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見えない嘘  作者: 宝や。なんしい


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第2話

 松宮早苗さんが退職することになった。


 体調不良のための自主退社、ということだったが、実際は金庫から三百万円が消えた事件の、責任をとらされた形。会社としては内密に片付けてしまいたいらしく、警察沙汰にはしなかった。おかげで松宮さんは退職するだけでお咎めはなし。自主退社なので退職金ももらえるし、犯人と確定されたわけではないので、三百万円を返却する必要はない。会社も紛失として仮払金処理をした。


 ただ松宮さんの尊厳だけは傷つけられた。もしも犯人でなかったとしたら、当然、冤罪ということになる。松宮さんは最後まで「自分がやりました」とは言わなかった。認めはしなかったものの、会社の要求をのんだ時点で認めたのと同じこと。私は残念に思った。

 なにしろ、松宮さんが盗んだのではないのだから。


 現金がなくなったのは、二ヶ月前、確かまだ蝉は鳴いていなかった。一時的に小雨がぱらついたがすぐにやみ、温められた路上からたちのぼる熱気、自動扉が開け閉めされる度に店内に入り込む。恐ろしく暑い夏をすでに予感させた。そんな日だった。


 三時になると現金の締め作業に入る。松宮さんは出納係だったので唯一金庫に入ることのできる平社員として、金庫内の現金を検める仕事を担っていた。そこで三百万円不足していることに気がついた。

 すぐに役席に報告。報告を受けた役席は何度も確認作業を行う、一日分の窓口の取引状況や従業員全員の行動の把握、記録の見直し、何度も何度も何度も。同じことを質問し立ち合い、齟齬を究明、僅かな違和感を逃さぬように。

 出納係だった松宮さんに対しては特に厳しい尋問が続いた。


 私は営業担当で、普段、日中はほとんど外に出て顧客周りをしている。午後になってすぐ雨が降ってきたことで一旦傘を取りに店に戻る、その時、松宮さんが駐車場で男性と話しているのを目撃した。

 男性はまったく知らない顔。いつも寡黙な松宮さんの笑顔が芙蓉のように柔らかに酔っているようで、見ていてはいけないような恥ずかしい気持ちになった。

 松宮さんのほうも私に気づくと真顔になって目を剃らしたけれど、どこか優越感に浸っているような印象を受けた。

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