【改訂版】 君を愛することはないと言われた妻ですが、蚊に転生しました
これは、6月11日に投稿した、同名の小説に加筆修正したものです。
良かれと思っていろいろ手を加えたら、どんどん気になるところが増えていきました。でも「変えるのは、元の文章を褒めてくださったかたに失礼だ!」ってことに気づいて、「だからって元に戻したら、変更後の文章を褒めてくださったかたに失礼だ!」と、これまたいまさら気づいて(実のところ、元の文章は残ってないので、投稿時の文章を復活させることはできないんですが)、「気になるとこがあるけどどうにもできないどうしよう」と思ってました。本当に考えなしですみません。
「この際、気になるところを全部変更して、新しく改訂版として投稿しよう」と思って書いたのがこれです。大筋は変わらないんですが、良かったら読んでもらえると嬉しいです。
今日、私は公爵領にお嫁に来た。
私の部屋に案内され、荷物を整理してくつろいでいると、夫となったアラン公爵様が、私の部屋に来てこう言った。
「クラウディア、君を愛することはない」
私は驚いて聞いた。
「えー、じゃあなんで結婚したんですか」
ストレートに聞き過ぎたかもしれない。アラン様は面食らったような顔をして
「それはあれだよ…貴族のしがらみとかなんかその、あれだよ」
とわたわたしていたので、
「あれですねわかりました」
わかってないけどわかったふりをするのがきっと貴族のあれだと思うのでそう言った。
「すまない。しかし公爵夫人としての権利は自由に使ってくれていい。下の者にもきちんと仕えるように言ってあるし、ドレスや宝石も好きに選んでいい」
「はいありがとうございます」
「……」
「……?」
話、終わったんじゃないのかな? なんだろう、まだいる。なんか聞くべき?
「……」
「あの…念のためにお聞きしますが、旦那様は他に愛するかたがおられるのですか?」
「いやいない」
「ではなぜ『愛することはない』と断言できるのですか」
「……人を愛したことがないからだ」
「あらまあ」
「あらまあって…」
「あっごめんなさい。わかりました」
「……」
「……あの、まだ何か?」
「え、あ、うん…ではこれで…」
なんか拍子抜けしたような顔でアラン様は部屋を出て言った。
もうちょっと話を聞いたほうがよかったかな?
でも、なんつーか、決死の覚悟で言いに来た、って感じだったし、あんまし問い詰める気になれなかったのよねえ。
私はベッドにボスンと座って腕組みをした。
そっかー、アラン様、人を愛せない体なのかー。
これはあれだな、実の両親が忙しいとか無関心だとかで、育児放棄したんだな。そんで乳母だのメイドだのに育てられたけど、その人たちにも愛情をもらえず、愛することも愛されることもわからないまま大人になっちゃったってやつだ。ドラマや小説によくあるあれ。うんうんそうに違いない。
あんなに麗しいお顔に賢い頭、剣の腕もある優良物件なのに、子孫を残さないなんてもったいない。
でも、別に嫌われてるわけでもないみたいだし、時間をかければ、ちょっとは仲良くなることもできるんじゃないかなあ。
まあ仲良くなれなくても、あのお顔を近くから眺めるだけでも幸せだから、気にせんとこ。うんうん。
もともと楽観的な私は、そう思って新しいベッドでグーグー寝た。
翌日、朝ごはんの席にアラン様はおられず、侍女に聞くと、一人ですませて王宮に行ったらしい。お忙しいこと。
一人でもそもそと朝食を食べ終え、暇なので散歩に出た。
「庭園から出ないから」と護衛を断り、てぽてぽとお庭を歩いていると、リスがいた。
私はひらめいた。
「リス、いいんじゃない?? 人は愛せなくても、こういう小動物なら好きになれるかも!? まずはリスを愛することから始めるのよ! ナイスアイデア!」
そう思った私はリスをつかまえようと追いかけて走り、噴水の囲いにつまづいて転んで水に突っ込んだ。
(あれ? これ、やばくない? 頭打って水の中って…)
たしか水深10センチでも、人は溺死できるって、聞いたことがあるなあと思いながら、私は気を失った。
◇◇◇
気が付いたら私はボウフラになっていた。
「まじか」
前世の記憶を持ってボウフラって。どないせいっちゅうねん。
とりあえず成虫にならんことには水の外に出られないので、うようよと泳いで微生物を食べて、がんばって羽化した。
空中に飛び立って、周りの景色を見た。
私がいるところは、公爵邸の庭園にある噴水の中らしい。
そっかあ、ここで死んで、ここの蚊の卵に生まれ変わったのか。
えらく近場ですませたんだなあ。
まあ蚊になってても、アラン様の顔を見られるだけで幸せよね。
蚊の視力ってほとんどないらしいけど、そこはそれ、転生チートで視力も人並みにあるみたいだし。
アラン様のお部屋まで飛んでいこうっと。
そういえば、私、結婚したのに、愛されてないから初夜もすませてないんだよね。
初夜…ちょっと楽しみにしてたのに。
なんかくやしいから、アラン様の血を吸ってやろう。
そんでもってその血の栄養で子も産んじゃお。
あれ?
