業員が一人事情聴取され、会社としても書類送検となりました。幸い年齢確認で20歳以上のパネルにタッチしていた映像がありますので、逮捕とまではいかないと思いますが……」
俺達の顔が凍った。店長、何気に重大な事案じゃないですかそれ。
「とりあえず、年齢確認、する、ゼッタイ。ですよ。今回もこちらにタッチしていた映像で何とかなりましたから。見た目で判断してはいけません。明らかに20歳以上でも買った人全員平等にしましょう。そうでないと必ずあの人が良くて自分が駄目だととか揉めますからね。困ったら誰か呼んでくださいね。では以上です! 解散!」
「ああいうの聞いちゃうと、ちょっと怖くなるよね……」
夕礼後、千江美先輩がメモ帳を仕舞いながら不安げな顔でもらした。うーん、そうそう起こらないとは思いたいが。そうか、系列の店で起こったか。バイトには何とも言えん。ただ言えるのは。
「先輩、普段一人でレジですしね。おかしな客が来たら俺をすぐ呼んでくださいよ? 俺が何とかします」
「ありがとう要くん」
まあ、女相手だと態度でかくても、いかつい男が来たら途端に大人しくなる客も多いからな。こう見えて体力と喧嘩には自信あるんだ。いざという時は守ってやる。彼女? だし。
彼女……なんだよな? 同じ仕事で帰りは時々送っていって、休日には二人でアニメショップ巡りして……。恋人、であってるよな? キスしたことも手を繋いだこともないけど。それでも友人というには親しすぎるよな? 疑問を解消しようと、一度俺達の関係を聞いたら千江美先輩はこう言った。
『ソウルメイトだよ』
分からん。どういう認識なのか全く分からん。いやでもしかし、ただの知人ではないわけだ。俺の涙ぐましい努力によりアニメを語れる唯一のリア友となった今、どうせ恋人になるのもすぐだ。
「要くんは今から品出し? 頑張って。じゃあ私、レジ入りまーす」
バックヤードで見せに並べる品を下ろす作業に入る前、彼女は笑顔でそう言って売り場に向かった。こっちも笑顔で手を振って、いつもの仕事が始まる……。
「こ、これ、お願いします」
それは混雑する午後6時頃に起こった。大変失礼だが、いかにも秋葉系、といった風貌の男が、コヒューコヒューという呼吸とともに、菓子数袋入った籠を持って千江美先輩のレジに置いた。……やべえ、あいつに脂肪燃焼系の薬売ってやりてえ……。おススメはB社の錠剤な。
混雑するとレジは全部塞がる。千江美さんの応援で駆けつけたが、二番目に並んでいたその男はこのレジで打ってもらう、と言わんばかりで移動しなかった。単に太ましい人だから動きたくないだけか? と思ったが、どうも違うらしかった。
「いらっしゃいませー♪ お客様、今からお出かけですか? 花粉対策にこちらのお薬とマスク、いかかですかー☆」
声かけの時どうしてるかと聞いたら千江美先輩は一言「やけくそ」 と言った。なるほど無駄にハイテンション。まあ暗い声かけで買うなんて客もそういないだろうからな。引いてないで俺も見習わねば。
「こ、これですか」
秋葉男は薦められた商品を手にとり、千江美先輩の表情を窺いながら迷っているように見えた。その様子にいける! と思ったのか千江美先輩はますますハイテンションになった。
「はい♪ いかがですかー? 今ならポイントが何と五倍です!」
「か、買います。お願いします」
「!? あ、ありがとーございまーす!」
別のレジで打ってる俺も驚いた。こうまで上手くいくのなんて、十人に声かけて一人いるかいないかだ。うーん参考までに成功例を見ておきたいものだが。読み上げしながら千江美先輩のレジを窺う。
と、その時秋葉男が袋に包まれた商品を渡された際に、べたぁっと千江美先輩の手をなぞるのが見えた。うわっ……。
「あ、あの、僕、原です。原、利一です」
「……はい? ……!」
「ま、また来ます」
「……はい、ありがとーございまーす。またお越し下さいませー♪」
