第6話
雷が鳴っている。何度も鳴っているのに、雨は降らない。サーモンピンクに染まった重苦しい雲の向こうの稲妻。
ちくわは家の中にいると怖くてしょうがないのに、今は稲光も雷鳴も平気らしい。見えないものの恐怖、私たちは怯えている。目に見えない嘘は私を苦しめる。
「さあ、帰ろうか。ちくわ、もうすぐ雨が降ってくるよ」
本当に雨が降るかどうかはわからない。生ぬるい風が執拗に纏い、動きを鈍くする。身体が重い、背中におぶさっている、何か。罪悪感か。そんな単純なら良かったのに。
ちくわは動かない、帰りたくないという。ひっぱるとあっちへ行くという。
「あっちから来たんやん、もう帰ろうよ。早よ帰っておやつ食べよ」
ちくわはじっと私の声に耳を傾ける、真っ黒だけど透明な瞳。嘘のない瞳。
ちくわは嘘をつかない。
松宮さんが辞めてすぐ、私を慰めてくれた営業課長が、以前、勤務していた支店で横領していたという噂話が流れた。あちこちで常習犯だったという、噂。
「あれさ、あの松宮さんの事件。どうも犯人は、営業課長っぽいで。そういや怪しかったよな。関係ないのに何回も金庫出入りしとったらしいし」
山下君が喜々として耳元で囁いた。私は、鳥肌が立って、シャープペンシルの芯を、出しては折って出しては折って、繰り返した。ぽきぽき、ぽきぽき、鳴らして、軽快。短くなったシャープペンシルの芯で卓上が満たされていく。
誰も紙袋の話はしなくなった。
「松宮さん、大手の企業に就職決ったらしいで。結婚もしたんやて」
安堵する悔恨の集合体、塵は堆積しあの時の嘘をひそひそと隠す、よかった、もう忘れられる。忘れられる? いいや、嘘つきの悍ましい私はここに在る。
決して消滅などせず、時々、輪郭をあらわして糾弾する。記憶に薄い蓋をして、開けないように開けないように。
信じればそれがいつか真実になるとでも言うように、期待して。