そしたら「アラン様に授かった子」って言えるんじゃない?
やだなにそれ私天才! 早く血を吸わねば! そのためにはオスと交尾…交尾?
私は一気にトーンダウンした。
やりたくないな…というか、やりかたがわからない…というか、交尾…するほうのような気が…すごくしてきた…この気持ち…これはたぶん…私……
オスなんだわ!
アラン様に子を授かる願い破れたり…!
がっくりと意気消沈した私だったが、
「それでもアラン様のお顔を眺めるだけならできる!」
と、根性で気を持ち直し、公爵邸に向かった。
公爵邸の入口に、お花を持った5歳くらいの少年がいた。
(アラン様に似てるけど…まさか、隠し子???)
私が混乱していると、奥から女性の声がした。
「アラン? そこにいるの?」
公爵夫人!
現れたのはアラン様が爵位を継ぐ前の、前公爵の奥様。
アラン様のお母さまだった。
今は王宮から遠い領地で隠居しておられる前公爵夫人だけど、いつこちらへ…?
てか若い?
「母上!」
少年が公爵夫人のもとへ駆けて行った。
母上…。えっ、この男の子、アラン様!? 子供の時の??
てことは、時間が巻き戻ってる???
「母上に、これを!」
少年が夫人にお花を渡す。
「きれいだったから! どうぞ!」
「まあ、なんて素敵なプレゼント。ありがとうアラン」
にっこりした夫人がアラン様を抱きしめる。
「えへへ! どういたしまして!」
これまたにっこりしたアラン様が夫人にぎゅってする。
なんてほほえましい光景…。とほよほよしながら見ていると、メイドらしき女性が現れて言った。
「奥様、坊ちゃま、お邪魔したくはないのですが、食事がさめてしまいます」
「ああそうだったわ、行きましょうアラン、今日はあなたの好きなハンバーグよ」
「たいへんたいへん! ハンバーグがさめちゃう!」
「あああアラン、気持ちはわかるけども、走ってはだめよ~」
あわてて邸に入る2人を、守衛もメイドもにこにこして見守る。
高位の貴族なのに、なんて和やかな家庭だろう…とうれしげに眺めていたが、ふと疑問を抱く。
いやこれ、愛情あふれる理想的な家庭でしょ…。
ここで育ってなんで「人を愛したことがない」アラン様になるの?
公爵様がよっぽど厳しいとか…?
と考えてた時に「ただいまー!」と、公爵様が帰ってきたようだ。
「アランー! いい子にしてたかー!」
どっかどっかと食堂に向かい、
「やったー! みんなと一緒にご飯が食べられるー!」
とはしゃいでいた。
「エドガー様! 食事の前に手を洗ってください! アランも!」
怒られた公爵様とアラン様は、てへっという顔で見つめあい、すごすごと手洗い場へと消える。
絵にかいたような幸せ家族……!
どういうことなんだろう。
どう見てもアラン様は「父上も母上もだーい好き!」だよね?
それでなんで「人を愛したことがない」と思うの?
公爵夫妻が領地に行く前に何かがあったとか?
