同じ画面(エレベータ編)
僕は、20Fのボタンを押した。
エレベーターには先客がいて、10Fのランプが灯っている。
落ち着いた香水の香りが、ほんのりと漂っていた。
扉が閉まる。
籠が動き始める。
室内は無言だった。見知らぬ人同士なら、エレベーターで会話はしない。
いつからか、そうなった。この国のマナーだ。
駆動音が下がり、6Fに止まった。
扉が開く。
掃除用具の入った籠を押したおばさんが立っていた。
「あらあら、ごめんなさいね。あ、7Fお願いします」
おばさんは、すいっと乗り込んでくる。
扉が閉まる。
エレベーターは、また上り始めた。
「……ごめんなさいね。お邪魔だったかしら」
僕は、初めて室内の女性に目を向けた。
彼女の方も、こちらを見ていた。
室温が、少しだけ上がった気がした。
二人とも、慌てて視線を逸らす。
7Fに着いた。
「がんばれ」
おばさんは僕の背中をぽんと叩いて、エレベーターを降りていった。
僕は、閉のボタンを押す。
振り返るわけにはいかなかった。
顔に血が昇っているのが、自分でもわかる。
背後で、くすりと笑い声がした。
10F。
彼女が降り、振り返る。
「西原です。あなたは?」
僕は、咄嗟に開のボタンを押していた。
「佐藤です。あの……」
彼女は付箋に何かを書き、僕に渡す。
「では、また明日。おやすみなさい」
彼女はくるりと背を向け、歩き出した。
エレベーターのブザーが鳴り、僕はボタンから手を離した。
僕の携帯に、彼女の電話番号が増えた。
かける勇気は、まだない。
画面には、20Fのランプだけが灯っていた。




