火種
ガヤガヤ ガヤガヤ
おーい ビールくれー
姉ちゃん、こっちもだ!
うるさい居酒屋の片隅に俺は座っていた。
お酒を飲みつつ、少し舟を漕いでいた。
「おい!そこの一等兵!しっかりしろ!」
髭面のおっさんが檄を飛ばす。
「聞いているのか!1022番!」
ボクッ。
「ツ…。すみません」
少年の頭から血が流れるも、1022番は謝る。
「お前は、兵士なんだ!分かってるのか!ああ?!」
「すみません」
「公国の鬼畜どもに家族が殺されるんだぞ!」
「すみません」
「罰則、特別訓練だ!」
「はい」
「バカが」
そう言って、教官が肩を怒らせて部屋を出ていく。
1022番は一人、黙々と通常訓練のメニューをこなしていく。誰も手を貸さない。
「・・・。・・・せん。・・・すみません」
「・・・はい?」
気づくと、目の前の席に誰かいた。
「前の席、良いですか?」
「・・・ええ。どうぞ」
座ったのは、恰幅の良い男だ。葉巻を出して、吸い始める。
俺は、酒を飲み干して席を立とうとする。
「警告です」
「はい?」
「―――には近づかないほうが良い」
「はあ・・・」
変なことをいう人だ。クスリでもヤッているのだろうか。
俺は黙礼して、その場を後にした。
居酒屋を出るとき、数人の男とすれ違った。
その日の宿に到着した。いつも使っている宿だ。
なじみの宿主となじみの部屋。
宿の従業員も見たことがある奴等ばかりだ。
俺は、荷物を寝台のそばに置き、机の上に剣を置いた。
砥石と布を使い手入れする。
こびりついた血や汚れを拭き落す。
「おい、テル!ここだ」
宿の一階の食堂で、俺は焼き鳥を食いながらテルを待っていた。
テルの手には何やら包みが握られている。
テルはその包みを従業員に渡しながら、何やらしゃっべている。
従業員は、とても大切そうにその包みを受け取り、店の奥に持っていった。
「やあ、お待たせ」
「どうした?あの包み」
「ああ、そこで配達を頼まれたんだ」
「そうか」
俺は、焼き鳥を手に取り、
「中身は?」
「さあ?分からない」
ドーン ドドーン
突然、宿が揺れた。客がパニックに陥り、右往左往する。
出口を目指す者、自分の荷物を取りに行こうとする者等々。
「おいおい…。もしかして、中身…」
「うん・・・かもね」
「とりあえず、火薬がある。それは「頼んだよ、ポー。公国で会おう」
テルは、人ごみの中に何を見つけたのか、そう言い捨てて、行った。
こういう時、テルは無駄なことはしない。
放火犯を捕まえようとして、出ていったのではない。それはマイスターの仕事だ。
まあ、テルなら心配ないだろう。
俺は、部屋に荷物を取りに走り、宿から逃げた。
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