常に人手不足の夜シフト同士が休憩で一緒になることはまず無いので、必然的にバイト終了後にその時の話をすることになる。
「あの先輩、6時ごろの客、大丈夫でした?」
休憩室兼更衣室で荷物の整理をしながら聞いてみる。制服を綺麗に畳んで指定バッグに詰める手際のいい姿にちょっと見惚れながら。
「あーうん、ちょっと触っちゃっただけかもしれないし」
「いやいや、絶対狙ってましたって。どう間違えばあんな触り方出来るんですか」
「うーん、でも、もしかしたら、あの人……トシカズ……」
「先輩?」
「あのね、オンゲでトシカズってプレイヤーさんがいてね、私その人にお世話になってるんだ。あと彼もなっちんが嫁なんだよ。つまりソウルメイト」
先輩のソウルメイトが安物だと判明。何人いるんだソウルメイトは! いやそれよりも、オンラインゲームの相手って。
「……でもネットの向こうの相手でしょう? リアルでどうやって」
「あー昨日チャットでトシカズが『こういう街に住んでて、近くにはこういうドラッグストアがある』 って言ってたから、つい『そこ私のバイト先かもー。三文字名字の人いる? 植物が入ってるの』 って……それで分かったのかな」
「バカですか!」
「だって近くの人だと普通思わないじゃん!」
リアルの逮捕にはびびるのにネットだとこの危機意識のなさ。駄目だこの人。呆れながらも放っておけず、その日は家まで送った。彼女が家に入るのを見届けてから、俺は最初から気づいていた気配に声をかける。
「何か用か?」
電柱の影から隠れてない身体を出したのは、原利一。眼鏡の下から涙を流しながら唇を噛みしめていた。眼鏡ふきとリップクリーム……いかん職業病が。
「な、何なんだお前。チーちゃんさんの何なんだ」
それは千江美のツイッターの名前だった。チーちゃんまでが名前らしい。オンゲだけの友達じゃなかったのか? こいつ、やばそうだな。そう思った時、俺は友人に千江美のアカウントと呟きを見せた時の反応を思い出す。
『要、こいつおかしくね?』
『何がだ?』
『「最近よく言ってるリア友ですか? チーちゃんさんのリア友ならそっちも面白そう、ツイアカ教えてください」 って。よく分からんが、これ普通なのか? 上手く言えないが、面白い人の友人だからってツイアカ強請るのって変じゃないか? ちょっと図々しいというか。知人にいきなり貴方の友人の近況教えてくれって言ってるのと同じじゃないか? 礼儀を知らないな』
『あー、千江美自身がネット上では変なキャラで通ってるらしいし、普通なんじゃないか?』
『そ、そうか? でもこいつ他のツイートで僕とか言ってるし、男じゃないのか? 男が女の身辺知りたいって怖くないか?』
『? 千江美のフォロワーには自己紹介で「生物学上女。心は男」 とか言ってるの多いぞ。そんなノリの一種だろ?』
『……そうか。いや俺の勘違いならいいんだ。しかしお前も染まりきったな……』
あのフォロワーの名前は……tosikazu……。!
「ぼ、僕のがチーちゃんさんと付き合い長いんだぞ。お前何なんだ。後から来ておいて」
ストーカーかよ。されてる本人は否定するかもしれんが、間違いなく俺の勘のが当たってるだろう。こいつはやばい。刺激しないようにするべきか? いや、いっそはっきり言ってやって諦めさせるのも手だ。逆上されても、喧嘩なら体重だけのやつに負ける気がしない。
「何って言われてもな。同じ職場で、こうやって送り迎えする仲で、休日には二人でよくどっか行く関係……こんなもんか?」
ただし恋人とは言っていない。しかしやつには充分だったようで、どっと涙を溢れさせると「み、認めてやらないんだからな!」 と言って去っていった。
拍子抜けしてその日は放置した……のがまずかった。
「あの、要くん。昨日チャットで、トシカズから要くんに酷いこと言われたって聞いたんだけど……」
