第5話
本部の人は、顎に手を当てて、どこかで見たような雰囲気を醸し出してドラマチックに「やはりな」と言った。私は急に恐ろしくなって、いや、どうやろ、見間違いかも知れません。そんな気がしただけで、真実は違うかも知れません。
唯一の貴重な証言ということらしかった。
「大丈夫、大丈夫。松宮さん、もうすぐ結婚するんで、その結婚式場に支払うお金をあの日に準備してたらしいんですよ。彼氏が取りに来てたんちゃうかっていう情報はあったんやけど。おかげで確信が持てました。ありがとう」
私の証言は正当化された。大丈夫、大丈夫? なにが? 背中から汗が噴き出してきた。闇の液に浸る心臓、どす黒く滲み、染まってゆく。
違う。突然我に返る。紙袋? 何それ。知らない。絶対、違う。いや、それも真実かどうかはわからない、絶対違うは「私の証言」のこと。だけどもう遅い。「私の証言」は蛇のように痕跡を遺す、ずるずると音をぶらさげ残酷に。いずれ「私の証言」から乖離し自我を持つだろう。
松宮さんの身柄は拘束され、大勢の背広に囲まれていた。安っぽい背広群の隙間から松宮さんの貌が見えた、私を見ている、射すように、猛禽類のように金色がかった目。ふたつ。瞬きもせず、私の嘘を言及する、嘘だと問い詰める。
だって、私は紙袋を見ました。
それは確かに?
確かに。
いや、違う。違う。
紙袋なんて、見てません。
それは本当に?
本当に。
私が目をそらしている間に行われていたことはわからないけれど、その時に渡していたのなら知らないけれど。もしかしたら私が見ていないときに渡していたのかも。
そうじゃないですか?
私は紙袋を見ていないように思うけど、今となってはわかりません。
もしかすると手に持っていたのかも知れないなあ。
松宮さんの手に、あれは紙袋だった気がする、
ええ、そう。
茶封筒。
百万円の束がみっつ入るような膨らみ。金庫から抜き取った三百万円。もしそうであれば私の証言は事実となる。
嘘じゃなくなりますよね。
松宮さんは自白しないまま、退職する道を選んだ。お別れ会を行うかどうするか次長が悩んでいたが、本人が辞退したということでそれもなくなった。
松宮さんは語らずに去っていった。私のことを責めたりもしなかった。




