公爵
公爵とは長い付き合いになる。
もう十年以上だ。この国のトップのはずが、よく酒を嗜む奴だ。俺とも気が合う。
酒の肴は、俺の旅の話のことが多い。
「・・・召喚状とは。なぜ、そのようなものを送ってきた」
いつものように公爵―レーゲド公爵の部屋に通された俺は、いつものように公爵と向かい合って座った。
「早急に話が聞きたいからだ、ポー」
「話、とは?」
雰囲気は、いつものように軽くない。
「テル、はどうした?」
「テルとはジべレドで別れた」
「なぜ?」
「止まっていた宿で爆発事件が起きて、その時にテルが飛び出した。詳しくは分からない」
「その爆発事件、テルが関わっているのか?」
「・・・まさか、あいつはそんなバカじゃない」
「・・・これを見てくれ。昨日、王国内で発刊された新聞だ」
その新聞の一面を指して、公爵は唸った。
そこには、先日のジべレドの爆発事件が載っている。読むと、その犯人として、
「ハハ、テルが犯人?バカな」
俺たち色々な意味で有名だ。
「本当だろうな。信じるぞ、ポー」
「レーゲド」
俺は公爵の目を見た。
「あいつがなぜこんなバカなことをする?暗殺?あいつなら消されたことも分からないように殺せる。知ってるだろう?」
「知ってるが・・・」
「確かにあいつは、殺し屋だ。現役の殺し屋だ。平気で、顔色を変えず人を殺せる。でも、無駄な殺生は好まない。あいつはそんな奴だ」
公爵が一口、酒を飲む。俺にも勧めてくる。
俺も一口だけ飲む。
「だから、あんたもこれをあいつに渡したのだろう?」
俺は懐から木札を出した。
公国正規軍所属将軍証。有事の際には、公国の軍隊を率いて戦う義務がある。
公爵も同じ木札を取り出した。
テルも同じ物を持っている。俺とテルの唯一の、自分を証明する物だ。
「同志だろう。疑うっていうなら・・・。こっちにも考えがあるぞ」
「・・・悪かった。疑ってはない。ただ、少し気になって」
しかし、その顔には疲労の色が広がっている。
何か、心当たりがあるのだろう。政治的な駆け引きが。
その時
コンコン
「後に「どうぞ~」・・・おい、ポー」
「あ、あの。失礼します」
メイドが一人、おずおずと入ってきた。公爵にぺこりとお辞儀をして
「ポー様。学校のほうから、すぐ戻ってきてく欲しいというご連絡がありました」
「・・・分かった」
俺はテーブルの自分のグラスの酒を飲み干した。
「れーげる。テルの心配はいらない。犯人じゃないよ、あいつは」
「そうだな。早く行け」
「じゃ」
俺は公爵に手を振ると、部屋を後にした。