翌日のバイト、休憩室で会うなりそう言われた。一瞬は?と思い、しばらく考えてようやく昨日のことに思い至る。ってまさかあいつ、振られた腹いせに嘘八百吹き込んだってか!? 女の腐ったようなやつだなおい! と腹も立つが、わざわざ煽るようなことした俺も、果たしてそれは嘘だと胸を張って言えるだろうか。黙り込んだ俺に、千江美先輩はトシカズの話を本当だと思ったのか、顔を強張らせて言い放つ。
「ソウルメイト、解除だから! なっちんの敵は私の敵! もう話しかけてこないで!」
小学校のころ、よくクラスの女子が「○○ちゃんとは絶交だからね!」 とか言っていたのを不意に思い出した。笑った後、悲しみで溜息がもれた。これでも、結構本気なんだけどなあ……。
ボケーッとしながら制服を着て彼女のあとを追う。夕礼の際に目を合わせず微妙な距離を取る千江美に、店長が察した。ああ先輩、せめて店長の前では。店長また痩せちゃう。
「……おはようございまーす。えーでは、今日は広告期間も終わりましてお客様も少ない感じです。でもだからこそ接客を大事にしましょう。それと、私今日は今から出かける予定が入っておりまして、少々席を外します。終業時間までには帰ると思いますので……」
店長の夕礼が終わったあと、俺達は一言も声を交わさずに仕事へ。店長が「何かあったの?」 と聞いてくる。
「ちょっと喧嘩、ですかね」
「まあ、あるよね。でも出来れば二人とも辞めないでね。どっちかがいなくなってもこの店、夜の主力がいなくなっちゃう……」
人件費ケチってるから人手不足になるんですよ、とは赤字経営を知っていると言えない……。しかしこのままだと店のためにもいけないな。どうにかしたいが、どうしたものだろうか。誤解を解こうとすると、なっちんのソウルメイトと思っているやつが嘘つきになってしまう。……傷つくだろうな。
品出し中、ふとレジを見ると千江美とあいつが仲良さそうに話しているのが見えた。オンゲの友人、呟きの仲間。運命的に近くに居た二人。俺さえいなければ、普通にあの二人がくっついたんだろうか? と考える。その考えを振り払うように、品出しに集中する。飲料は重いから気が抜けない。
あんまり信じたくないけど、要くんがトシカズを罵倒したらしい。ソウルメイト、と思っていたから余計許せないと思った。
「あいつは今品出し? いいザマだよね! チーちゃんさんみたいな人はやっぱりレジだよね。レジって楽でいいよね!」
今日も来てレジに並んでくれたトシカズくんはそう言っていた。いや、正直品出しよりレジのがきついんだけど。下手すると息吸う時以外喋りっぱなしだよ。レジというか働いたことないの? ……よく考えたら、ログインするといつもいるんだよね。どういう身分なのか今はちょっと気になる。
「チーちゃんさんにはやっぱり僕がいないとね! オンゲもそうだけど、やっぱり僕という――」
「お品物運びますね!」
会計終わった籠を急いでサッカー台に持っていく。いや、他のお客さんが並んでいるのに、話し続けようとするしもう強硬手段。正直ちょっとこういうの……困る。
「お待たせしましたー、いらっしゃいませー♪」
次のお客さんは白髪の生えた中年男性で、お酒のみ買われる方だった。ようし年齢確認だね!
「お客様、こちらアルコールが入っております。指で触れて頂くだけで構いませんので、そちらのタッチパネルで年齢確認お願いします」
研修の時に覚えた台詞で言う。こういうの、お願い出来ますか? やっていただけますか? と疑問系で聞いちゃ駄目なんだって。じゃあやらなくていいよねって言われたら終わりだから。やってもらうこと前提で聞くようにと言われた。頭に叩き込んだ定型文でお願いする。しかし予想の斜め上いく答えが返ってきた。
「年齢確認? じゃあ貴方がやって」
……は? いや、これ貴方の買い物ですよね?
「いえ、お客様の年齢確認が必要なもので」
「知らないよ。貴方がやって、終わったことにすればいいでしょ」
えええ何これ。やばい人? そんなのが通用するわけないじゃん!
