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誰にも望まれなかった少女と、彼女を選んだ鎧

掲載日:2025/12/18

王国に、

彼女の名前を知る者はいなかった。


名がなかったわけではない。

ただ――

誰も、知ろうとしなかっただけだ。


少女は、路上で食べていた。

固くなったパン。

残飯。

誰かが落としたもの。


風呂に入らなかったのではない。

入ることを、許されなかった。


その身体は、悪臭を放っていた。

そして――

それだけで、彼女は罪人になった。


「汚い」

「不吉だ」

「王国を汚す」


ある日、

裁きも、優しい言葉もなく、

彼女は追放された。


城壁の外へと連れ出され、

門は――

問題を閉じるように、閉められた。


少女は歩いた。

歩き続けた。


やがて空腹で脚が折れ、

地に倒れた。


その時、

彼女は理解した。


――誰にも気づかれないまま、

自分は死ぬのだ、と。


呼吸が弱まり始めたその時、

声が聞こえた。


「死ぬなら……

歩きながら死ね」


声は、

枯れ果てた庭園から聞こえてきた。


そこにあったのは、

白い鎧だった。


埃にまみれ、

ユニコーンの紋様が刻まれている。


壊れていて、

忘れ去られていて――

まるで、彼女自身のようだった。


「食べ物を与えられる」

「水も与えられる」

「……君を、きれいにできる」


少女は、黙って頷いた。


彼女が触れた瞬間、

鎧は身体に溶け込むように装着された。


汚れを洗い流し、

金属と光で、彼女を包み込む。


「その代わりに」

鎧は言った。


「……私を、捨てないで」


少女は、約束しなかった。


約束の仕方を、

教えられたことがなかったから。


こうして二人は旅をした。


誰にも望まれなかった少女と、

誰にも求められなかった鎧。


やがて、

震える王国へと辿り着く。


冥界が、戦争を宣言していた。

王女を、

生贄として差し出せと。


王女は拒んだ。

軍は、躊躇した。


――少女が、前に出た。


英雄のようには戦わなかった。

ただ、

すでに捨てられた者として戦った。


戦いは、凄惨だった。


鎧は砕け、

少女は血を流した。


それでも――

二人で、冥界の王を倒した。


静寂が訪れた時、

王国は、跪いた。


名前を与えた。

居場所を与えた。

家を与えた。


彼女は、受け取った。


――数年後。


短い知らせが届く。


かつて彼女を追放した王国は、

飢饉と疫病、

そして内戦によって滅びた。


誰も、救いには行かなかった。


少女は、笑わなかった。

喜びもしなかった。


ただ、

こう思った。


――もし、

あの時私が死んでいたら。

この王国も、

同じ運命を辿っていただろう。


そして初めて、

彼女は理解した。


見捨てられることより、

もっと残酷な真実を。


王国は、

怪物によって滅びるのではない。


最も救いを必要とする者を

拒んだ時に――

自ら、滅びるのだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は、

「選ばれなかった存在」に光が当たる童話を書きたいと思い、生まれました。


もし少しでも心に残るものがあれば、

評価・ブックマークをしていただけると励みになります。


同じく、少し歪んだ童話や短編作品を他にも投稿していますので、

よろしければ作者ページから読んでいただけたら嬉しいです。


本当に、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
叙事詩のようで不思議な読み応えのお話でした! 最後の文章がとても心に残ります。
確かに弱き者を助けられなかったり、そういった倫理観を持たない国は滅びますね。 鎧との対比が良かったです。 あれだけ心に傷を負った少女は、その後約束できる大人になれたのかな?と願いにも似た未来に想いを馳…
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