7.信徒
「え、君、この子の村でも食べ物を貰ったの?」
びっくりしたままクサヴェルが訊ねる。
それに対しナタリーは首を横に振った。
「いや、私たちがこの地域に来たのは初めてだ。おそらく別の旅団だろう」
そう言って、ナタリーは泣きじゃくる少女に訊ねる。
「私は今、別の任務で行動している。だから食べ物を求めることはしない。ともに祈ってくれればそれでいい」
「嘘。お祈り、たくさんした。でもお父さん、連れてかれた」
「……誰に?」
クサヴェルの問いに、少女はナタリーを指さして答えた。
「私は違う」
「違わない。同じ服着てる」
「だとしても、私は君の父親の行方を知らない」
そこで言葉は途切れた。少女のすすり泣く声だけが沈黙を隠す。
「……ねえ」
クサヴェルが口を開いた。
「食べ物、もうないのは本当?」
少女は黙って頷く。
「ぜんぶ、この人たちにあげたんです。でも、まだ持ってるだろうって……それで、お父さん、連れてかれちゃった」
「そっか……。実はさ、さっき魔物を倒したんだ。たくさん倒した。おれたち二人じゃ食べきれない量でさ。よかったら貰ってくれない?」
「おい、貴様っ!」
ナタリーが食って掛かった。
「正気か? 魔物の肉だぞ!? どんな副作用があるか……!」
「魔物の肉を食べても平気だったけど?」
「それは貴様が悪魔憑きだからだろう! 一般市民を巻き込むな!」
「……ねえ」
少女が口を開いた。
「お肉、食べたら、お父さんに会える?」
思わず二人とも少女の方を見る。
二人を見つめる彼女の目は涙に濡れている。しかしその瞳は、底無しの穴のようにがらんどうであった。
ナタリーが唇を噛む。
「……会えない」
静かに、答える。
「君のお父上がどのような罪で教会に連れていかれたかはわからない」
ナタリーは目を伏せた。
「だが、教会は異端者を許さない。君のお父上が異端者として連行されたなら、魔物の肉を食べた君も異端者になる」
「じゃあ食べる」
即答だった。
「教会に連れてって」
「たとえ家族であろうと、いや家族だからこそ、異端者は誰の面会も許されない。……君とお父上は、もう二度と会えない」
「…………」
「……ねえ、異端者は教会に連れていかれた後、どうなるの?」
クサヴェルが訊ねた。ナタリーは淡々と答える。
「尋問と裁判だ。その後、処刑される。異端者の体は世界の害だ。清浄なる炎で燃やした後、復活しないよう骨も砕いて地中深くに埋められる」
クサヴェルは眉を寄せた。
「……ひどい」
「そう思うなら、死後も煉獄の炎で焼かれている彼らに祈ってやったらどうだ。悪魔憑きであろうと、多少の祈りなら届くだろう」
ナタリーはそう言うと、胸の前で印を組み祝詞を上げた。
クサヴェルはその声をぼんやりと聞く。少女は聞いていなかった。ただ黙って地面を見つめている。
(おれは死んだら悪魔の奴隷になるけど、それ以外は焼かれるのか)
どっちがいいのかなんてわからない。
誰も守ってくれないこの世界で生きていくには、誰かから奪うしかない。
食べ物も、着るものも、武器も。あらゆるものを奪ったうえで、人は生きていける。そうでなければ死ぬしかない。
ナタリーの理論で言えば、平和な天国に行けるなんてそれこそ教会関係者くらいだろう。
(なんか、嫌だな)
「――行くぞ」
祝詞を終えたナタリーが言った。
「行くって、どこに?」
「教会だ。貴様を連れていくならそこしかなかろう」
「待って!」
少女が声を上げた。ナタリーに縋りつく。
「私も連れて行って。異端者でいいから! お父さんにもう一度会いたい!」
ナタリーは静かに眉を寄せると、ゆっくり少女の手を引きはがす。
「君は異端者ではない。教会の教えを守り、祈ってくれる信徒だ。教えを正しく守る君を、教会は異端者から守る」
「……じゃあ、なんでお父さん、連れてっちゃったの?」
少女の口から言葉が零れ落ちる。
「毎日お祈りしてたよ? 食べ物、今日のご飯もぜんぶ渡したのに。なんで? ねえ、なんで?」
ナタリーは答えない。代わりに、胸の前で印を組んだ。
「今日を生きるあなたへ、祝福の祈りを」
短くそう言って、少女に背を向けた。
「来い。行くぞ」
「えっ……あ……」
服を掴まれて強引に引きずられながら、クサヴェルは少女を見る。
少女は膝をついたまま、呆然と固まっていた。
彼の視界から消えるまで、彼女は動かなかった。
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