「いえあの、年齢確認していただかないとお売り出来ませんで……」
「何なの!? いい加減にしてくれる!」
「何なの!? いい加減にしてくれる!」
奥で品出ししていた要は、その大声を聞きつけて真っ先に駆けつけた。今は店長がいない。守れるのは自分だけだ。例え嫌われていても。
現場に着いた時には、涙目ながらも「でも年齢確認を」 と譲らない千江美と、スイッチが入ったように怒鳴りまくる男性客、サッカー台でおどおどするトシカズ……は関係なかった。問題はこの二人だ。
「お客様、どうかされましたか」
要が聞くと、男性客は味方を得たと思ったのかニコニコ顔で千江美を貶めながら言う。
「ちょっとね、この子ね、教育がなってないよ。年齢確認やれって言うんだよ? 見て分かるでしょ? バカにしてるわけ?」
「お客様、大変申し訳ありませんが、年齢確認は警察の指導です。購入されるお客様全てにして頂いております」
見よう見まねで店長の言葉を真似する要。男性客は最初要を見て態度を和らげたが、その言葉で再び激高した。
「はぁ!? 何なの? 見て分からないのかって言ってんだよ!」
「申し訳ございません。指でタッチしていただけるだけで結構ですので……」
「信じられないね! 客に何させる気? 指紋採取みたいで嫌なんだよ、客を犯罪者扱いする気なのこの店は!」
「申し訳ございません。それでも年齢確認いただけない場合はお売りできません」
「ふざけんじゃないよ。だったら酒いらないよ。もうこの店来ないから!」
男性客はぷりぷりと怒りながら手ぶらで帰っていった。後ろで小さく千江美が「お客さん、減らしちゃったかな……」 と呟いた。要は落ち込む千江美に「次のお客様がいらっしゃってます。気持ちを切り替えて」 と言って、相変わらずサッカー台で炭酸飲料のダンボールを抱えて呆然としているトシカズに目を向ける。
「お騒がせしました。よろしければ、お荷物をお車までお持ちしましょうか?」
トシカズはハッとした様子で、荷物を抱えると昨日よりも早いダッシュで去って行った。
バイトが終わると、従業員用の出入り口でトシカズが待っていた。それに気づいた千江美はまず謝った。
「ごめんね! みっともないところ見せちゃって。普段はこんなんじゃないんだよ、本当だよ!」
あくまでお客様相手に醜態を見せたのを反省しているようだ。
「いや、そんな、僕こそ……」
「ううん、トシカズくんは何も悪くないよ。適当な気持ちでいた私が悪いんだ、きっと。じゃあ、今日は迎え来てるから」
千江美が去って、トシカズと要が二人きりになったあと、トシカズのほうが先に口を開いた。
「何か言えよ」
「……本日はご迷惑をおかけしまして。次は気をつけますので、どうぞまたいらしてください」
「何だよその店員口調は!」
「じゃあ対等な立場で言ってやるよ。俺は、お前より千江美を知らないし、理解してないし、好きじゃないかもしれないけど、それでも困ってる時に先に助けたのは俺だ。まあ、同じ従業員なら当たり前だけどな」
トシカズはまた泣いた。あの時、急に怒鳴った客にただただ怖いと動けなかったこと。止める気持ちより関わりたくない気持ちが勝ったこと。客と従業員という立場の違いを抜きにしても、勝負はあった。
「ぼ、僕だって……僕だって」
そう言いながら、トシカズはふらふらとどこかへ歩いていった。多分自宅だろう。
翌日、千江美から開口一番に礼を言われた。「昨日はありがとう」 と同時に悩みを吐かれた。本題はこっちらしい。
「トシカズくん、昨日はログインしてなかったみたい。やっぱり、呆れられたかな」
呆れているのは自分に対してだろうと思ったが、そうは言ってやらない。そこまでの義理も無い。
「要くんも、呆れた?」
こわごわとそう言われて、要は一笑に付した。
「もしあの時『分かりました、確認しないでいいです』 とか言ってたらそれこそ呆れてましたよ。でもそうでなかったから、尊敬します」
「ありがとう。……ごめんね」
「何のことですか? さあ今日は広告初日です。張り切っていきましょう。頑張って稼いで店を黒字にして、給料アップしてもらってなっちんのグッズを買いましょう!」
「……うん! やるぞ、おー!」
それからしばらく、順調な日々が続いた。どこかで紹介されたのか店にますます人が来るようになった。ただし売れるのは元が取れないものばかりなので、二人は今日も必死に声かけをしている。
「いらっしゃいませ、花粉対策にこちらのお薬いかがですかー?」
千江美がある客にそう宣伝すると、客はふっと笑い「まだ前のが残ってますので。貴方から買ったものが」 と言うではないか。
要はぎょっとした。自分の知る限り、千江美の声かけの成功例は一つしかない。けど、千江美の前にいる客はどう見ても別人だ。あんな痩せたイケメン(俺には劣る)は知らない。千江美も首をかしげている中、男はこちらを見て口を動かした。
――今度は負けない――
あれはリバウンド防止に健康食品がおススメだな、と要はぼんやり思った。店はまだ黒字になっていない。