むむむと首をひねりながら(蚊に首があるのかどうか疑問だけど)、アラン様の寝床にこっそりついていって、「ちっちゃいアラン様もかわいい…」と枕のそばに止まって(飛んでると羽音でアラン様の睡眠の邪魔になるかもしれないからね)、心ゆくまで見つめながら、夜を明かしたのであった。
翌日、アラン様にお客様が来た。
隣領の伯爵家の夫人が、アラン様よりちょっと上ぐらいの年頃の、お人形のように愛らしい令嬢を連れてきたのだ。
「アラン様! お庭であそぼ!」
ちっちゃい令嬢がちっちゃいアラン様と手をつないでお庭にいく。
あああかわいい~~癒される~~~と思いながらついていくが、アラン様はどうにも難しそうなお顔に見える。
あら? アラン様はこの子が好きではないのかしら?
と思う間もなく、令嬢が庭の花をぶちぶち摘み始めた。
「カミーラ! そんなふうにちぎらないで! 花が欲しいなら庭師のベンに切ってもらうから!」
とアラン様が止めるが、
「花が欲しいわけじゃないのよ~こうやって花びらをむしりたくなっただけ~」
とケラケラ笑いながら花をむしり散らす。
な…なんてわかりやすいクソガキ…!
「ベンが大事に育ててるんだよ、そんなことしちゃいけないんだよ」
アラン様、いい子……。
「アラン様、お母さまみたいなこと言うのね、うるさいなー」
カミーラ、うん子……。
「そんなこと言うなら、お嫁さんになってあげないー!」
なんだこいつ。うん子のくせに。
「僕だって、カミーラみたいな子をお嫁さんにしたくないよ」
アラン様! よく言った!! その通りよ!!
「~~~~なんですってー!」カミーラが顔真っ赤にして怒ってる。
「みんなが私のことを大好きなのに! お嫁さんにしたいって言うのに! アラン様って変! 頭おかしい!」
なんだとう~~~~!
「きっとアラン様は、誰のことも好きになれない子なんだわ! けっかんひんなのよ!」
うわあひどい八つ当たり! そんなわけないに決まってるじゃないの! ねえアラン様!?
ええっ! ガーンって顔してる! まさか! 本気にしちゃったの!?
「誰のことも……好きになれない…?」
「そうよ! 誰も好きにならない子なんて、誰からも好かれないわ! 誰にも愛されないから、愛することもできないのよ! そういう子なんだわ!」
わわわわわ、アラン様、こんな言葉、聞いちゃだめですーー!
「たしかに…みんなが好きなカミーラのことを、好きになれない…」
いやそれは自然な現象だから! 正しいから!
みんながだまされてるだけだから!
カミーラがそれを聞いてさらに真っ赤になったのは面白かったけど、うわ、この目つき、根に持たれそうで怖いな…
と思ったところで場面が切替わった。
場所は同じ庭園だけど、季節が違う。10歳くらいのアラン様と、カミーラ?
「つぼみが出てる。この花好きだから咲くのが楽しみだな」枝を見ながら微笑むアラン様。
それを聞いたカミーラが、フンと鼻を鳴らしながら言った。
「そうなの。じゃあ咲いたら私がもらってあげてもいいわよ」
「この木は弱いから、枝を切るわけにはいかないんだ。だからあげられない、ごめんね」
申し訳なさそうに言うアラン様に
「なにそれ! そんなんだからアラン様は嫌われるのよ! 私より木を大事にするなんて! やっぱりけっかん品ね!」
こみあげる殺意。こいつ、成長してもまだ…!
怒りもさめやらぬうちに、場面が変わる。
今度は学校の校庭のようだ。なんだろうなこれ。これもチートなのかな。蚊の寿命って短いから、ダイジェストで見せてくれてるのかも。
制服を着た男子生徒がアラン様に話しかけている。
「君にひどいことを言われたと言って、カミーラ嬢が泣いていたぞ」
「近寄るな、と言っただけだ。実験中だったから」
「それにしたって言い方ってもんがあるだろ、やっぱり君は噂通りの人間嫌いなんだな」
また場面が変わった。
暗い顔をしたアラン様が教室で一人で座っている。
「何か悩んでらっしゃるみたい」「恐れ多くて近づけない」とささやきあうクラスメイト。
そこに、カミーラが現れてアラン様に話しかける。
「ひとりぼっちで可哀そうね、私が話を聞いてあげましょうか」
アラン様はカミーラを一瞥して「いらないよ」と言った。
「ひ、人がせっかく、優しい言葉をかけてるのに! あなたは本当に、人の気持ちがわからない人間なのね!」
憤慨してドタドタと出て行くカミーラ。
そしてまた場面は変わって、大人になったアラン様に、公爵様ご夫妻が話しかける。
「私たちは領地に行くが、本当に大丈夫か」
「離れていても私たちはアランのことを一番に想っているからね。何かあったらいつでも頼ってね」
悲し気に笑って送り出すアラン様。
「ありがとうございます。父上、母上もお元気で」
あああこれ、絶対信じてないって顔! よくもここまで洗脳したわねカミーラ!
