第3話
本部の、具体的にはどの部なのかはわからないが、それから何日もいろんな人が入れ替わり立ち替わりやってきては、順番に質問をされた。
私たち営業担当者に対しては、それでも、日中は店に滞在することはないし、物理的にも金庫のお金を盗み出すことは不可能だろうということから、本腰を入れて捜索している風ではなかった。
その内、質問は松宮さんについてばかりとなっていった。その日の松宮さんは何をしていたか。何時何分何秒、トイレはいつ行ったか何度行ったか。誰とどんな話をしたか。松宮さんの家族構成は、どんな生活環境か、趣味は、健康は、性格は。誰と仲がいいか。
接点のない私も繰り返し尋問。松宮さんとは個人的にしゃべったこともなく、どんな人物かも実感として記憶していることもないのに、次第に私自身の気がつかないどこかで何かを知っているような気分にさえなってきた。執拗に反復する尋問は存在しない事実を捻出させる力がある。
「あの日ちゃうかったっけ? 駐車場かどっかで男の人としゃべってるの見たって言うてたやん」
同僚の山下君が、昼食の時間、二人きりのときにそう言った。勿論、覚えている。覚えているが敢えて公にすることを避けていた。松宮さんをかばったわけではなく、この証言によって何かが変わるのを恐れていたからかもしれない。
しかし山下君がそう言った以上、話さないわけにはいかなくなってしまった。
「要らんことだけは、よう覚えてんなあ」
山下君は呆けたように、なにが?とふざけた顔をした。噂好きでトラブルが唯一のご馳走のいちびり。自らは中心にはいたくないが、爆弾を投下することに喜びを感じる厄介なやつ。私を利用して問題を大きくしたいらしい。
二階にある食堂は西日をもろに受けるため、クーラーが一定の時間まったく効き目がなくなる。いつからあるのか、カーテンはすっかり日に焼け、元の色が何色であったのか想像することすらできない、よく見ると生地はぼろぼろに裂けてもいる。
誰かを疑う前にやらなくてはいけないことが山積していると、体内のひだひだの裏側で直感する。いつまでも気づかない、気づかないふりをする狡さに辟易とした。
表通りの街路樹から、くえーくえーと変な鳴き方をする鳥。裂けたカーテンの間から見てみたがよくわからない、それきり聴こえなかったし、もしかすると聴き間違いだったかもとも思った。
「なんか今鳴いてたよね」
山下君は、ん?と言ってちらりとこっちを見たけど、すぐに興味なさそうにスマホに目を落とした。私は、面倒なことになったなと思って、はああと溜息をついた。




