旅立ち
「やあ、ポー」
アバーレの居酒屋で飲んでいた俺にがたいの良い男が声をかける。
「なんだ…テルか」
「なんだ、とはなんだい」
勝手に向かいの席に座り、勝手に俺のボトルから酒を飲む。
「勝手に飲むな、バカ」
「で、どうなんだい」
「何が?」
「南のほうは」
「・・・相変わらずドロドロしてる」
「そうか・・・」
黙って、テルは酒を二人のグラスに次ぐ。
「そっちは?」
「公国内は、まだ落ち着いているよ」
「姫は?」
「相変わらず、祈ってらっしゃるよ」
「・・・そうか。俺は、明日の朝に北にここを立つが、どうする?」
「行くよ。そろそろ、宮殿でゆっくりしたいね~」
「仕事をしろ、バカ。・・・じゃあ、明日の朝に北門で」
「了解。おやすみ、ポー」
「おやすみ、テル」
朝早く、日の出とともに俺は北門についた。
「遅いぞ、テル」
「朝ごはんと昼食を買ったんだよ。市場ってすごいね、いろいろあるから。」
「無駄口は叩くな。行くぞ」
「はーい、先生」
ふざけるテルを無視して、俺たちは北門から北に向かって進む。
このご時世の中で、中立都市は唯一の絶対安全圏内だが、一歩、外の出ると話は変わる。
いつ殺されても文句は言えない。そういう世界が待っている。
だからこそ、俺たち二人とも武器を持っている。
「そうだ、船でソウクと会ったぞ。相変わらずの装備だったがな・・・」
「あの金ぴか装備は何年も変わらないね、彼は」
「まあな」
「それで、」
「シッ」
手でテルの口を制する。気配が、空気が変わった。
「・・・囲まれてる・・・かな?」
「・・・やるか?」
そっと、腰の剣に手を伸ばす。テルも暗器を構えようして
ヒュン! ドスッ
足元に矢が降ってきた。
「動くな!投降しろ!命は助けてやる!」
ガサガサと林から出てきたのは、盗賊か、山賊のたぐいだ。取り囲まれている。
「剣から手を放せ!早くしろ!殺すぞ!」
「・・・お前らな、俺が誰か知って「うるさい!黙っ」
トサ。
今まで喚いていた口と頭が胴から離れた。俺はそいつの背中を見ていた。
「!!お、お前ら!」
「・・・俺が誰か知っているのか?」
俺は左手で懐から木札を出した。模様を見せる。
「続けるか?ちなみに連れも同じだぞ」
「・・・て、撤収!」
一人の号令で、賊は一斉に逃げていった。素人だろうが、バカではない。
剣をしまい、テルが近づいてきた。
「お疲れさま、ポー」
「急ごう」
俺らは、足を速めた。