「わたしの義妹は、押入れに住んでいる」
わたしの義妹は、押入れに住んでいる。
母が病気で亡くなってから一年もしないうちに父が再婚をしたので、父に対しては色々思うところがあったけれど、義母や義妹に対しては特にわだかまりなどはなく、別に義妹に対して虐待やら邪魔者扱いなどしていたわけではない。
うちはあまり広くないので、義妹とわたしは同じ子供部屋で過ごしていた。しかし、父が再婚してひと月もしないうちに義母が事故で亡くなったのがきっかけだったのか。義妹はだんだんと部屋の隅で過ごすようになっていって、ついには押入れに潜り込んでしまったのだった。
義母が亡くなるのが、早すぎたのだと思う。わたし達は、家族になりきる前に互いを繋ぐ糸を無くしてしまった。
父も、義妹との距離感がつかみにくいようで、義妹が押入れで過ごすようになっても強く言うことは無かった。むしろ、押入れにネットの回線を引いたり、エアコンを取り付けたりと環境を整える方向に行ってしまったのは馬鹿なんじゃないかと思うけれど、義妹は別に押入れで引きこもっているわけではないので、わたしとしてもあまり強く言うこともできず、義妹のするがままに任せていた。
「夢のドラえもん生活なの……」なんて義妹は小さく微笑んでいたけれど、青い猫型ロボットは押入れで寝るだけで押入れで生活してるわけじゃないと思う。
ある日、興味に駆られて義妹がトイレに出かけた隙に、ちょっと義妹の小さな聖域を覗いてみた。布団の上にノート型のパソコンがのったちゃぶ台があり、その画面を見て理解した。
ああなるほど。確かにこういう物は押入れにでもこもらないと、安心して見られないかも?
腐海のように広がりつつある、子供部屋のわたしのマンガや小説の山を振り返りながら、わたしは義妹に何をオススメしようか考え始めた。
BとLのつく本が、お互いに家族になるきっかけになるといいのだけれど。