帰還
翌朝、自警団が町を巡回していた。
剣や槍、鎧、斧などで物々しいが・・・。
もし本気で犯人が攻撃すれば、五分ともたないだろう。
でなければ、テルが勝手に理由も言わずに追いかけたりはしない。
俺は急いで、町を離れ、公国に向かうことにした。ここにいても良いことは無い。
門を出ようとすると、
「だから、言っただろう。あの宿には行くな、と」
昨日、居酒屋でからまれた男性が背後から声をかけてきた。
そっと、腰の剣に手を伸ばす、が
ビクッ!
手が震える。
「ほう・・・。私の殺気を感じたか。成長したな、ポー」
「お前は、誰だ・・・?」
「まだ、分からないか?・・・まあ、良い。もうひとつ、言っておく」
「なんだ」
「これから公国の立場は悪くなるぞ」
「はあ?」
「聞く・聞かないはお前の自由だ。ククク・・・姫によろしくな」
「おい!」
俺は、振り返った。しかし・・・
「クソッ。どこに行きやがった、あいつ」
あの口ぶり、殺気、そして“姫”。
もしや・・・。
そこまで考え、頭を振って、考えを掻き消す。
今やるべきは犯人捜しでも、あいつが誰かを特定することでもない。
公国に少しでも早く到着することだ。
俺は、荷物を背負い、足を前に出した。
不法地帯の真ん中あたり、誰も来ないようなところに住んでいる一族がいる。
ゾン族。
百年以上も昔に俗世との交流を絶ち、しかし、滅ぼそうとする国・グループは現れなかった。
それは彼らの戦闘力にある。
彼らの戦闘を記録した最も古い記録は、110年ほど昔の記録だ。
いまの帝国の前身との記録だ。
その時の記録には、ゾン族の攻撃の悲惨さが記録されていた。
帝国軍のキャンプが一つ、焦土と化した。
反撃の隙も無かったと考えられる、と記されている。
そんな一族に攻撃は愚か、コンタクトを取ろうとする集団は今のところ、無い。
コンコン
「どうぞ」
「ポー校長。公爵からの召喚状が届いております。今夜、7時です」
「うん・・・。分かった」
「失礼します」
いつも手伝ってくれる副校長が出ていった。
「俺が、校長、ね」
つい、笑ってしまう。
ここは、公国にある孤児院兼学校であるスレイガート学校だ。
ここには、様々な理由で孤児となった子供たちが通い、教養や知恵、生きていくための技術を身に着ける。
そんな学校の校長を俺は務めている。正直、いないことのほうが多いが…。
俺の役割は、戦闘の手ほどきだ。
年に3か月はここにいるように公爵に言われている。その間に手ほどきをする。
今の世の中、武力は必要だ。