許せない許せない許せない! あんな素直でいい子だったアラン様を、こんなにひねくれさせて!
また場面が変わった。神殿の中、花嫁姿のカミーラ。
え!!! あんたまさか、嫁にいくの!? アラン様をここまで人間不信にさせといて!?
「アラン様…今までごめんなさい」
今更!?
「みんなが私のことをちやほやするのに、あなたは私に興味を持ってくれなかったから、くやしくて意地悪したわ。ひどいことばっかり言った。本当のあなたは、みんなに愛されてるし、愛することができる人よ」
「はは。そんな嘘はいいよ。自分のことは自分が一番わかってるから」
わかってないのよ! アラン様だけがわかってないのよ!
「嘘じゃないのに…」唇をかみしめて泣くカミーラ。遅いわ! 遅すぎるわ!
あああもう、この行き場のない憤りをどうしたらいいの!
せめて血を吸うことができたら!
カミーラの足の小指をカイカイにして「イイイイイイッ」って思いをさせられるのに!
なんで…なんで私はオスなの!
せめて、せめてもの嫌がらせに、寝るときにずっと枕元を飛んでやる!
プワアアンって音で寝られないようにしてやる!
蚊の寿命って何日あるのかわからないけど、この命つきるときまで、プワアアン地獄を味合わせてやる!
私は根性でカミーラのドレスに隠れて、彼女の嫁入り先までついてゆき、床に就くのを待って、恨みをこめて飛び回った。
しかしほんの5分ほどで、私は「ん~~?」と寝返りをうったカミーラの下敷きになって、つぶされてしまったのであった。
◇◇◇
「む…無念…!」
「クラウディア! クラウディア!?」
目が覚めたらそこは、公爵邸の医務室?のようなところだった。
「気がついたか! 私が見えるか? 大丈夫か?」
アラン様だ…麗しのアラン様だ…。
私…生きてる?
「噴水で突っ伏して気絶していたんだぞ!? 覚えてるか?」
「はい…」
護衛はいらないと言ったけど、一応、この家に来たばかりで迷子になるかもしれないと思って、離れてついてきてくれていたらしい。おかげさまで、すぐに救出されて医者に見せて、事なきを得たらしいが、なぜか5日も目を覚まさなかったらしい。
蚊になっていた5日間(内ボウフラ3日)は、夢だったのかもしれない。
でもあれは、実際にあったこととしか思えなかった。
「よかった…本当によかった…このまま目を覚まさなかったらどうしようかと…」
目が潤んでいた。本当に心配してくれていたことがわかる。
私はそっとアラン様の手を取って言った。
「アラン様…カミーラ様はツンデレです」
「え?? カミーラ? カミーラって隣領の? ツン…何?」
やっぱり! カミーラ、実在してるんじゃん!
「ええ。そしてあなたは人を愛せるし、愛されるべき人です」
「ちょちょっと待って、君、カミーラと知り合いだったの?」
「人を愛せない人が、こんなに人のことを心配するわけないんです」
「クラウディア…??」
「大好きですアラン様。アラン様がどう思おうと、私はアラン様が好きだし、カミーラ様が毎日足の小指を蚊に刺されるように呪い続けます」
「えっそれはあの…えっ足の…えっえっ何の話??」
私は「頭を打って錯乱してる」と思われて、また寝かされたけど、「アラン様を溺愛するぞ!」という気持ちでいっぱいだったので、「起きたらどうやって溺愛しようかなあ」と、わくわくしながら、グーグー寝たのであった。




