表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
加護憑き少年、一目惚れした聖騎士の少女と旅をする  作者: 長久保いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

2.帰還

 ぱち、と音を立ててクサヴェルは目を開けた。

 冷たい地面。生暖かい空気。鼻から息を吸ったら、喉の奥で引っかかって咳き込んだ。

 体が痛い。死ぬ前にあちこち折れる音と痛みがあったから、かなり痛いはず。……なのに、今痛むのは背中と胸だけ。

「……あれ?」

 咳の隙間で声が出る。目の前まで手を持ってきて、握ったり開いたりする。

「……生き返った」

 そう呟くと、じわじわとお腹の底から熱いものがこみ上げてきた。

 ああ、本当に生き返ったんだ。

 夜だから周りは真っ暗だし、崩れた壁はこっちを覗き込んでいるようで怖いし、空には星が一つも浮かんじゃいない。

 けれど。

(生きなきゃ)

 生きて、幸せになる。それしか、あの場所では言えなかった。

 体はもうどこも痛くなかった。腕と足を動かして、クサヴェルはよろよろと立ち上がる。

「幸せになるんだ……」

 祈りのように、あるいは呪いのように呟いて。

 誰にも気付かれないまま、少年は歩き出した。


◆   ◆    ◆


 足が、前に出なくなってきた。

 水が欲しい。食べ物が欲しい。

 喉が張り付いて嫌な気持ちだ。

 靴の先がなにかを踏む。柔らかくて平べったい感触のそれをおそるおそる拾ってみる。

 皮の袋だった。少し夜目に慣れてきて覗き込む。

 なにも入っていなかった。

(……そう簡単な話じゃないか)

 それでも革袋を捨てられなくて、ぎゅっと握りしめる。

 すぐ後ろでがたんっ、と音がした。

 飛び上がりつつ後ろを見たが、暗闇が広がるだけ。

(……誰か、いる)

 心臓の音がドッドッドッと大きくなる。

 人がいる。自分以外の誰か。

 それは――怖い。

 血が冷たくなっていく。

 クサヴェルは音と逆方向へ走り出した。

 疲れたとか関係ない。とにかく、遠くへ逃げなければ。

「あっ」

 角を曲がろうとして、壁に肩をぶつける。

 脆くなっていた壁が音を立てて崩れ落ちた。

「……う」

 土埃が舞う中、クサヴェルは咳き込む。

「……痛く、ない」

 おかしい。壁は石でできていて、たしかに重かったし衝撃もあった。

 なのに、どうして無傷でいられるのだろう。

 呆然とするクサヴェルの耳に、足音が近づいてきていた。

 ――一人分ではなかった。

「あ? ガキか」

 声が降ってきた。腕を乱暴に掴まれる。

「わっ」

「さっき、そこでドカンとやったの、お前だろ?」

「あーあー、よくも俺たちの家を壊してくれたなあ?」

「ベンショーしてもらわないとな」

 二人の男がニタニタと笑う。

「とりあえず、これはボッシューな」

 有無を言わさず、革袋を取り上げられた。すぐに相方に投げられ、袋の中を見られる。

 男の顔が歪んだ。

「……おい、なんもねえぞ」

「はあ?」

 もう一人の顔も歪んだ。

「てめえ、金持ちなふりしてんじゃねーぞっ!!」

 ゴッ、と衝撃が顔の左側に広がった。目がチカチカする。殴られたと気付いたのは、瓦礫の上に叩きつけられた後だった。

「カネ持ってねえなら生きてんじゃねえよ、ゴミがっ!!」

 二人がかりで蹴られる。体重の乗った蹴りで息が詰まる。せめて頭とお腹は守らないとと、両手で頭を抱えて丸くなった。

 何度も何度も蹴られて、頭を踏みつけられる。

「これに懲りたら、二度と変な真似すんじゃねー……ぞっ!」

 頭を守っている手に、強烈な衝撃が走った。

 ――鈍い音がした。

 男が舌打ちする。

「……ちっ、なんだ今の」

「どうした?」

「なんでもねえ。行くぞ」

 男たちはなにか話しながら去っていく。

 その話し声が聞こえなくなってさらにしばらく経ってから、クサヴェルは体を起こした。

「…………」

 さっきまで確かにあった痛みが、いつの間にか消えていた。

 生き返ってから変なことが、自分の体に起こっている。

 でも、それよりも。

「生きなきゃ」

 生きなきゃ、幸せになれない。

 まずは、生き延びなきゃ。

 どんな手を使ってでも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